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ライリーから、ライヒへ、ミニマリズムの歩んだ道... [before 2005]

改めてアメリカの音楽を見つめると、本当におもしろいなとつくづく感じる。特に、第2次大戦後の、「前衛」以降の自由な展開!普段、聴いているクラシックが、如何にフォーマルなものであるかを思い知らされる、その自由さ!自由過ぎるあたりが、クラシックというフォーマルに慣れ切った耳からすると、難解に聴こえてしまう部分もあるのだけれど... 難解というレッテルを越えた、ポエジーが間違いなくあって... 歴史と伝統のヨーロッパを向こうに回し、捉われることなく興味深い実験を繰り広げ、それらを独自のポエジーへと昇華してしまうアメリカの屈託の無さ!例えば、ケージの音楽を久々に聴いてみたりすると、そうしたあたりを強く意識させられる。
さて、アメリカの音楽をいろいろと聴いて来て、ミニマル・ミュージックを聴いてみようかなと... いや、これこそアメリカの屈託の無さを象徴するスタイルのように感じるのだけれど... ニューヨークのヒップな現代音楽のスペシャリスト集団、BANG ON A CANの演奏で、テリー・ライリーのin C(cantaloupe/CA 21004)と、アラン・ピアソンの指揮、現代音楽を専門とする2つのアンサンブル、OSSIA、ALARM WILL SOUNDEによる、スティーヴ・ライヒのテヒリームと砂漠の音楽(cantaloupe/CA 21009)を聴く。


サイケデリックな時代のミニマル・ミュージックの夜明け!いとも自由なる、ライリーのin C。

CA21004.jpg
1964年に初演された、ミニマル・ミュージックを代表する作品、テリー・ライリー(b.1935)のin C。それは、まさに自由な音楽で、作曲家の書いたスコアに縛られない、不思議な作品... ライリーが書いたのは、モジュールと呼ばれる短いフレーズで、それが53個、並んでいる。だけ。演奏家は、それを順に演奏して行くのだけれど、モジュールを繰り返し演奏したり、場合によっては入れ替えたり、その時、その時の状況によって、演奏家に任されている。というより、ライリーが用意したミニマルな素材を基に、即興演奏を繰り広げる。という方が、よりイメージし易いのかも... で、何人で演奏してもいいし、何の楽器を用いてもいい... 始まりも、一斉に始めることはなく、ベースとなるCの音で奏でられるパルスに乗っかって、それぞれが53個のモジュールを様々に展開し、やがて全員が53個目のモジュールに辿り着いたなら、フェイド・アウトするように演奏をやめ、音が無くなったらそこで終了。という、希有な作品。いや、一期一会の音楽!こういう在り方こそ、真の音楽なのかもと思わせる。
演奏家と演奏家の間に生じるズレが、その都度、違ったリズムを生み、モジュールが進むにつれ、まるで万華鏡のように新たな表情を生み出して行く。そうして生まれる心地良いリズムのシャワーは、時にエキゾティックに感じられ、時にロックっぽく感じられ、バロックやブルックナーすらどこかに感じられ、スコアこそミニマルでありながら、演奏家たちが紡ぎ出す音楽は、マキシマム!様々なイメージが次々と浮かび上がり、聴く者はそうしたイメージの連続に包まれ、得も言えないトリップ感を覚えることに... まさに、サイケデリックな時代の音楽!この陶酔感と、先が読めないあたりに、1960年代の時代の気分というものがしっかりと刻印されている興味深さ。そして、この53個のモジュールを鳴らし始めれば、その時代が魔法のように、現代に立ち上がるおもしろさ!グローバリゼーションというブラックホールで汲々としている現代人にとって、in Cの自由さは、まさに癒し...
で、BANG ON A CANによるin Cなのだけれど、マンドリンや、ピパ(中国の琵琶、ビワ... ピパ... この響きの近さがおもしろい!)など、フォークロワなサウンドから、エレキ・ギターなども用いて、豊かな表情を引き出す11人の演奏家で繰り広げられる。で、サイケデリックな時代は今や昔... 1987年創設のBANG ON A CANが紡ぎ出すサウンドは、生々しくサイケデリックを繰り広げるのではない、少し引いた視点が印象的で。サイケデリックな時代のこども世代というのか、現代っ子な感覚が絶妙なスパイスを効かせていて、不思議とポップ。ポップな中にセンスを感じさせるカラフルさがふんわりと広がって、巧みにミニマリズムの単調さを薄め、奔放なヒッピー世代ではない、スマートな現代っ子世代のポジティヴが新鮮!

