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擬古典主義が最も輝かしかった瞬間、1946年、バーゼルにて... [before 2005]

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ブリュッヘンが世を去って間もないというのに、ホグウッドまで逝ってしまうとは...
ピリオド・アプローチの世界を切り拓いたマエストロたちの存在は、「ピリオド」のおもしろさを教えてくれたのはもちろん、自分にとっては、クラシックそのものの魅力を知らしめてくれた存在で。ピリオド楽器の不器用なあたりから繰り出される、作品が生まれた当時を掘り起こす息衝く音楽に、洗練され、取り澄ましてしまったクラシックとは一線を画すおもしろさを見出し、クラシックの見方を大きく変えてくれた。伝統に捉われず、大胆に過去に立ち返ることで、骨董品ではないクラシックのおもしろさを響かせた、ブリュッヘン、ホグウッドら、第1世代のピリオドのマエストロたち。彼らは、権威主義的だったクラシックにおいて革命児であり、常に刺激的で、クールだった。
ということで、先月24日に亡くなったホグウッドを偲び、ピリオドばかりでなかったマエストロのもうひとつの一面に触れてみようかなと... クリストファー・ホグウッドの指揮、バーゼル室内管弦楽団による、擬古典主義の興味深いシリーズ、"Klassizistische Modern(近代の古典)"から、マルティヌー、ストラヴィンスキー、オネゲルの作品で綴るVol.1(ARTE NOVA/74321 86236 2)を聴く。

ピリオドを切り拓いたマエストロのひとりと、ピリオド可の次世代型オーケストラが繰り広げる、擬古典主義のシリーズ... 「擬古典主義」を、近代におけるある種のピリオド・アプローチと捉えるならば、現代のピリオドのスペシャリストたちが、近代のピリオドを掘り起こす、それまたピリオドという見方もできるのか... で、"Klassizistische Modern(近代の古典)"、擬古典主義を近代の古典として取り上げるのだから、二重、三重に「古典」の意味が反転して行って、何だか騙されているような、奇妙な感覚に陥る。これは、英国ピリオド界を牽引したマエストロによる、英国流のユーモアだったのだろうか?いや、この煙に巻かれる感覚が、おもしろい!
まず1曲目は、マルティヌーのトッカータと2つのカンツォーネ(track.1-2)。マルティヌーのスペシャリストでもあったホグウッド... 擬古典主義というと、ストラヴィンスキーやプーランクあたりが真っ先に思い付くのだけれど、シリーズの1曲目に、マルティヌーを持って来たあたり、このマエストロならではか... でもって、それは、スペシャリストならではの、ちょっとマニアックな一曲で... マルティヌーのトッカータと2つのカンツォーネは、実質、ピアノ協奏曲ではあるのだけれど、そのネーミングからもわかるように、ジョヴァンニ・ガブリエリの時代に遡るような、ルネサンスの残り香を漂わせる「トッカータ」に「カンツォーネ」であって... それをマルティヌー流の色彩に富むお洒落なモダニズムで翻案するわけだ。始まりのトッカータはまるでフィリップ・グラス!古い時代を意識したオスティナートが、ピアノとオーケストラによりリズミカルに繰り出される姿は、ミニマル・ミュージックを予感させ、魅惑的!その後の2つのカンツォーネ(track.2, 3)では、マルティヌーの流麗さが活き、モダニスティックでありながらも、独特のキャッチーさ、どこか映画音楽を思わせるようなサウンドが、ヴィヴィットに展開されて、カッコいい!
続く、ストラヴィンスキーの弦楽のための協奏曲、ニ調(track.4-6)は、典型的なストラヴィンスキー流の擬古典主義が繰り広げられ、マルティヌーの後だと、そのドライな感覚がより際立ち。何より、「合奏協奏曲」というバロックならではのスタイルを用い、掴みどころないような音楽を繰り出して。18世紀調でありながら、どこかメカニカルで、よりモダニスティックな雰囲気を生み出す妙!そこに、何とも言えないユーモアを見出し、粋... そして、最後は、"Klassizistische Modern"のシリーズを象徴する作品、オネゲルの4番の交響曲、「バーゼルの喜び」(track.7-9)。スイスにルーツを持つオネゲルが、スイスの民謡も織り込んで、スイスを朗らかに描き出した作品で。バーゼルを拠点に20世紀音楽に多大な貢献をした伝説のパトロン、パウル・ザッハーにより、ザッハーが創設した旧バーゼル室内管(1926-87)の創立20周年を祝うために委嘱された作品...
実は、このシリーズ、ザッハーに因む作品で織り成されていて、"Klassizistische Modern"、近代の古典としての「擬古典主義」にスポットを絞りつつ、さらにに、20世紀音楽のもうひとつの核であった「バーゼル」を掘り起こそうという、ピリオドのマエストロ、ホグウッドならではの指向もあったのかもしれない。で、このVol.1に収録された3曲というのが、みな1946年の作品で... 戦後間もない頃、総音列音楽が幅を利かせる直前、近代音楽の牽引役として、絶頂期を迎えていた擬古典主義の最も輝かしい瞬間を活写したVol.1でもあって。それぞれに個性を際立たせながらも、全体にキラキラとしているあたりが、とても印象的。
そうしたバーゼルのための作品を、自負を以って響かせるバーゼル室内管(1984年の設立で、ザッハーが創立した旧バーゼル室内管とは異なる団体... )。ピリオド可らしいエッジの鋭さと、「室内」というスケールを越えた響きの厚みが織り成す独特のサウンド。その精緻にして密度の濃いサウンドが、どこか浮ついたイメージもある擬古典主義の音楽を、地に足の着いたものとしていて。そこに、ホグウッドならではの活き活きとした音楽作りが、より豊かな表情を与え。潤沢だったバーゼルの輝きに包まれつつ、味わい深い音楽が広がり、擬古典主義の音楽の魅力を、再発見させてくれる。

Hogwood ・ kammerorchesterbasel Klassizistische Modern Vol.1

マルティヌー : トッカータと2つのカンツォーネ *
ストラヴィンスキー : 弦楽のための教祖曲 ニ調 〔バーゼル協奏曲〕
オネゲル : 交響曲 第4番 「バーゼルの喜び」

クリストファー・ホグウッド/バーゼル室内管弦楽団
フローリアン・ヘルシャー(ピアノ) *

ARTE NOVA/74321 86236 2




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