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ベルリオーズ流、擬古典主義?オラトリオ『キリストの幼時』。 [before 2005]

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クリスマスに向けて、クリスマスな音楽を聴いてみる。ということで、先日、ドイツ・バロックにおけるマニフィカトを聴いたのだけれど... いやいや、マニフィカト(厳密にはクリスマスではなくて、クリスマスが待ち切れない!という音楽... )ばかりではない!クラシックを見渡せば、クリスマス関連の作品の多さに驚かされる。やっぱりクラシックというのは、キリスト教会と切っても切れない関係にあるのだなと... そもそも、音楽史の始まりが、教会音楽の発展であり、そこから如何にして俗世へと音楽を引き込むか、という試行錯誤こそが、音楽史の歩みだったように感じるわけで... ならば、キリスト教会にとって最も重要なイエス・キリストの降誕を祝うクリスマスは、クラシックにとっても欠かせない。改めて、そういう視点から、クリスマスをガッツリと聴いてみる12月...
フィリップ・ヘレヴェッヘ率いる、ラ・シャペル・ロワイアル、コンチェルト・ヴォカーレのコーラスと、ピリオド・オーケストラ、シャンゼリゼ管弦楽団の演奏、ヴェロニク・ジャンス(ソプラノ)、ポール・アグニュー(テノール)ら、ピリオドで活躍する実力派歌手を揃えての、ピリオドによるベルリオーズのオラトリオ『キリストの幼時』(harmonia mundi FRANCE/HMC 901632)を聴く。

ベルリオーズの音楽というと、灰汁の強い印象がある。が、オラトリオ『キリストの幼時』は、その対極にあるようで、また独特... いや、奇妙というか、際立っておもしろい経緯を持つ作品でもあり... ひょんなことからベルリオーズが生み出した架空の存在、バロック期の作曲家、ピエール・デュクレ(友人の建築家、デュックの名前をもじった... で、このデュックの何気ないリクエストが、オラトリオの端緒となる... )により、1679年に作曲された合唱作品(当然、古雅なスタイルによる... )として、第2部、第2曲、「羊飼いたちの聖家族への別れ」(disc.2, track.2)が発表(1850)され、何も知らない批評家連は、ベルリオーズがバロック期のすばらしい合唱曲を発掘したと喝采!という様子を見ながら、新たに曲を加え、今度はベルリオーズ名義で、カンタータ「エジプトへの避難」を発表(1852)。これが、やがて第2部となる。そして、このカンタータの好評を受けて、より大規模に、キリストの幼時を描き出すオラトリオを構想したベルリオーズ... キリストがエジプトへ避難しなくてはならない原因となるヘロデ王の夢(幼時虐殺を引き起こす... )を第1部(disc.1)とし、苦難の果てエジプトへと到着した聖家族の様子を第3部(disc.2, track.4-9)で描き、1854年、オラトリオ『キリストの幼時』が完成。大成功する。
という具合に、ベルリオーズのちょっとしたいたずらに始まったオラトリオ... というだけに、「オラトリオ」としての大枠があって作曲されたのとは違う、どこかで行き当たりばったりな、一貫性に欠ける帰来もあるのかもしれない。それでいて、大オーケストラを擁しながらも、必ずしもそれらがフルに鳴り響くことはなく、2本のフルートとハープによる小品(disc.2, track.7)なども差し挟まれ、最後はア・カペラのコーラスで閉じられるという、ヴァラエティに富むナンバーの数々には、継ぎ接ぎ感もあるような、無いような... 何より、端緒となった合唱曲が、バロック期の作曲家によるという設定だけあって、古雅にして清廉な響きが大部分を占め、灰汁の強いベルリオーズにしては、ある種、異様?いや、「異様」こそベルリオーズか?ひとつのオラトリオとしてはまとまりの弱さを感じつつ、盛り上がりにも欠けるのだけれど、そこに得も言えぬおぼろげなイメージが浮かび上がり、古雅で清廉なあたりが、そのあたりを強調し、見事に雰囲気を生み出してしまうから凄い。それでいて、次第に音が減って行き、やがてア・カペラのコーラスだけが残り、そのフェード・アウトが生む得も言えぬ安らぎに満ちた最後... 最後の「アーメン」に触れた時の天国にいるような心地と、心の澱が全て洗い流されるような境地に、深く感動を覚える。
というオラトリオの、古雅で清廉なあたりをより際立たせるヘレヴェッヘの指揮、ラ・シャペル・ロワイアル、コンチェルト・ヴォカーレのコーラス、シャンゼリゼ管の演奏... ルネサンスもレパートリーとする、ラ・シャペル・ロワイアル、コンチェルト・ヴォカーレだからこその清冽なハーモニーが、ア・カペラなどの古雅な雰囲気を醸すナンバーをより引き立てていて。また、シャンゼリゼ管のピリオドならではの朴訥なサウンドが、いい具合に味わいとなり、起伏に欠けるようにも感じられる音楽に、絶妙な表情を生み出していて、印象的。そして、それらを巧みにまとめるヘレヴェッヘ... どこか散文的なこのオラトリオをそのままに、すっきりと響かせて、瑞々しいサウンドを引き出し。ベルリオーズの音楽にして、いつの時代の音楽を聴いているのかわからなくなるような、不思議な感触をもたらす。『キリストの幼時』を擬古典主義の先駆けとするならば、それをピリオドで捉えることで、攪乱されるイメージもあり。それがまた、ベルリオーズという強い個性を薄めて、何かまっさらな音楽が、新たに湧き上がるかのよう。そのピュアな音楽像の美しさが、思い掛けなく鮮烈!

Berlioz ・ L'Eenfance du Christ ・ Herreweghe

ベルリオーズ : オラトリオ 『キリストの幼時』 Op.25

ヴェロニク・ジャンス(ソプラノ)
ポール・アグニュー(テノール)
オリヴィエ・ラルエット(バリトン)
ヘロデ : ラーロン・ナウリ(バス)
フレデリック・キャトン(バス)
ラ・シャペル・ロワイアル、コレギウム・ヴォカーレ
フィリップ・ヘレヴェッヘ/シャンゼリゼ管弦楽団

harmonia mundi FRANCE/HMC 901632




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