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ヴィヴァルディの「娘たち」による、バロック版宝塚?ユディータ! [before 2005]

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さて、9月の初めから、ヴェネツィア(時々、北イタリア... )のバロックを聴いて来ているのだけど。いやー、改めてバロック音楽の発展の様子を見つめてみると、もの凄く興味深い!それは、我々が親しんでいるクラシックの型が出来上がろうとしていた頃で... コンチェルトやソナタと言った、クラシックには欠かせない形が次々に生み出され、またそうした形を生み出す豊かな音楽環境がヴェネツィアのみならず北イタリア各地に存在し、王侯貴族はもちろん、教会も、市民も、さらには社会的マイノリティである孤児たちまで巻き込んで、活気に満ちた音楽シーンが繰り広げられていた。そういう幅広い盛り上がりがあってこそ、音楽は大きく前進したのだろう。
ということで、バロック期、ヴェネツィアの音楽シーンの一端を担った、ピエタ慈善院付属音楽院のための作品... アレッサンドロ・デ・マルキの指揮、アカデミア・モンティス・レガリスの演奏、マグダレーナ・ゴジェナー(メッゾ・ソプラノ)のタイトルロールによる、ヴィヴァルディのオラトリオ『蛮族の王、ホロフェルネスを倒した、勝利のユディータ』(OPUS 111/OP 30314)を聴く。

オペラで成功する以前、音楽教師をしていたヴィヴァルディ(1678-1741)。で、彼が教えていたのが、ピエタ慈善院付属音楽院。孤児たちの手に職を付ける目的で、孤児院に併設された音楽学校(意外と充実していたヴェネツィア共和国の福祉!赤ちゃんポストもあったんだって... 思い掛けなく現代的... )なのだけれど、これが極めて興味深い存在で、女子のみを対象に音楽の手ほどきがなされ(ちなみに、男子向けには船大工と石工の職業訓練校... それから、音楽は苦手という女子向けには、手芸の専門学校... )、さらに、生徒たちで編成された"figlie(娘たち)"というオーケストラと合唱団があり、これがまた、ただならぬレヴェルで、彼女たちのコンサートは、多くの聴衆を魅了したのだとか。そんな娘たちのために、ヴィヴァルディも多くのすばらしい作品(例えば、『調和の霊感』とか... )を残している。そうした作品のひとつが、オラトリオ『勝利のユディータ』。
ホロフェルネス率いるアッシリア軍に包囲されたユダヤの街、ベトゥーリア。この街の美しい未亡人、ユディータが、ホロフェルネスを籠絡(酔っ払わせる!)し、首を斬り取る(カラヴァッジォクラナハら、多くの画家たちが描いたスプラッター・ユーディット!)という、衝撃的な勝利を描く、旧約聖書からの物語。なのだけれど、ピエタ慈善院付属音楽院の"figlie"が歌い、演奏するとなると、当然、女子のみ... よって、ホロフェルネスまで女声で歌われるから、おもしろい。それは、バロック版宝塚(で、AKBっぽく、娘。たち、って... 何か、ツボ... )のような感覚?オペラハウスではスター・カストラートが女性役までカヴァーした時代だけに、きっと独特な雰囲気を醸したに違いない。で、女声のみで描き上げられる物語は、いい具合にフェミニン(ユーディットという存在は極めてフェミニズム!)。バロックならではの陰影の濃さがやわらぐようで、どこかふんわりとした響きを生み、後にヴィヴァルディが苦しめられるナポリ楽派のようなメローさ、あるいは古典派を予感させる朗らかさに包まれ、印象的。
このオラトリオは、ヴィヴァルディがオペラの世界に進出(1713)して間もない頃(音楽院での仕事も減らしつつあった頃... )、1716年の作品で、大見得を切りまくって、聴く者を圧倒して来るヴィヴァルディならではのオペラの登場はもう少し先... となると、劇的な物語に対して、少しインパクトに欠けるところもある音楽。けれど、かえってインパクトで煙に巻かれない音楽の素の魅力もあり、何より女声のみという特殊性が醸すたおやかさ!時に、華麗なコロラトゥーラにも彩られ、オペラ歌手に負けない"figlie"たちの技量の高さを垣間見せるアリアもありつつ、フェミニンを強調する、しっとりとしたアリアでは、何とも言えず愉悦に満ち、アブラのアリア(disc.2, track.10)なんて、もう夢見心地... また、ユディータが酔っ払って寝入るホロフェルネスを前に歌うアリア(disc.3, track.6)は、『四季』から「春」の終楽章を引用して、のどやかな音楽を響かせ美しく... これから凶行に及ぶとは思えないその美しさが、かえって恐い?いや、こういうトーンが、このオラトリオのおもしろさか...
というあたりを絶妙に引き出す、デ・マルキの指揮、アカデミア・モンティス・レガリスの演奏。彼らならではの手堅さに、ふんわりと明るい表情を浮かべ、かつてヴェネツィアの音楽シーンで注目を集めた"figlie"を想起させるようなところもあるのか。そこに、美しい歌声を響かせるピリオドで活躍する歌手たち... ホロフェルネスを歌うトゥルールの深く艶やかなコントラルト、その従者、ヴァガウスを歌うコンパラートの明朗なメッゾ・ソプラノ、ベトゥーリアの祭司、オジアスを歌うカラーロの落ち着いたソプラノ、ユディータの小間使い、アブラを歌うハーマンの愛らしいソプラノと、みなすばらしいのだけれど、やっぱり耳を惹くのはユディータ、コジェナーの瑞々しく深みのあるアルト!何とも言えない気品を漂わせながらの、衝撃的なタイトルロールを歌い描く、ひんやりとした佇まいが、何か現代的?そもそも、"娘たち"が、愉悦に満ちた美しい音楽で、斬首の衝撃を描くあたり、どこか倒錯的?美しい音楽、美しい演奏、美しい歌声が揃って、このオラトリオは、ある意味、グロテスクな魅力を発揮するのかもしれない。この録音には、そうした危うさも孕んで魅惑的。

Vivaldi Juditha triumphans

ヴィヴァルディ : オラトリオ 『蛮族の王、ホロフェルネスを倒した、勝利のユディータ』 RV 644

ユディータ : マグダレーナ・コジェナー(アルト)
ホロフェルネス : マリア・ホセ・トゥルール(アルト)
ヴァガウス : マリア・コンパラート(メッゾ・ソプラノ)
アブラ : アンケ・ハーマン(ソプラノ)
オジアス : ティツィアナ・カラーロ(ソプラノ)
サンタ・チェチーリア国立アカデミー・ユース合唱団
アレッサンドロ・デ・マルキ/アカデミア・モンティス・レガリス

OPUS 111/OP 30314




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