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実験性にもポエジー... 捉われないケージの、底知れない音楽世界。 [before 2005]

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1915年、フランスからアメリカへと渡ったエドガー・ヴァレーズ(1883-1965)。そこで繰り広げた、ヨーロッパの歴史、伝統を断ち切る実験的な音楽は、アメリカの新たな世代の作曲家たちを刺激し、1920年代、ヴァレーズを中心に、ウルトラ・モダニストと呼ばれた作曲家たちが注目を集める。そうして始まる、アメリカの音楽における「前衛」... 第2次大戦後、音楽におけるアメリカの存在感は一気に増し、アメリカからヨーロッパへと影響を及ぼすまでになる。その代表が、ジョン・ケージ(1912-92)。西海岸でシェーンベルクに学び、やがて東海岸へと移り、抽象表現主義の画家たちと交流し、禅を学び、その広く見開かれた視野を以って生み出された音楽は、独特の存在感を放ち、音楽のみならず、広く芸術において、衝撃を与えることとなる。というケージ聴く...
デニス・ラッセル・デイヴィスの指揮、彼が創設したアメリカン・コンポーザーズ・オーケストラの演奏による、ケージが頭角を現す頃と晩年の作品で編まれたアルバム、"The Seasons"(ECM NEW SERIES/465 140-2)。コープランドに始まって、バーバーアイヴズとアメリカの近代音楽を巡り、ヴァレーズに続いて、アメリカにおける実験音楽の核心へと踏み込んでみる。

アルバムのタイトルにもなっている"The Seasons"(track.2-5)、プリペアド・ピアノ協奏曲(track.6-8)、トイ・ピアノのための組曲(track.10-14)と、まだ若かった頃の作品に、晩年のナンバー・ピース(特にタイトルはなく、楽器編成の数と、その編成による何番目の作品かをナンバリングした作品群... )から、"Seventy-Four(つまり、74人による編成... )"を2つのヴァージョン(track.1, 9)で... 若かきケージと晩年のケージが絶妙なコントラストとなり、「前衛」のトンガリばかりではない、硬軟含めた多彩さで聴かせるECMならではのセンスが光る1枚。訥々とした若きケージ作品に、実験性の中にも風格を感じさせる晩年のケージ"作品を織り込むことで、それぞれに詩情を引き出し、際立つようなところがあって... ヴァレーズを聴いた後でそうしたケージに触れると、その何とも言えない瑞々しいポエジーに、大いに惹き込まれてしまう。ヨーロッパの歴史、伝統を断ち切ったヴァレーズも、ケージを前にすればヨーロッパ生まれのDNAを強く感じ、そこから生まれるヘヴィーさを印象付けられるのか... 一方で、ケージの音楽の不思議なライトさ!ヨーロッパの歴史、伝統を受け継がないフロンティア、まっさらにして開かれた土地、アメリカならではの感覚をそこに見出す。それは、けして「アメリカン」なものではないけれど、アメリカだからこそ可能とする捉われない感覚に、とても興味深いものを感じる。
そんな、ケージの捉われないあたりを象徴するのが、プリペアド・ピアノ... ピアノ線に、ネジやら消しゴムやら異物を挿し込み、プリペアするという暴挙に出たケージの恐るべき発明... ピアノの、西洋音楽の基準となるマシーンとしての機能を歪めることで拓く、より自由な音楽世界... この、「コロンブスの卵」的なケージの大胆さには、本当に感服させられる。そして、異物でプリペアされたピアノが生み出す、飄々とした表情のおもしろさ!プリペアド・ピアノ協奏曲(track.6-8)で聴く、どこか朴訥とした抽象性は、気難しい抽象とは違う、どこかギャグめいた気分を漂わせつつ、何とも言えない「間」をたっぷりと取ることで、その空白に、非ヨーロッパ的な詩情を浮かび上がらせるから興味深い。禅を学んだケージなればこそ... プリペアド・ピアノが、何か禅寺の庭に設けられた水琴窟から響いて来るような、音楽的作為を感じさせない独特の瑞々しさを放ち、惹き込まれる。
そして、もうひとつ、ケージの捉われないあたりを物語る、トイ・ピアノの採用... トイ・ピアノでアカデミックな音楽に成り得るのか?!という思いに駆られるのだけれど、そんなリアクションを楽しむかのように、飄々と一本指で奏でられる、トイ・ピアノのための組曲(track.10-14)。「トイ」のイメージをそのままに、愛らしいメロディを生み出し、これまた瑞々しく、表情豊かな音楽に仕上げてしまうのだから、かえってケージの底知れなさを思い知る。で、このアルバムのおもしろいところが、その組曲を、ケージとも親しかったルー・ハリソン(1917-2003)がオーケストレーションしたヴァージョン(track.15-19)も取り上げてしまうところ。トイ・ピアノのための作品をオーケストレーション?!という思いに駆られるのだけれど、それが何か?というくらいに、至極当たり前にオーケストレーションしてしまうハリソンのオプティミストっぷりに頭が下がる!てか、ウケる。
そんな、思い掛けなく多彩な音楽を聴かせてくれた、デイヴィス、アメリカン・コンポーザーズ・オーケストラ。近現代音楽を専門とするオーケストラだけに、ケージ作品はお手の物("Seventy-Four"はじめ、多くのケージ作品を初演している... )と言ったところだろうか... とはいえ、近現代音楽を専門とするオーケストラ、アンサンブルにありがちな冷たさを感じることはなく、一音一音に仄かな温もりを感じ、そうした音が束になって生み出される、ふんわりとカラフルなあたりがとても印象的。だからこそ、ケージの音楽に漂うポエジーは際立ち、改めて魅了されることに... で、忘れてならないのが、プリペアド・ピアノ、トイ・ピアノを弾く、マーガレット・レン・タン!プリペアド・ピアノでは、一音一音、繊細にして深い表情を生み出す一方、トイ・ピアノでは、「トイ」の楽しさを鮮やかに活かしながら、思い掛けなく雄弁な音楽を繰り広げ、驚かせてくれる。

JOHN CAGE THE SEASONS

ケージ : Seventy-Four ヴァージョン I
ケージ : The Sesons
ケージ : プリペアド・ピアノと室内オーケストラのための協奏曲 *
ケージ : Seventy-Four ヴァージョン II
ケージ : トイ・ピアノのための組曲 *
ケージ : トイ・ピアノのための組曲 〔オーケストラ版、オーケストレーション : ルー・ハリソン〕

マーガレット・レン・タン(プリペアド・ピアノ、トイ・ピアノ) *
デニス・ラッセル・デイヴィス/アメリカン・コンポーザーズ・オーケストラ

ECM NEW SERIES/465 140-2




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