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ボッティチェッリを音楽で描いて... レスピーギ... [before 2005]

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ところで、今、ボッティチェッリが来ている?ボッティチェッリからブロンズィーノまでをテーマにウフィツィ美術館展が開催中で、来春にはボッティチェッリとルネサンスの展覧会があるらしいのだけれど... 日本人にとって「ルネサンス」と言えば、とにかくダ・ヴィンチ(1452-1519)なわけで、それがボッティチェッリ(1445-1510)と言うから、おおっ?!となる。一方で、ルネサンスそのものの明快さを見つめれば、ダ・ヴィンチの仄暗い画面は、どこか異質(『モナリザ』のミステリアスさには"中世"の匂いが漂うようで... 闇に浮かぶ『洗礼者ヨハネ』には、宗教戦争の闇が迫るルネサンス末、ティツィアーノやティントレットといった、次なる時代を予感させるよう... )に思えて来る。その点、ボッティチェッリの朗らかさ、例えば、代表作、『プリマヴェーラ』の、その"春"の花やぎは、ルネサンスそのもの!ダ・ヴィンチの思わせぶりとは違う、カラフルで、グラフィカル(というのが、ゴシックの名残にも感じるのだけれど... )なあたりがポップで、そのキャッチーな魅力は、現代的ですらあるのかもしれない。
さて、芸術の秋、クラシックの中の美術を鑑賞する試み、パウル・クレーに続いての第2弾は、そのボッティチェッリ!懐かしきクラウディオ・シモーネ率いる、イ・ソリスティ・ヴェネティの演奏で、レスピーギによるボッティチェッリの3枚の絵(ERATO/4509-92187-2)を聴く。

いやー、シモーネ+イ・ソリスティ・ヴェネティ、で、あります。ピリオド勢がブレイクする以前、バロックには欠かせない存在だった... ということは、何となくわかっているのだけれど、それら遠いこどもの頃の記憶で... そういうおぼろげな記憶を辿りながら、今、改めて、彼らのオールド・スタイルに触れてみると、ちょっと新鮮だったりする。で、それがまた活きるレパートリーを集めた1枚!レスピーギによる過去をリヴァイヴァルする4曲、ボッティチェッリの3枚の絵(track.10-12)はもちろん、リュートのための古風な舞曲とアリアの、第1組曲(track.13-16)と、第3組曲(track.1-4)、そして、組曲『鳥』(track.5-9)が並べられ、レスピーギによる擬古典主義の作品集と言えるのかも... しかし、レスピーギの過去への視点は、懐古的?近代主義ならではのドライさよりも、イタリアならではのカンタービレが強調され、ストラヴィンスキーやプーランク、ヒンデミットらの擬古典主義とは一線を画す独特な風合いがある。でもって、何よりライト!また、シモーネ+イ・ソリスティ・ヴェネティが放つふんわりとしたトーンが、イージー・リスニング的な魅力を際立たせるようでもあり、味になっているからおもしろい。
そうした中で、ボッティチェッリの3枚の絵(track.10-12)は、過去を素材としていない点で、レスピーギならではの鋭い感性が活き、より魅了されてしまう!『プリマヴェーラ』『東方三博士の礼拝』『ヴィーナスの誕生』と、ボッティチェッリの代表作、3作品をチョイスし、それぞれに活き活きと音楽で描かれるのだけれど... 春を告げる西風(ゼフュロス)を受けながら、次々と花々が開いて、神々の心も緩み、新しい愛が湧き上がるような『プリマヴェーラ』(track.10)の瑞々しさは、愛の寓意を描いた絵画そのもの... そこから一転、イエス降誕の喜びを描く『東方三博士... 』(track.11)では、厳粛な雰囲気の中にオリエンタルなトーンが顔を出し、東方からの三博士の到着を巧みに響かせていて、おもしろい... で、出色なのが『ヴィーナスの誕生』(track.12)!ボッティチェッリが描いた、貝に乗り、さざ波を渡り、ヴィーナスが現れる、何とも言えない瞬間を、レスピーギならではの色彩感を以って描き出す美しさ... 生まれたてのヴィーナスのピュアな表情と、そのヴィーナスを運ぶさざ波の心地良いリフレイン、どこか心許無かった音楽が、やがて雄弁に鳴り響き、美の女神の誕生を高らかに告げる鮮烈さ!絵画は、ひとつの情景を切り取ったものだけれど、音楽はそこに時間を与え、瑞々しいドラマを生み出すから、また惹き込まれる。で、それを器用に成し遂げるレスピーギのセンスの良さ!ボッティチェッリの描いた画面をこうも巧く鳴らすかと感服させられる。ボッティチェッリに徹底して寄り添い、それ以上でもそれ以下でもない絶妙なさじ加減... まさに、ボッティチェッリの傑作を音楽を通して見ることのできる希有な作品。美術と音楽の交感。
そこに欠かせない、シモーネ+イ・ソリスティ・ヴェネティの存在。バロックを得意とした彼らならではの音楽性と、それがまたオールド・スタイルとなってしまったアンティーク感が、レスピーギの過去をリヴァイヴァルする作品に絶妙に効いていて(ちなみに、この録音は、1987年、彼らのスタイルがまだ輝かしさを維持していた頃のもの... )、録音されて四半世紀を過ぎた今だからこそ味わえるものも間違いなくある。そして、その何とも言えない"クラシック"な響き!古き良きクラシックの時代の"クラシック"というのか、このふくよかな響きが紡ぎ出す感覚は、90年代、バロック・ロックを繰り出して、シモーネ+イ・ソリスティ・ヴェネティの居場所を奪った、同じイタリアのエッジイなピリオド・アンサンブルでは絶対に生み出せ得ない感覚。で、その感覚こそが、レスピーギの擬古典主義のライトさにマッチし、また、総天然色的なサウンドが、レスピーギの音楽の色彩感を刺激して、より鮮やかに響くのか... 時間を経て見えて来る、シモーネ+イ・ソリスティ・ヴェネティの確固たる音楽性... ある意味、オールド・スタイルにこそ、揺ぎ無い味わいを秘めていて、魅了されてしまう。

RESPIGHI/GLIUCCELLI/TRITTICO BOTTICELLIANO
CLAUDIO SCIMONE


レスピーギ : リュートのための古風な舞曲とアリア 第3組曲
レスピーギ : 組曲 『鳥』
レスピーギ : ボッティチェッリの3枚の絵
レスピーギ : リュートのための古風な舞曲とアリア 第1組曲

クラウディオ・シモーネ/イ・ソリスティ・ヴェネティ

ERATO/4509-92187-2




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