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ギヨーム・ド・マショーが生きた時代、爛熟の中世を活写する! [before 2005]

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えーっと、『遠い鏡、災厄の14世紀ヨーロッパ』(バーバラ・W・タックマン著、徳永守儀訳)という、もんの凄く分厚い本を図書館から借りて来て、ちょびちょび読んおります。もちろん、読み切れないので、何回かに分けて借りるという体たらく... なのだけれど、その内容は、かなりおもしろく... 「災厄の14世紀ヨーロッパ」という副題通り、ちょうど中世の終わりのフランスを、まあ見事に活写しておりまして、その災厄(百年戦争、シスマ、ペスト、などなど... )を抉り出し、歴史のリアルな表情をたっぷりと見せてくれる。しかし、酷い時代でした。けど、酷いのだけれど、その酷さを生む背景が、何となしに現代的で、「暗黒の中世」みたいなステレオ・タイプというか、ファンタジーが介在しないところが興味深い!ということで、そんな時代の音楽を聴いてみようかなと...
7月14日は、パリ祭(革命記念日、フランスにおける建国記念日みたいな... )。ということで、アメリカからフランスへと興味を向けてみようかなと。で、災厄の14世紀のフランスの音楽を活写する1枚!鬼才、レネー・クレメンチッチ率いる古楽アンサンブル、クレメンチッチ・コンソートによる、ギョーム・ド・マショーのノートルダム・ミサ(ARTE NOVA/74321 85289 2)を聴く。

『遠い鏡、災厄の14世紀ヨーロッパ』の、百年戦争について書かれた第4章に、ボヘミア王ヨハン(ジャン・ド・リュクサンブール、1346年、クレシーの戦いにおいて、負けたフランス勢として戦い、陣没... )の名前を見つけ、ふと思い出す。ギヨーム・ド・マショー(ca.1300-1377)が仕えていた王様じゃなかった?となると、マショーはこんな時代を生きていたのか!と、少し驚いてみる。ゴシック期、ノートルダム楽派がアルス・アンティクアへと発展し、それに対する新しいムーヴメントとして、14世紀、アルス・ノヴァ、マショーの時代がやって来て... という具合に、漠然と中世の音楽を捉えていたのだけれど、その生々しい背景を知ってしまうと、俄然、聴こえ方が変わって来る。一方で、何か腑に落ちるものもあって... マショーによるルネサンスに至る以前のポリフォニーの、何か尖がった、時としてエキセントリックにも感じられる印象が、災厄の14世紀の時代感と重なるのか...
さて、鬼才、クレメンチッチは、マショーの代表作にして、ひとりの作曲家により作曲された最古のミサとして知られるノートルダム・ミサを、そのまま取り上げるということはしない。アルバムは、マショーの陽気なヴィルレー「恋人に会った帰りに」で始まり、ミサが始まる前の教会の広場の賑わいを活き活きと描き出す。それは、辻音楽といった風情で、鮮やかに街の喧騒を浮かび上がらせ... 続く、トルバドゥールとしても知られるナヴァール王、ティボーの愛のシャンソン(track.2)では、パワフルな地声で歌われ、多分にフォークロワな臭いを漂わせて、聴き手を一気に中世の爛熟期へと攫ってゆくかのよう。そんな世俗曲を聴いた後で、先導者に率いられ、会衆たちが聖母マリアへの賛歌「めでたし、海の星」(track.7)を歌いながら教会へと入る。その、何とも言えない素朴さ... そうして、カリヨンだろうか、鐘の音(演奏はグロッケンシュピール... )によるコンドゥクトゥス「めでたし、誉れ高き」(track.8)が奏でられ、ミサの始まりの合図となり、ミステリアスにノートルダム・ミサ(track.9-24)が始まる。
この流れが凄い!俗から聖へと歩みを進め、14世紀、マショーの時代を立体的に見せてしまう巧みさ... そして、どこかゴレゴリオ聖歌のイメージの強い中世の音楽に、灰汁の強い地声をぶつけて、中世の躍動感を引き出す。そうして聴くノートルダム・ミサには、ルネサンスの美しいポリフォニーとは明らかに違う、歪にすら感じる和声をともなって、耳に突き刺さるようなポリリズムを孕み、けして単純ではない中世の爛熟を鮮烈に織り成す。何なんだ!?この感覚... もの凄く遠い昔のようでありながら、息衝く音楽を耳にしていると、現代を生きる我々と同じ人間臭さを濃密に感じ、バッハやモーツァルトの音楽よりも親近感を覚えてしまう。これが、鬼才、クレメンチッチ・マジック?久々に彼らのノートルダム・ミサを聴くと、心にピリっとした刺激を受けつつ、けして取り澄ますことのない、クレメンチッチ・コンソートの大地の臭いがするサウンドに、大いにパワーをもらうよう。
しかし、中世のパワフルなこと!リアルな中世は、けして暗黒などではない。どうしても、輝かしきルネサンスのイメージが先行してしまって、暗黒である方が納まりがいいような扱いを受けるのだけれど、今、改めて中世を見つめると、暗黒どころか、ルネサンス以上にとっぽいところがあって、ゴシック期がある種のバブルとなり、やがて爛熟期を迎え、災厄の14世紀は、退廃ですらあったような... で、そうした中世の退廃を乗り越えた姿がルネサンス?ルネサンスの人文主義、シンメトリックな古典復興の構図、天国的な響きをもたらすポリフォニーは、爛熟期の退廃の調整局面だったのではないか?とすら思えて来る。一方で、オカルトのアイコン、ノストラダムス(1503-66)が活躍したのは意外にもルネサンス期であり、教会が市民生活を縛り始めるのは、ルターの宗教改革(1517)からだったりする。中世の全ての時期とは言わないけれど、ある種の自由さを伴った活力の溢れる中世、マショーが活躍した頃の退廃にすら感じられる中世、その人間臭さに、改めて興味を覚える。そして、クレメンチッチ・コンソートによるノートルダム・ミサこそは、その結晶!

