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スコットランド、幻想... [selection]

フランク・レンウィック著、『とびきり哀しいスコットランド史』という本を読む。
著者は、スコットランド貴族、レイヴンストーン男爵というから、生粋のスコットランド人のはず。が、スコットランドの歴史を、とびきり哀しい... としてしまうのだから、凄い。いや、その何とも言えぬブラック・ユーモア!シニカルかつキャッチーにスコットランドの歴史を綴って、スコットランドのダメっぷりを飄々と炙り出す。しかし、そこには、スコットランドへの深い愛情が籠められていて、そんなとびきり哀しいスコットランド史に触れていると、次第に、そのダメっぷりに愛おしさを感じてしまうからおもしろい。それにしても、スコットランド!人に様々な個性があるわけだが、国にもまた様々な個性があるなとつくづく感じた。で、スコットランドの個性... とびきり哀しい... は、まさに!だなと... もちろん、人様の国ばかり、言えた立場ではないのだけれど...
さて、クラシックの中に「スコットランド」を探して。バロックから古典主義におけるスコットランドを見つめた前回に続いて、ロマン主義。で、ロマン主義がスコットランドを捉えると、見違えるように幻想的な姿を見せる!あのダメっぷりは何処へ?いや、この「幻想」を喚起するのもまたスコットランド!ということで、19世紀のファンタジー・ランド、スコットランドを音楽で旅するセレクション。

まずは、実際にスコットランドを旅した、メンデルスゾーン!
1829年、まだ20歳という若さで、指揮者、ピアニストとして、ロンドンのフィルハーモニック協会から招待を受けたメンデルスゾーンは、ロンドンでのコンサートの後、スコットランドを旅する。エディンバラのホリールード宮では、メアリー・ステュアートに思いを馳せ、スコットランドの西岸に浮かぶヘブリディーズ諸島では、フィガルの洞窟など、名勝を訪ね、北の自然の厳しい表情に感銘を受けている。そして、この旅から生まれたのが、3番の交響曲、「スコットランド」と、序曲「フィンガルの洞窟」。バッハをリスペクトし、きっちりと古典主義を消化したドイツの優等生が、スコットランドの歴史、自然に触れ、ドイツ・ロマン主義を一気に開花させるわけだ。
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その、「スコットランド」交響曲と、「フィンガルの洞窟」を、普段とは違う版で取り上げた、シャイー+ゲヴァントハウス管による"MENDELSSOHN DISCOVERIES"(DECCA/478 1525)。ディスカヴァリーというだけに、発見が詰まった1枚は、後に「スコットランド」交響曲の1楽章、冒頭となる、ホリールード宮の僧院跡で書き留められたスケッチをサウンドにしてみる試みや、旅の記憶が醒めやらぬ、決定稿(1832)に至る前、ローマ版(1830)で取り上げられる「フィンガルの洞窟」など、スコットランドから受けたインスピレーションをより新鮮なまま響かせて、ヴィヴィット。また、その初々しさが、ロマンティックを際立たせているようで... シャイー+ゲヴァントハウス管の演奏も、荒ぶるスコットランドを勢いよく描き上げていて、魅了されずにいられない。
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ところで、ワーグナーの『さまよえるオランダ人』は、ノルウェーを舞台にした作品として知られるわけだけれど、この作品がドレスデンで初演される2年前、1841年、パリで完成された初稿では、スコットランドが舞台だった。というあたりを蘇らせるのが、ヴァイルの指揮、カペラ・コロニエンシスの演奏による、『さまよえるオランダ人』の初稿(deutsche harmonia mundi/82876 64071 2)。ピリオドによる瑞々しい演奏は、後のワーグナーとは一味違う透明感をすくい上げ、どこかメンデルスゾーン的に響くようで... メンデルスゾーンという存在を忌避(反ユダヤ主義によるワーグナーのダーク・サイド... )しながらも、『フィンガルの洞窟』は高く評価していたワーグナー。改めて、スコットランドを舞台に繰り広げられるこの初稿を聴いてみると、『フィンガルの洞窟』の延長線上に、『さまよえるオランダ人』があるように思えて来るからおもしろい。いや、ワーグナーのロマンティシズムも、どこかでスコットランドにつながっているのかもしれない。

