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スコットランド、悲劇。 [before 2005]

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19世紀、ロマン主義の時代のスコットランド像を探ってみると、まったくおもしろい。というより、凄い!妖精、シルフィードから、新郎を刺し殺す新婦、ルチアまで、ファンタジーに、ヴァイオレンスに、その振れ幅の大きさったらない。もちろん、ヨーロッパ大陸におけるフィルター越しのスコットランド像を鵜呑みにするわけには行かないけれど、スコットランドにはイマジネーションを掻き立てる壮大な自然と、古きケルト文化がまだ生きており、また、氏族社会の弊害とも言うべき暴力的な歴史がドラマを生んでいるのも事実。となれば、ロマン派を刺激しないわけがないか... 19世紀、様々にヨーロッパ大陸を魅了した「スコットランド」は、実にパワフルだった。
さて、そんなパワフルさを感じるオペラを聴いてみようと思う。ナタリー・デセイ(ソプラノ)をタイトルロールに、ピドの指揮、リヨン国立歌劇場による、ドニゼッティの代表作、オペラ『ランメルモールのルチア』のフランス語版(Virgin CLASSICS/5 45528 2)を聴く。

ウォルター・スコットの小説、『ラマムアの花嫁』(1825)をオペラ化した、『ランメルモールのルチア』。スコットランドならではの氏族間対立により引き裂かれる恋人たちに、結末は血の惨劇というスコットランドらしい展開... というイタリア・オペラの定番を、フランス語版で聴いてみる。って、何だかややこしいのだけれど... いや、イタリアよりはスコットランドに近付いたかなと... で、そのフランス語版なのだけれど、1835年、ナポリ、サン・カルロ劇場で大成功した『ランメルモールのルチア』を、パリに拠点を移した作曲家自身により、1839年、パリで上演するためにフランス語訳し、改作したもの。イタリア・オペラをフランス人好みに仕立て直すという作業は、グルック(ウィーンで初演された『オルフェオとエウリディーチェ』を、パリでの上演のために『オルフェとユリディス』に翻訳、改編... )の昔から行われており、このイタリア語からフランス語へのトランスレーションが、音楽に絶妙なひねりを与え、新たな表情を生み出すのは、ドニゼッティもまたしかりで... フランス語版である『ランメルモールのリュシー』には、オリジナルとは一味違う魅力を見出し、それがとても新鮮なものに感じられる。
オリジナルがイタリア的なヴィヴィットさで描かれているならば、フランス語版は、フランス・オペラの伝統、トラジェディ・リリクの雰囲気を受け継ぐようなところがあり、フランス語の語感のせいもあるのか、いい具合に落ち着きを見せつつ、しっとりとした風情を漂わせる。それがまた、どことなしにスコットランドを想起させて... どうしても、山場である"狂乱の場"に集約されがちな『ランメルモールのルチア』だけれど、『ランメルモールのリュシー』には、悲劇へと向かう経過がより丁寧に綴られるのか、"狂乱の場"(disc.2, track.7-10)が突出することなく、山場へと向かう登山が心地良い。フランス人好みらしい、ナチュラルなドラマ運びが、典型的なプリマドンナ・オペラに、それ以上のドラマ性を持たせる。またそうしたところから繰り広げられる"狂乱の場"には、コロラトゥーラの超絶技巧の発表会に終わらない、ギリシア悲劇的なカタストロフすら見出せて、ただならず惹き込まれてしまう。で、普段は蛇足にも感じられる山場の後の、エピローグ的なエドガルド(フランス語版ではエドガール... )によるフィナーレ(disc.2, track.11, 12)にも、悲劇の後の虚しさが、何かやさしさを含んで、物語全体を包み込むような温もりを感じ、不思議と後味の良さをもたらしてくれる... いや、今、改めてフランス語版を聴いてみれば、オリジナルを凌ぐ魅力すら感じられるほどで、ドニゼッティのパリに掛ける意気込みを強く印象付ける。
で、このフランス語版を歌う、フランスのすばらしい歌手たちの力演があって... そこには、パリのために仕立て直された、自分たちの『ランメルモールのリュシー』という意気込みも聴こえて来るのか、思いの外、全編が雄弁に歌い上げられ、聴き入るばかり。さらに、プリマドンナ・オペラのプリマを歌うデセイのすばらしさ!2002年の録音ということで、デセイも絶好調!超絶技巧はもちろんのこと、その超絶なあたりを鮮やかにドラマに結び付ける巧さ、ただただ感心させられるばかり... で、お約束、"狂乱の場"(disc.2, track.7-10)での迫真の表現には、まるで演技が見えるかのよう。歌う女優、デセイなればこその、常軌を逸してゆくリュシーの姿に圧倒され、またその儚げな姿に哀れを誘い、何だか聴いている側まで遣る瀬無くなってしまう。という歌手たちを絶妙にサホートする、ピド、リヨン国立歌劇場管もまたすばらしく。ピドの指揮ぶりは、いつもながらの丁寧さを見せつつ、ドラマとして推進力も備え、物語が進むにつれて、温度が上がってゆくよう。リヨン国立歌劇場管も、そんなピドに応えて、フランス流の流麗さを伴ったドラマティックさで、スコットランドの悲劇を盛り上げる!
ところで、この悲劇、実話だというから、スコットランドって凄い... 事実は小説より奇なりとは言うけれど、婚礼の宴に、新郎を刺し殺した新婦が血まみれで登場だなんて、まったくギリシア悲劇に負けていない。マクベスにしろ、マリア・ストゥアルダ(メアリー・ステュアート)にしろ、こういうドラマティックな人々を生むスコットランドの、ある種の熱さに、興味深いものを感じる。

Donizetti
LUCIE DE LAMMERMOOR
Evelino Pido


ドニゼッティ : オペラ 『ランメルモールのリュシー』 〔フランス語による〕

ルュシー・アシュトン : ナタリー・デセイ(ソプラノ)
エドガール・ラヴァンスウッド : ロベルト・アラーニャ(テノール)
アンリ・アシュトン : ルドヴィツ・テジール(バリトン)
アルトゥール・ビュックロー : マルク・ラオ(テノール)
ライモン : ニコラ・カヴァリエル(バス)
ジルベール : イヴ・セラン(テノール)

エヴェリーノ・ピド/リヨン国立歌劇場管弦楽団、同合唱団

Virgin CLASSICS/5 45528 2




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