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展覧会を巡る、一年を振り返る、そんな『展覧会の絵』で... [2014]

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恐ろしいくらいに澄み切った空を見上げると、冬を強く感じさせられる。他の季節にはない、独特な緊張感というか、混じりけのない青一色の空の、どこか無機質にも感じられる超然とした広がりは、抽象表現主義の絵画と対峙した時のような、何とも言えない心地にさせられる。もちろん、寒いのはたまらないのだけれど、張りつめた冬の空気感は嫌いじゃない。なんて言いながら、秋に話しを戻してしまして... 「芸術の秋」ということで、クレーボッテイチェッリロスコベックリンと、クラシックの中の美術を探って来たこの秋。季節はすでに冬となりましたが、その締め括りに、音楽により展覧会を再現するという決定版、『展覧会の絵』を聴いてみようかなと...
ジョス・ファン・インマゼール率いる、ピリオド・オーケストラ、アニマ・エテルナの、ムソルグスキーの組曲『展覧会の絵』(Zig-Zag Territoires/ZZT 343)を聴く。

美術と音楽の関係性を見つめるならば、やっぱりこの作品を外すわけには行かない... ということで、その締めには最高な1曲かなと... で、改めて聴いてみると、そこに年末感が広がるようで... 展覧会を巡る感覚が、今年一年を振り返る感覚に似ているのか?第九には敵わないにしても、年末のレパートリーにしてもいいような気がする、『展覧会の絵』。ムソルグスキー(1839-81)の友人だった建築家で画家、ヴィクトル・ハルトマン(1834-73)の遺作展を音楽で再現した異色の組曲は、1874年、まずピアノのための組曲として誕生する。が、その作品は今日における人気とは裏腹に、発表されることなく、作曲家の手元で眠り続けることに... という『展覧会の絵』を世に送り出したのが、リムスキー・コルサコフ。ムソルグスキーの死後、その遺品の中から見つけ出され、出版(1886)。ここから、一気に広がりを見せた『展覧会の絵』。やがてオーケストレーションも施され、よりヴィジュアライズされた音楽へと昇華され、クラシックに欠かせないレパートリーに成長するわけだ。
そして、ここで聴くのは、最も一般的な、1922年、ラヴェルによりオーケストレーションされたヴァージョン。それを、その当時のサウンドで捉え直す、インマゼール+アニマ・エテルナ... ピリオドでもって、プーランクにまで踏み込んだ彼らにとっては、フランス印象主義なんてのは、すでにお手の物。ロシア音楽だって、リムスキー・コルサコフの『シェヘラザード』と素直に向き合い、より魅力的な音楽を展開し... となれば、ラヴェル版、『展覧会の絵』(track.6-20)も、特に気負うことなく、徹底してマイペースにやってのける。で、それができて、また驚かされるインマゼール+アニマ・エテルナの『展覧会の絵』!第1次大戦後、1920年代ともなれば、まさに時代は"モダン"であって、"ピリオド"で捉えてどれほどの差異が生まれるのか、正直、懐疑的なところもある。が、今までのイメージは何だったのか?!というくらいに新鮮な音楽像を提示し得てしまうのが、インマゼール+アニマ・エテルナ。ムソルグスキーの尖がった個性、ラヴェルならではの華麗さ、そうしたものに惑わされず、スコアを読み切って見えて来る真新しさ。ヴィジュアライズするケレン味ではなく、より「音楽」として迫る切り口が新鮮。
『展覧会の絵』にして、「絵」にこだわらない。ピリオドならではの姿勢というのか、いつものように、あるがままを音にする作為の無さから生まれる、思い掛けないおもしろ味!いつものインマゼールならば、ピリオド楽器の癖を出汁に旨味を引き出すマジックを掛けるわけだが、それが叶わない中でもマイペースを崩さず、それどころか、より淡々と音楽を紡ぎ出すことで、癖が生まれる妙。プロムナードの飄々とした軽やかさに始まって、「キエフの大門」(track.20)をくぐった先までライトに聴かせ、それによって音楽の構造をさらりと見せて、様々な絵画が飾られた展覧会の豊潤な雰囲気で包むことなく、1曲1曲を克明に捉えるクリアさ!1920年代のピリオドの楽器の、癖が洗練され明朗な響きを生み出せるに至った響きのクリアさこそを活かす視点、これが見事に効いている。モダンのクリアさとは違う、生まれたばかりのクリアさを再現するクリアさ、その輝きが生む瑞々しさ!どこか仄暗さを感じるムソルグスキー作品なのだけれど、そういうトーンを払拭して生まれる、思い掛けない輝き!そういう輝きから、「キエフの大門」(track.20)の壮麗なフィナーレを迎えると、かえって感動が湧き上がり、ノックアウト!何なんだ、この『展覧会の絵』... 淡々としながら輝かしく、しっかりと深い感動があるとは...
そうしたインマゼール+アニマ・エテルナの指向をまたさらに際立たせるのが、『展覧会の絵』の前に取り上げられる、ラヴェルの『マ・メール・ロワ』(track.1-5)。ラヴェルならではの色彩感を、淡々と音にして生まれるクリアさ... そういうクリアさから見つめる、ラヴェルの音楽の息を呑むような清廉な美しさ!『マ・メール・ロワ』ならではのやさしげな表情を、このクリアさで捉えると、もうヘブンリー!それでいて、意外にも表情に起伏が出て、お話しとしての魅力もしっかと感じられるから絶妙。『展覧会の絵』も含めて、ラヴェルのオーケストレーションの巧みさ、音への鋭敏にして繊細な感性を、今、改めて詳らかとするインマゼール+アニマ・エテルナ(彼らの演奏、一段と水際立った印象を受けるのだけれど... )の演奏に感服させられる。何より、そういう演奏で聴く、『マ・メール・ロワ』、『展覧会の絵』は、これまでイメージを越えて、果てしない広がりを感じさせ、どこか超然とすらしており。それを"年末"に聴くと、たまらなく効いて来る。

RAVEL - MUSSORGSKY - JOS VAN IMMERSEEL - ANIMA ETERNA BRUGGE

ラヴェル : 組曲 『マ・メール・ロワ』
ムソルグスキー : 組曲 『展覧会の絵』

ジョス・ファン・インマゼール/アニマ・エテルナ

Zig-Zag Territoires/ZZT 343




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