Guillaume de Machaut: Messe de Nostre Dame

教会の入口で演じられているミンストレルや物乞いの芸
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マショー : ヴィルレー 「恋人に会った帰りに」
ナヴァール王、ティボー1世 : 愛のシャンソン
マショー : ヴィルレー 「我が身をささげる恋人よ」
ブルゴーニュの物乞い歌 「聖ラザルス祭りのギニョロ」
マショー : ヴィルレー 「甘美な苦痛が」
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教会への入堂
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『ファエンツァ写本』(1400年頃) : キリエ
フライブルクのアウグスチノ修道会聖務日課書(14世紀) : 聖母マリアへの賛歌 「めでたし、海の星」
作曲者不詳 : コンドゥクトゥス 「めでたし、誉れ高き」
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ノートルダム・ミサ
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マショー : キリエ
マショー : グロリア
ナヴァール王、ティボー1世 : 「おとめマリアの優しき御名から」
作曲者不詳(1300年頃、フランス) : 聖母マリアの賛歌 「めでたし処女、女王」
マショー : クレド
聖歌 「めでたし、女王」
作曲者不詳(1300年頃、フランス) : 聖母マリアの賛歌 「よき言葉、優しき言葉」
マショー : ヴィルレー 「ご婦人よ、あなたの優しい姿は」
作曲者不詳(1320年頃、フランス) : 器楽用モテトゥス 「そばにおられる」
マショー : サンクトゥス
『ファエンツァ写本』(1400年頃) : サンギリオ
マショー : アニュス・デイ
作曲者不詳(14世紀、フランス) : やさしきもの/作曲者不詳(13世紀、フランス) : めでたし海の
聖母マリアのための賛歌 「めでたし、名高い」 (1200年頃、リモージュ)
作曲者不詳(11世紀、フランス) : 天の星
マショー : イテ・ミサ・エスト

レネー・クレメンチッチ/クレメンチッチ・コンソート

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災厄の14世紀、中世末のデカダンスが、やがてルネサンスの洗練を生み...
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そして、ルネサンスの到来!15世紀、中世末の多様さが、フランドルで集約されて...
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