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アレッサンドロ・スカルラッティ、最後のオペラに漂う、アルカイック... [before 2005]

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さて、青年ヘンデルがローマに滞在していた頃、聖都、ローマはオペラ禁止だった。聖と俗がせめぎ合う都市、ローマにおけるオペラ上演は、17世紀半ば以降、教会の風向き(オペラ支援に乗り出す教皇一族に、かつてはオペラの台本作家でもあった教皇もいたり... かと思えば、オペラ禁止のみならず、オペラハウスの取り壊しまで命じた教皇も... )により、晴れたり曇ったりが続いた。が、やがて暗雲は去り、1711年、カプラーニカ劇場(元々、カプラーニカ家の私設の劇場だったが、1695年に公開のオペラハウスとなる。が、その4年後に閉鎖命令... )が再開。ローマにオペラが帰って来る!それから10年を経たカプラーニカ劇場で初演されたオペラ...
ルネ・ヤーコプスの指揮、ベルリン古楽アカデミーの演奏、ドロテア・レシュマン(ソプラノ)のタイトルロールで、ナポリ楽派の最初の巨匠、アレッサンドロ・スカルラッティの最後のオペラ、『グリゼルダ』(harmonia mundi FRANCE/HMC 901805)を聴く。

アレッサンドロ・スカルラッティ(1660-1725)。
というと、ナポリ楽派の最初の巨匠... なのだけれど、その人生を改めて振り返ってみると、思いの外、ローマとの縁も深い。シチリアで生まれたアレッサンドロは、幼くして音楽の才能を見せたらしく、より恵まれた音楽環境を求めて、一家でローマへと移住。そこでは、オラトリオを生んだローマの巨匠、カリッシミ(1605-74)に師事したとも言われるものの、アレッサンドロがどのように音楽を学んだかは、あまりよくわからないらしい。が、アレッサンドロの才能の開花は、あっという間にやって来る。19歳の時に書いた最初のオペラ、『顔の取り違え』(1679)が大成功!イタリアはもちろん、アルプスを越えてまで上演されたというから凄い... で、バロック期、ローマを代表するセレヴ、元スウェーデン女王、クリスティーナの目に留まり、その宮廷楽長に大抜擢。一躍、注目の存在となったアレッサンドロは、24歳にしてナポリ副王の宮廷楽長に就任(1684)。ヴェネツィアのオペラの影響下で始められたアレッサンドロのオペラへの取り組みは、ローマの極めてインターナショナルな音楽シーンから離れることで、独自のスタイルを模索する道筋を作った。それから18年間、ナポリ楽壇に君臨したアレッサンドロだったが、イタリア半島をも戦火に包んだスペイン継承戦争(1701-14)が始まると、スペイン領だったナポリは不安定となり、街を離れる。が、思うような居場所は見つからず、ローマへ、ナポリへ... そして、再びローマへ...
そんなアレッサンドロの最後のオペラが、1721年、カプラーニカ劇場で初演された『グリゼルダ』。羊飼いの娘、グリゼルダが、シチリア王に見初められ、王妃となり、美しい王女が生まれるも、宮廷の反発やら横恋慕やらで王妃の座を追われてしまい... が、成長した娘との再会を切っ掛けに、愛する娘の幸せを成就させるために奮闘(娘には愛する王子がいるのだけれど、父、王と結婚させられそうになっている!)し、試練を乗り越えて、再び王に王妃として迎えられ、娘も愛する王子と結ばれるハッピー・エンド!この物語を手堅い音楽で描き出したアレッサンドロ... やがてオペラ・ブッファを生み出す街、ナポリでは、軽い喜劇的なオペラが好まれるようになり、アレッサンドロの音楽は流行遅れとなっていたらしいのだけれど、インテリであるセレヴたちが主導するローマの音楽シーンでは、アレッサンドロのよりしっかりとした音楽が好まれていたとのこと... いや、わかる...
詩情に溢れる『グリゼルダ』の音楽の深さたるや!スター・カストラートの華麗なる超絶技巧に逃げることの無い、中身の詰まったアリアの数々、そして、実に雄弁なレチタティーヴォと、聴き入るばかり。そこから浮かび上がる、独特のアルカイックさ... アレッサンドロ、最後のオペラというだけあって、集大成的なところもあるかもしれない。でもって、しっかりと練られたその音楽は、バロック的であるより古典的とすら言えるのかもしれない。もちろん、ナポリっ子たちがつまらないと感じただろう、古風さもある。同時代のヴィヴァルディといった作曲家のケレン味に溢れるスリリングな音楽と並べてしまえば地味?けれど、古風さにこそ、次なる時代の古典主義的な可能性を見出せるようで、そうしたあたりに、音楽史のおもしろさを強く感じる。何より、アレッサンドロの音楽の何とも言えない端正さ、清廉さ... オペラはバロックの象徴ではあるのだけれど、アレッサンドロがオペラで行き着いた地点というのは、どこかルネサンス的な、アルカディアを思わせるサウンドに充ち満ちている。
という『グリゼルダ』を、思いの外、丁寧に捉えるヤーコプスの指揮が新鮮!このマエストロならではの息衝くような音楽作りは控えて、淡々とスコアを追い、アレッサンドロの端正な音楽に籠められた味わい深さを引き出す。まずそうしたヤーコプスの姿勢に驚きを覚えつつ、それでいてこそ、アレッサンドロの音楽に聴き入りもし... バロックの「熱さ」ではない、音楽そのものの温もりがクローズアップされ、様々な困難に遭いながらも、果敢に幸せを取り戻すグリゼルダのより人間的な魅力が引き立つよう。いや、この人間的というあたりが、ヤーコプスならではか... そんなヤーコプスに導かれて、地に足の着いた歌声を響かせる歌手たち... グリゼルダを歌うレシュマン(ソプラノ)を筆頭に、得も言えぬ落ち着きを漂わせ、そこから瑞々しい表情も生み出していて、アレッサンドロが描き出すアルカイックなキャラクターたちに、生気を吹き込む。そうして香り立つアレッサンドロの音楽世界... 格調高くも温かな音楽に、改めて魅了されてしまう。

Griselda
ALESSANDRO SCARLATTI
Akademie für Alte Musik Berlin
RENÉ JACOBS

アレッサンドロ・スカルラッティ : オペラ 『グリゼルダ』

グァルティエロ : ローレンス・ザゾ(カウンターテナー)
グリゼルダ : ドロテア・レシュマン(ソプラノ)
コスタンツァ : ヴェロニカ・カンヘミ(ソプラノ)
オットーネ : シルヴィア・トロ・サンタフェ(メッゾ・ソプラノ)
コラド : コビー・ファン・レンスブルク(テノール)
ロベルト : ベルナルダ・フィンク(メッゾ・ソプラノ)

ルネ・ヤーコプス/ベルリン古楽アカデミー

harmonia mundi FRANCE/HMC 901805




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