ドイツ・バロックのハッピーなマニフィカト。 [before 2005]
はい、12月になりました。あらゆることが、ウワっとやって来て、何が何だかわからん内に、クリスマスで、気が付いたら紅白を見ていて、年越しているという、12月... どうも、時計が、加速度的に進むような気がするのだけれど、物理学的見地からすれば、そんなことはあり得ない。あり得ないのだけれど、やっぱり... でもって、その加速度的なあたりに付いて行けず、焦ってしまって... ふぅ、12月は苦手であります。いや、12月の加速度に抗うから、変に焦ったりするのかも?ならば、自ら時計の針を先に進めてしまえ!ということで、クリスマスな音楽を今から聴いて行こうかなと。で、イエスを身籠ったマリアが、その歓びから神を讃えて歌った賛歌、マニフィカト!イエス降誕=クリスマスを前に、ワクワク感で溢れるハッピーな場面をバロックの音楽で聴く。
ライプツィヒのトーマスカントル、バッハの前任者、クーナウと、バッハと親交のあったドレスデンの宮廷の教会音楽のトップ、ゼレンカのマニフィカトに、もちろんバッハのマニフィカトも取り上げて、ドイツ・バロックにおけるマニフィカトの諸相を捉える興味深い1枚、鈴木雅明率いる、バッハ・コレギウム・ジャパンのアルバム、"Magnificat"(BIS/BIS-CD-1011)を聴く。
始まりは、バッハの一世代上、クーナウ(1660-1722)のマニフィカト(track.1-12)... バッハ以前(バッハがトーマスカントルに就任するのが、1723年... )のライプツィヒの音楽を垣間見る作品... そして、あの膨大なバッハのカンタータが、どういう流れで生み出されたかを知るクーナウによる教会音楽の興味深さ... 音楽が劇的な進化を遂げるバロック期、イタリアの挑戦的な新しさ、派手なサウンドとは一線を画す、ライプツィヒの街がある中部ドイツのローカル性と言うのか、素朴で、実直な音楽だからこその、得も言えぬ温もりには、バッハの教会音楽と同じ匂いを見出す。それでいて、飾らないからこそ生まれるキャッチーさ!続く、ゼレンカ(1679-1745)のハ長調のマニフィカト(track.13-16)でも、そんな音楽が聴こえて来て。ナチュラルに繰り出されるソプラノが歌うメロディーの美しさ!素直さから生まれる音楽の瑞々しさ、輝きには、どこか心が洗われる思いがする。
が、それだけに終わらないのがゼレンカ... 音楽的に独特の色彩感を持つチェコの出身で、バッハも目指したドイツ切ってのザクセン選帝侯のドレスデンの宮廷で活躍したゼレンカだけに、もうひとつ取り上げられるニ長調のマニフィカト(track.17-19)では、ゼレンカならではのヴィヴィットなサウンドと、ザクセン選帝侯の宮廷の豪奢さが響き、素朴さだけではない魅力も... ロッティ、ヴィヴァルディら、バロック期、最先端にあったヴェネツィアの楽壇と深いつながりがあったドレスデンだけに、ゼレンカの音楽にもイタリア的な華麗さを意識したものが聴き取れ。また、プロテスタントが主流であった中部ドイツにあって、カトリックを信仰したザクセン選帝侯(ポーランド王へ選出されるために改宗していた... )の、カトリックならではの荘重さもあるのか。そこに、バロック期、アルプス以北の音楽の中心地として繁栄したドレスデンの、規模の大きなオーケストラとコーラスが生み出す重厚さが広がり、冒頭から惹き込まれる。オーケストラによるリズミックでキャッチーな序奏に続いて、ポリフォニックなコーラスの荘厳さに圧倒され、そこからソプラノによるイタリア的な華麗なメロディーがリードし、高らかに鳴り響くブラス、打ち鳴らされるティンパニ、何とゴージャスな!インターナショナルで、壮麗、豪奢なドレスデン・バロックに魅了される。
そこから、バッハのマニフィカト(track.20-31)を聴くのだけれど... ゼレンカの後で聴くと、その音楽は不思議とカラフルに感じられ、それでいて何とも言えずポップに思えて来るからおもしろい。今でこそ「音楽の父」と呼ばれ、圧倒的な尊敬を集めるバッハだが、バッハが生きた時代に遡れば、極めてローカルな存在であって、その音楽もイタリアの最先端に比べれば、オールド・ファッション... 豪奢なドレスデン・バロックと比べれば、田舎臭い... で、バッハにしては花やかな音楽を繰り広げるマニフィカトの、その「花やか」に、より田舎臭さを感じるのかもしれない。が、それこそが味わいとなっているのもまたマニフィカト。花やかであることに躊躇の無い、格好つけない素直な歓びに溢れた音楽は、かえってキラキラと輝くようであり、ゼレンカに引けを取らない。というより、クリスマスのワクワク感は、バッハこそピカ一かも... 豪奢な宮廷ではなく、商都の市民に寄り添った音楽の、気の置けない気分と素直な歓び... だからこそカラフルであって、ポップなのかもしれない。で、ハッピー!
そんな、ドイツ・バロックにおけるマニフィカトの諸相を鮮やかに捉えた、鈴木雅明+バッハ・コレギウム・ジャパン(以後、BCJと略... )。BCJらしい楚々とした精緻さ、そこから繰り出されるニュートラルなバロック像... からは、少し踏み込むようなところがあって、場合によっては艶やかで、どこかロマンティックな印象を受ける瞬間もあるのが興味深い... ジャケットにある木彫(聖母マリアとエリザベト、マニフィカトに因んだ2人... )の表情が、ぴったり?素朴だけれど、彩色されて何とも血色の良い2人の姿の息衝く雰囲気そのままに、活き活きとした音楽を繰り出す。それでいて、バッハの前世代とバッハの同世代、ライプツィヒのローカル性とドレスデンのインターナショナル性を巧みにひとつのディスクに盛り付けて、それぞれのマニフィカトのカラーを大切にしながらも、イエス降誕=クリスマスの晴れやかさで包む妙。
Magnificat (Kuhnau, Zelenka, J.S. Bach) ― Bach Collegium Japan/Suzuki
■ クーナウ : マニフィカト ハ長調 ****
■ ゼレンカ : マニフィカト ハ長調ZWV 107 *
■ ゼレンカ : マニフィカト ニ長調ZWV 108 **
■ ヨハン・セバスティアン・バッハ : マニフィカト ニ長調 BWV 243 *****
ミア・パーション(ソプラノ) *
野々下由香里(ソプラノ) *
太刀川 昭(カウンターテナー) *
ゲルト・テュルク(テノール) *
浦野智行(バス) *
鈴木雅明/バッハ・コレギウム・ジャパン
BIS/BIS-CD-1011
■ クーナウ : マニフィカト ハ長調 ****
■ ゼレンカ : マニフィカト ハ長調ZWV 107 *
■ ゼレンカ : マニフィカト ニ長調ZWV 108 **
■ ヨハン・セバスティアン・バッハ : マニフィカト ニ長調 BWV 243 *****
ミア・パーション(ソプラノ) *
野々下由香里(ソプラノ) *
太刀川 昭(カウンターテナー) *
ゲルト・テュルク(テノール) *
浦野智行(バス) *
鈴木雅明/バッハ・コレギウム・ジャパン
BIS/BIS-CD-1011
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