SSブログ

ジョン・アダムズが掘り起こす、奇跡の鮮烈!『エル・ニーニョ』。 [before 2005]

7559796342.jpg
何だか、もの凄く寒くなって参りました。やっぱり、冬です。風邪などひいておりませんか?インフルエンザの流行が始まっているとのことですが、こちらは、ぼんやりと頭痛です... 風邪なのか、冷えたのか、ちょっと憂鬱な日々。一方で、この年の瀬です。じわりじわりと慌ただしさが増して、クリスマスだ、何だ、という余裕は無くなりつつあって... それでいて、ニュースに映し出される世間や世界は、何だか物々しく... 今年を表す漢字が「税」?2014年の世知辛さを強烈に表現する一文字に中てられてしまう。いや、だからこその、クリスマスなのかなと、ふと思う。ケーキだ、イルミネーションだ、というクリスマスではなく、2014年前の奇跡としてのクリスマス。汲々と煮詰まったところに、あり得ないことが起きて、その衝撃から得られる、浄化?とでも言うのか...
そういう、クリスマスの原点に還る音楽、ケント・ナガノが率いたベルリン・ドイツ交響楽団の演奏、ロンドン・ヴォイセズ、ラ・メトリズ・ドゥ・パリのコーラス、シアター・オブ・ヴォイセズのカウンターテナーのアンサンブル、ドーン・アップショウ(ソプラノ)ら、ニュートラルな個性を持つ歌手たちによる、ジョン・アダムズ、キリスト降誕オラトリオ『エル・ニーニョ』(NONESUCH/7559-79634-2)を聴く。

ニュー・ミレニアムを迎えた2000年、パリで初演されたジョン・アダムズのキリスト降誕オラトリオ、『エル・ニーニョ(スペイン語で、小さな男の子を意味し、幼子イエスを示す... )』。"キリスト降誕オラトリオ"と銘打たれている通り、イエス・キリストの降誕の奇跡を描く... が、単に聖書をなぞるのに留まらないのが、ニュー・ミレニアム!降誕を歌う古いイギリスの詩に始まり、中世後期に遡るウェイクフィールドの神秘劇、外典福音書からの一節、ゴシック期、ドイツの神秘家、ヒルデガルト・フォン・ビンゲン、バロック期、メキシコの詩人、修道女フアナ・イネス・デ・ラ・クルス、さらに、ガブリエラ・ミストラル、ロサリオ・カステジャーノス、ルベン・ダリオ、ビセンテ・ウイドブロと、ラテン・アメリカ文学を代表する作家、詩人たちの詩が織り込まれ... ラテン語、英語、スペイン語が錯綜し、独特な風合いを持ったイエス・キリストの降誕の奇跡を描く、『エル・ニーニョ』。そこには、ありがたや、クリスマス!という、伝統的な雰囲気はなく、鋭く迫って来る英語の響き、どこか艶めかしくもあるスペイン語の響きがスパイスを効かせ、古雅なラテン語による聖書の世界を攪乱し、思い掛けなく、ドラマティックなパノラマを展開する。
そのパノラマを生み出す、ジョン・アダムズならではのポスト・ミニマルな音楽の雄弁さ!際立ったリズムが生み出す力強い響きが、それまでのクリスマスの音楽のイメージを覆し、とにかくエモーショナル。いや、久々に聴いてみると、こうもエモーショナルだったかと驚かされるほどで、何よりそのエモーショナルさに強く引き込まれる。ロマン主義的な感動の押し売りではない、あくまでもリズムに乗ってクールに展開される、ニュー・ミレニアムなセンスに貫かれたエモーショナルさ... だからこそ、芯からエモーショナルに成り得ていて、それはロックに通じる感覚なのかもしれない。そして、そういう部分も含め、新たな千年紀を切り拓こうという、ジョン・アダムズの並々ならぬ意気込みが凄い。キリスト降誕という、極めて保守的なテーマを選びながらも、そこからより豊かなイマジネーションを広げつつ、クリスマスの原点へと還るような興味深さ... ゴテゴテと飾り立てられた宗教性を排し、聖書に描かれたのではなく、リアルな中に現れた奇跡の衝撃を鮮やかに音楽にし、現代を生きる聴き手に宗教を越えた福音をもたらすような、圧倒的なパワー!理屈抜きの感動がうわっと湧き上がって、何だか癒されてしまう。
という『エル・ニーニョ』を聴かせてくれるのが、この作品を初演したケント・ナガノ... まさに、このマエストロらしい、このマエストロだからこその作品でもあって、ジョン・アダムズの意気込みが籠められたスコアを的確に読み、きっちりと音にする明晰な指揮ぶりは、さすが... 単調なイメージを持たれかねないミニマル・ミュージックだけれど、けしてそう単純ではなく、なおかつポスト・ミニマルともなれば、よりフレキシブルにリズムが織り成され、一筋縄では行かないのだが... そうしたあたりもさらりとこなし、なおかつ、ケント・ナガノのいつものセンスからは一歩踏み出し、よりエモーショナルな音楽を志向する姿勢が印象的。オーケストラ、コーラスを駆使してのパワフルな演奏は、時に凄味すら感じられる。そんなマエストロに応える、ベルリン・ドイツ響... ケント・ナガノのスタイリッシュさを、重厚感のあるドイツのサウンドで鳴り響かせて生まれるヘヴィーさは、本当にカッコいい!
で、スタイリッシュかつヘヴィーなサウンドの上にしっかりと立ち、パワフルに歌い上げるアップショウ(ソプラノ)、ハント・リーバーソン(メッゾ・ソプラノ)、ホワイト(バリトン)の、中身の詰まった歌声も見事!聖書の中の登場人物たちを歌いつつも、息衝くドラマを生み出していて、この作品のエモーショナルさを加速させる。一方で、おもしろいアクセントとなっているのが、シアター・オブ・ヴォイセズの3人のカウンターテナーによるアンサンブル。リアルさが強調される中、その浮世離れした高い声は、天使か?精霊か?こういうトーンがあって、奇跡が奇跡たる不思議さを絶妙に醸し、とても印象的。で、もちろんコーラスも圧巻!忘れ難いのは、最後、こどもたちのコーラス、ラ・メトリズ・ドゥ・パリの透明感を湛えた歌声... その真っ直ぐさが、心に沁みる...
しかし、ニュー・ミレニアムのクリスマスの音楽の、何たる力強さ!キリスト教を信仰する、しない、という次元を越えて、奇跡を目の前にした時、我々はどんなリアクションを取るだろう?そんな現代的な視点を、ヨセフやマリアに与えて、聖書の物語を活き活きと蘇らせてしまう大胆さ。そういう音楽に触れていると、何か魂を揺さぶられるようで、聴き終えた頃には浄化されたよう。

JOHN ADAMS EL NIÑO

ジョン・アダムズ : キリスト降誕オラトリオ 『エル・ニーニョ』

ロレイン・ハン・リーバーソン(メッゾ・ソプラノ)
ドーン・アップショウ(ソプラノ)
マシュー・ホワイト(バリトン)
シアター・オブ・ヴォイセズ
ロンドン・ヴォイセズ、ラ・メトリズ・ドゥ・パリ
ケント・ナガノ/ベルリン・ドイツ交響楽団

NONESUCH/7559-79634-2




nice!(1)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:音楽

nice! 1

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。