BANG ON A CAN TERRY RILEY IN C

ライリー : in C

BANG ON A CAN

cantaloupe/CA 21004




ポスト・モダンの時代のポスト・ミニマル・ミュージック、ライヒ、テヒリームと砂漠の音楽。

CA21009
さて、in Cの初演(1964)で、電気ピアノを弾いたのがスティーヴ・ライヒ(b.1936)。ライヒは、その翌年、テープ作品、"It's Gonna Rain"を発表し、真にミニマルなミュージックへと至り、以後、ミニマリズムを炸裂させて、"ゲンダイオンガク"に新風を吹き込む。それまでになく、聴衆を陶酔へと誘うミニマル・ミュージックの出現は、現代音楽におけるサイケデリックな時代を象徴し、独特の存在感を見せることになるのだけれど、サイケデリックな時代が過ぎ去った後、ミニマル・ミュージックはどうなったのか?ということで、ミニマル・ミュージックが、ポスト・ミニマル・ミュージックとして新たな展開を見せる頃、1980年代の2つの作品を聴くのだけれど...
1981年の作品、『旧約聖書』の詩篇をテキストに作曲されたテヒリーム(track.1-4)と、1984年の作品、ウィリアム・カルロス・ウィリアムズの詩集『砂漠の音楽』からの詩を用いた砂漠の音楽(track.5-11)。削ぎ落されたフレーズの反復によるミニマルなミュージックのストイックさは、ライヒこそ際立っていたように思うのだけれど、そこに具体的なストーリーが持ち込まれた1980年代の作品は、かつてのストイックさは失われ、テキストが持ち込まれることで、新たな複雑さが生まれ、そこにまた聴衆を眩惑する要素が生まれるのか... 特にヘブライ語で歌われるテヒリームのエキゾティックさは、ライヒのユダヤ人としてのルーツを強く打ち出し、ミニマリズムの反動とも思える様相を呈しつつ、ミニマル・ミュージック的な音楽=ポスト・ミニマル・ミュージックで織り成す不思議なバランス感覚が、かえってそれまでになくキャッチーな音楽を実現しているというおもしろさ!1980年代といえば、日本ではバブルが絶頂を目指して駆け上がって行った頃... 文化においては、戦後「前衛」の難解さが次第に煙たがられ、「ポスト・モダン」の名の下、古典が回帰し、より分かり易いものが求められ始めた頃... テヒリームにも砂漠の音楽にも、そんな1980年代の時代の気分が漂うのか、21世紀の現代からそのサウンドに触れると、「一昔前」という距離感が生む野暮ったさのようなものを薄っすら覚え、それでいて何か愛おしく感じてしまう。
という2つの作品を取り上げる、アメリカの名門、イーストマン音楽学校から誕生した2つの若いアンサンブル。で、テヒリーム(track.1-4)を担当するのが、ユースのアンサンブル、OSSIA... ユースなればこその若々しい感性がニュートラルな音楽を紡ぎ出し、そこから湧き上がる瑞々しいサウンドが何とも心地良い。続く、砂漠の音楽(track.5-11)では、OSSIAに加えて、その母体とも言える室内管弦楽団、ALARM WILL SOUNDEが加わり、よりパワフルにして鮮やかな演奏を繰り広げる。ライヒ作品は、その特殊性ゆえに、作曲者自身が率いるアンサンブルによる演奏、録音が多いわけだけれど、このアルバムでは、作曲者の手から離れての清新さが、21世紀のミニマリズムを響かせるよう。

STEVE REICH TEHILLIM THE DESERT MUSIC

ライヒ : テヒリーム

アラン・ピアソン/OSSIA

ライヒ : 砂漠の音楽

アラン・ピアソン/ALARM WILL SOUNDE and OSSIA

cantaloupe/CA 21009




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