自然(ヘブリディーズ諸島や... )と、超自然(ケルト神話から幽霊船まで... )が織り成すスコットランドのロマンティックさ... そんなロマンティックに触れていると、ロマン主義はスコットランドからやって来た?なんて考えたくなってしまう。もちろん、様々な要素が折り重なって生まれたのがロマン主義。安易にスコットランドと結び付けることはできない。一方で、ロマン主義の時代、スコットランドからヨーロッパ大陸へともたらされたブームもあった... それが、スコットランドを代表する作家、ウォルター・スコット(1771-1832)の小説!
19世紀前半、スコットの小説は、U.K.に留まらず、ヨーロッパで広く人気を博し、ロマン派の作曲家たちも多くのインスピレーションを得ていたことは見逃せない。イギリス贔屓とも言えるベルリオーズは、スコットの小説を素に、「ウェーヴァリー」(オペラとして作曲するも、序曲のみを残して破棄... )、「ロブ・ロイ」の2つの序曲を残し、シューベルトは、叙事詩『湖上の美人』からの詩を用い、アヴェ・マリアを作曲した(アヴェ・マリアを含む3つのエレンの歌の"エレン"とは、『湖上の美人』のヒロイン!)。もちろん、ロッシーニのオペラ『湖上の美人』も忘れるわけには行かない。で、オペラこそ、スコット作品が様々に取り上げられたジャンル!ボワエルデューの『白衣の婦人』(小説『ガイ・マナリング』、『僧院』、『僧院長』を翻案... )、ビゼーの『美しきパースの娘』(同名の小説による... )、ベッリーニの『清教徒』(小説『墓守老人』を基に... )、ドニゼッティの『ケニルワース城のエリザベッタ』(小説『ケニルワース』による... )、そして、『ランメルモールのルチア』(小説『ラマムアの花嫁』による... )。19世紀の音楽を振り返れば、ロマン派に限らず、スコット作品の影響の大きさ、人気に、驚かされる。
もちろん、スコット作品ばかりでなく、オペラばかりでない、スコットランド... バレエに目を移せば、実に象徴的な作品がある。1832年、パリ・オペラ座で初演された、ロマンティック・バレエの代表作、『ラ・シルフィード』!妖精、シルフィードが、結婚を控えた若い農夫、ジェイムズに恋をしてしまう哀しい物語は、スコットランド版、人魚姫といったところ... で、その幻想的にして、成就することのない儚い恋物語は、19世紀、ヨーロッパの、大ヒット・ファンタジーとなった。そして、このバレエに描かれたファンタジックかつロマンティックなイメージが、ヨーロッパ大陸から見つめるスコットランド像を象徴していたように思う。妖精が人間に恋をする、19世紀、ヨーロッパのファンタジー・ランド... そには、オリエンタリズムにも似たフィルターが存在していたのだろう。

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さて、スコティッシュ・ファンタジーと言えば、ブルッフのスコットランド幻想曲である。スコットランド民謡をふんだんに盛り込んで、まさに幻想的に美しくスコットランドを響かせる佳曲。で、そのスコットランド幻想曲と、スコットランドのトラッドを並べてしまう、ありそうで無かった試み... スコットランド生まれのヴァイオリニスト、ベネデッティの最新盤、"HOMECOMING"(DECCA/478 6690)。19世紀、ヨーロッパのファンタジーと、気の置けない素のスコットランドの対比の妙!しかし、クラシックとフォークロワの垣根を軽々と越えてしまうベネデッティの現代っ子感覚たるや... で、ヴァイオリン(ブルッフ)とフィドル(トラッド)を巧みに持ち替えて、スコットランド生まれなればこその、スコットランドのメロディーへのこなれた姿勢が、ロマン主義のファンタジーを解かすようであり、現代っ子感覚で歌うトラッドには、また新たなファンタジーが紡ぎ出されるようで、印象的。この捉われない形が、21世紀のスコットランドに、新たなファンタジーを生み出すのかも。




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