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オルランド・コンソート、ゴシックからルネサンスを煮込む、 [before 2005]

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芸術の秋、読書の秋、食欲の秋、スポーツの秋... 秋には、思いの外、いろいろなタイトルがあるけれど、ふと見渡せば、春でも、夏でも、冬でもなく、秋ばかりというのが、ちょっと不思議に思えて来る。それも、芸術から食欲まで、とても同じ季節とは思えない振れ幅で、改めて並べてみると、可笑しくなってしまう。てか、もう何でも秋!秋は大した大食漢だ。が、そこに「味わう」という言葉を引っ張って来ると、少し腑に落ちるように思う。芸術を味わい、秋の実りも味わう(ウーン、スポーツだけは納まり難いのだけれど... )。そうか、秋は味わう季節なんだ... ある意味、秋の全ては、「食」に通じるのかもしれない。ということで、"食欲の秋"を音楽で...
イギリスの古楽ヴォーカル・アンサンブル、オルランド・コンソートが歌う、ゴシック期からルネサンス期に掛けての、「食」にまつわる歌を集めた、大胆にして、実に興味深い1枚、"FOOD, WINE & SONG"(harmonia mundi FRANCE/HMU 907314)を聴く。

ロッシーニ風ステーキ(太っちょロッシーニがなぜ太くなったかを思い知らされる、フォアグラのせステーキ!)に、シャリアピン・ステーキ(歯に問題を抱えていたロシアの伝説のバスのために料理された、やわらかめ?特性ステーキ... )、ピーチ・メルバ(オーストラリアが生んだ伝説のプリマのお気に入りスウィーツ... )と、グルメな逸話には事欠かないクラシックだけれど、「食」を音楽にすることは、あまり見受けられない(ターフェルムジーク/テーブル・ミュージックはあるけれど、ディナーのBGMだし... )。さすがに、「食」は音楽にしづらいか?とういう中で、果敢に「食」に挑んだオルランド・コンソートの大胆不敵!それがまたゴシック期からルネサンス期に掛けてという、クラシックにおいては特殊なフィールド(というように「古楽」を扱うのは問題だよね... とわかりつつ... )だから、本当に凄い... で、さらに凄いのが、見事にゴシック期からルネサンス期へという流れを追い、バロック以前のヨーロッパを鮮やかに俯瞰していること!こうなって来ると、「食」はさて置き... となってしまうほど!
ノートルダム楽派の単声による素朴な歌で始まり、やがて声部が重ねられて、アルス・ノヴァ、マショーへと至る最初のチャプター(track.1-4)は、中世音楽を主導したフランスの音楽を捉え... その後で、音楽におけるルネサンスを生み出す端緒となったイングランド(track.5-7)のスウィートなサウンドが取り上げられ... スマートの"Nowell, nowell"(track.6)の軽やかさに触れれば、中世は去ったのだなと... そのイングランドに並べて、イタリアの様子を見つめる3つ目のチャプター(track.8-11)では、アルス・スブティリオールの作曲家、アントニオ・ザッカーラ・ダ・テーラモによる表情豊かなナンバー(track.8)がスパイスを効かせて... フィレンツェで活躍したフランドル楽派のイザークの明朗なポリフォニー(track.10)が響き、ルネサンスの花が咲く!そこから少し時間を戻し、ブルゴーニュ楽派を見つめる4つ目のチャプター(track.12-15)では、デュファイ(track.12)、バンショワ(track.13)と、ルネサンスの黎明を彩った作曲家による、フランス語の多声シャンソンが歌われ、しっとりと魅了... かと思うと、まるでどこかで聴いた童歌のような、いや、天正遣欧使節が日本に伝えたという、スペイン(track.16-19)の「ラ・トリコテア」(track.16)が飛び出し、びっくり!そして、最後は、ドイツ(track.20-22)へ... そこでは、ホモフォニックな音楽も聴こえて来て、それがまた何ともキャッチーで、新しい時代はすぐそこに...
という1枚に詰まっている内容は、まさに音楽史の前半、丸々!"FOOD, WINE & SONG"には、驚くほど音楽の進化と広がりがカヴァーされており、改めて聴いてみると驚嘆してしまう。何より、それを歌い切ったオルランド・コンソートの力量!バロック以前はどれも同じ... なんて思われるところもあるのかもしれないけれど、シンプルな単声から如何にして壮麗なるルネサンス・ポリフォニーに至ったかという道筋は、一筋縄では行かない。そんな13世紀から16世紀までの400年を、明瞭にして、洗練されてゆく変遷を、表情豊かに歌い上げるのだから、感服するしかない。また、ユーモラスなナンバーを差し挟み、アルバムに絶妙なスパイスも効かせ、それぞれの時代を活き活きと描き出し、単に音楽史をなぞるだけではない魅力に溢れている。
で、そんな"FOOD, WINE & SONG"を聴いていると、まるでひとつの料理のように感じられて。それがまた「食」を題材とした歌で綴られるのだからおもしろい。素朴な素材から出汁を取り、様々な具材を加え、かき混ぜて、煮詰め、味を調え... いや、音楽史とは、料理なのかもしれない。じっくりと進められた煮込み料理。アルバムも中盤に掛けてどんどん旨味を増して、食すばかりでない、料理するワクワク感も感じられるのが"FOOD, WINE & SONG"の興味深いところ。そうして、そこからまた違う料理が生まれるかな?というところで、鍋は火から下ろされ... いやー、食欲の秋の素敵な1枚!

FOOD, WINE & SONG THE ORLANDO CONSORT

― フランス 1220年頃から1363年に掛けて ―
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作曲者不詳 : In paupertatis predio 〔パリ、ノートルダム大聖堂〕
作曲者不詳 : Chanconette/Ainc voir/A la cheminee/Par verite 〔『モンペリエ写本』〕
アダン・ド・ラ・アル : 『ロビンとマリオンの劇』 から "Prenes l'abre"
ギヨーム・ド・マショー : Nes qu'on porroit
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― イングランド 1330年頃から1450年頃に掛けて ―
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Apparuerunt apostolis v. Spiritus Domini 〔ファウンテンズ修道院 第1手稿譜〕
リチャード・スマート : Nowell, nowell: The boarës head
作曲者不詳 : Si quis amat
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― イタリア 1390年頃から1500年頃に掛けて ―
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アントニオ・ザッカーラ・ダ・テーラモ : Cacciando per gustar
作曲者不詳 : Canto de' cardoni 〔フィレンツェのカーニヴァルの歌〕
ハインリヒ・イザーク : Donna di dentro/Dammene un pocho
作曲者不詳 : Canto di donne maestre di far cacio 〔フィレンツェのカーニヴァルの歌〕
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― ブルゴーニュ 1426年から1490年頃に掛けて ―
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ギヨーム・デュファイ : Adieu ces bons vins de Lannoys
ジル・バンショワ : Je ne vis onques
ロイゼ・コンペール : Sile fragor
作曲者不詳 : La plus grant chiere
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― スペイン & ポルトガル 1480年頃から1530年頃に掛けて ―
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作曲者不詳 : La tricotea
フアン・ポンセ : Ave color vini clari
フアン・デル・エンシーナ : Oy comamos y bebamos
作曲者不詳 : Quem tem farelos
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― ドイツ 1500年頃から1585年頃に掛けて ―
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マティアス・グライター : Von Eyren
ルートヴィヒ・ゼンフル : Von edler Art
作曲者不詳 : Trinkt und singt

オルランド・コンソート

harmonia mundi FRANCE/HMU 907314




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