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ノスタルジーが沁みる、『ばらの騎士』組曲。 [before 2005]

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さて、2014年も押し迫ってきました。で、ふと思い出す。今年のメモリアル・コンポーザーについて... そうそう、リヒャルト・シュトラウスの生誕150年のメモリアルだった... というリヒャルトの音楽、春にいくつかアルバム(ツァラトゥストラ、家庭交響曲、ホルン協奏曲)を取り上げたのだけれど、その"いくつか"に留まっていたなと... そこで、思い出したようにリヒャルトを聴いてみる。いや、リヒャルトの音楽というのは、何かこう、年の瀬感が漂うような気がして... ゴージャスなオーケストレーションが生む、キラキラとしたサウンドは、クリスマスなどの華やぎを思わせつつ、やがてそれが終わってしまう寂しさも滲み、何とも言えない心地にさせられる。ような。
そんなリヒャルトの、年の瀬感をより感じさせる、魅惑的なオペラの数々から... アンドレ・プレヴィンの指揮、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の演奏で、リヒャルト・シュトラウスの『ばらの騎士』組曲(Deutsche Grammophon/437 790-2)を聴く。

嗚呼、何とゴージャス、それでいて、何て切ないのだろう!久々に『ばらの騎士』組曲を聴くと、妙に沁みる(って、年喰ったってこと?)。改めて『ばらの騎士』の物語を振り返れば、一筋縄では行かない心の機微が読み取れ、そうしたあたりを見つめてしまうと、ちょっと心を掻き乱される思いがする。オックス男爵という人騒がせな田舎者の登場で引き起こされる、他愛も無いラヴコメなのだけれど、その楽しげな表情の裏に世代交代が織り込まれていて。旧世代(元帥夫人)は去り、新世代(オクタヴィアンとゾフィー)が次なる一歩を踏み出すという、うつろいに、「もののあはれ」を感じたり... モーツァルトの時代のウィーンを舞台に、ウィンナー・ワルツに彩られ、極めてヨーロッパ的な情景を見せながらも、どこか東アジアに通じる感性があるような... 東西を結んだウィーンの性格なのか?この独特なテイストが、聴く者のセンチメンタルをより刺激するようで、沁みるのかも。
という、『ばらの騎士』のエッセンスを煮詰めたような、組曲... ここで取り上げられるのは、1945年、ブージー・アンド・ホークス社から出版されたヴァージョン(ロジンスキによるアレンジ?リヒャルトも公認していた、最も一般的なもの... )。物語に関係なく再構成され、組曲というよりは、様々な素材を巧みに編み上げて、交響詩のようにまとめ上げているのが特徴。で、このアレンジが見事!物語を律儀に追わずとも、物語に底流する"うつろい"をすくい上げ、物語をしっかりと凝縮し、オペラが持つ味わいを鮮やかに響かせる。もちろん、ゴージャスなワルツはふんだんに盛り込まれ、夢見るようにロマンティックで、常にどこかセンチメンタル、最後は刹那的に盛り上がり... エッセンスを煮詰めたことで、トゥー・マッチにも思えるのだけれど、それすら魅力と成し得てしまうのがこのヴァージョンの凄さか。またそこに、古き良き「ヨーロッパ」の美しい黄昏の風景が浮かぶようで、何だか泣けて来る。とにかく盛りだくさんなのに、どこか寂しげなのはなぜ?20世紀が失った全てがそこにあるからか?
そんな『ばらの騎士』組曲に続くのが、『インテルメッツォ』からの4つの交響的間奏曲(track.2-5)、『カプリッチョ』からの序奏(track.6)と月の音楽(track.7)。『ばらの騎士』で折り返したリヒャルトの作曲家人生、後半のオペラからの音楽は、やはり懐古的なトーンに包まれて。一方で、『ばらの騎士』とはまた違った感覚もあり、『インテルメッツォ』では、擬古典主義的なライトさで繰り出され、リヒャルトの後半生を取り巻いていたモダニズムを意識させるところも... という『ばらの騎士』とその後のオペラからの作品を聴いた締めに、リヒャルトが未だ挑戦的だった頃、『サロメ』から7つのヴェールの踊り(track.8)が取り上げられるのだけれど、これこそが意外と保守的(ロマン主義の典型としてのエキゾティシズム... )に聴こえて来るからおもしろい。また、7つのヴェールの踊りから『ばらの騎士』組曲を振り返れば、実はそこに表現主義的な色合いが聴き取れて、懐古的ではあっても、必ずしも完全なる後退ではなかったリヒャルトの音楽というものを見出し、興味深く感じる。
という具合に、リヒャルトのオペラをセンス良く並べたプレヴィン。『ばらの騎士』から、最後のオペラ、『カプリッチョ』に至って、『サロメ』へと戻る妙!リヒャルトの音楽を俯瞰して、その音楽の本質を探るような導きの巧みさに感心させられる。そして、何と言ってもウィーン・フィルの冴え渡る演奏!細部まできっちりと表現し、甘いところが無い... だからこその極上のスウィートさ!豊潤さ!『ばらの騎士』組曲(track.1)なんて、もう夢見るよう!で、そこには、プレヴィンならではのわかり易い音楽作りが反映されて... ハリウッドでも活躍したプレヴィンだけに、どこか往年の映画音楽を思い起こさせるところがあり、ハリウッド―ウィーンの感性の共鳴が、鮮やかにリヒャルトの音楽を引き立てる!そんな音楽を聴いていると、遠い記憶にある遊園地に迷い込んだような、不思議な懐かしさが込み上げて、見えるもの全てがキラキラと輝いて、楽しいのだけれど、ノスタルジーに押しつぶされそうな心地に... でもって、ただならず沁みるわけだ。

R.STRAUSS: ROSENKAVALIER-SUITE U.A.
WIENER PHILHARMONIKER/PREVIN


リヒャルト・シュトラウス : 楽劇 『ばらの騎士』 組曲
リヒャルト・シュトラウス : オペラ 『インテルメッツォ』 から 4つの交響的間奏曲
リヒャルト・シュトラウス : オペラ 『カプリッチョ』 から 序奏 と 月の音楽
リヒャルト・シュトラウス : オペラ 『サロメ』 から 7つのヴェールの踊り

アンドレ・プレヴィン/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

Deutsche Grammophon/437 790-2




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サンフランシスコ人

サンフランシスコ歌劇場の『ばらの騎士』をサンフランシスコのオペラハウスで観ることが出来ました.....

http://archive.sfopera.com/reports/rptOpera-id337.pdf
by サンフランシスコ人 (2016-01-23 07:42) 

carrelage_phonique

キャー!スイマセン... 思わず悲鳴をあげてしまいました。pdfを見て、つい...

まず、マッケラスで『ばらの騎士』ですか?!聴いてみたい!
で、シュターデ、ロットと、手堅くも、ベストなキャスティング。
(元帥夫人って、ロットのイメージが凄くあって... )

でもって、シェーファーのアメリカ・デビュー?!
いやはや、凄い舞台でしたね。
というより、サンフランシスコのオペラ、素敵過ぎ...



by carrelage_phonique (2016-01-23 18:47) 

サンフランシスコ人

「元帥夫人って、ロットのイメージが..」

ロットの元帥夫人は上品で優雅でした...
by サンフランシスコ人 (2016-01-24 06:26) 

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