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広がるジャズのクラシックにおける化学変化、"new world jazz"! [before 2005]

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7月4日は、アメリカの独立記念日。ということも、あるような、ないような... 結局のところ、気まぐれに尽きるのだけれど、先月後半からアメリカを集中的に聴いております。で、コープランドバーバーアイヴズと聴いて来て、このあたりでジャズに注目してみようかなと... アフリカから連れて来られた奴隷たちのリズムが五線譜に消化されたラグタイム、奴隷解放後も過酷な状況に置かれたアメリカ南部の黒人労働者たちの叫びとしてのブルース、そうしたアメリカの闇を物語る音楽が、やがてジャズへと昇華され、1920年代、一世を風靡。さらに、そのブームは大西洋を渡り、ヨーロッパをも席巻。近代音楽を彩った多くの作曲家たちがジャズに魅了され、ジャンルの壁を乗り越えて、ジャズとクラシックの興味深い交感が始まる。
そんなジャズとクラシックの交感を俯瞰するアルバム... マイケル・ティルソン・トーマスと、彼が芸術監督を務めるマイアミのユース・オーケストラ、ニュー・ワールド交響楽団が、近代から現代に掛けて、アメリカからヨーロッパに掛けて、クラシックにおけるジャズの化学変化を取り上げるアルバム、"new world jazz"(RCA RED SEAL/09026-68798-2)を聴く。

始まりは、現代アメリカを代表する人気作曲家、ジョン・アダムズの1995年の作品、ロラパルーザ!これがジャズかと言われると、かなり微妙なのだけれど... 微妙ではあるけれど、聴こえて来ないではない... というより、ジャズばかりか、ロックであり、メキシカンな色合いがあって、コープランドのモダニズムすらあって、ある意味、アメリカにおける多文化の集合体というのか、それらがジョン・アダムズのポスト・ミニマルという作法でキュビスティックに展開される希有な音楽!"lollapalooza"というタイトルは、「途方もなく凄いこと」という俗語なのだとか... いや、言い得て妙で、何でも呑み込んでしまうアメリカ文化の大食漢な様を見事に表現し切ったパワフルなナンバー!そして、このロラパルーザが、このアルバムを象徴しているように感じる。
そこから、ジャズとクラシックの交感の始まり、ラプソディー・イン・ブルー(track.2)へと立ち返ってみれば、そのヴィルトゥオージティに溢れる音楽が何とも古風に感じられて、これぞメイド・イン・アメリカなはずが、ヨーロッパを思わせるからおもしろい。で、その後で、バーンスタインのプレリュード、フーガとリフ(track.3)を聴くのだけれど... バッハのような厳めしいタイトルの一方で、ビッグ・バンドそのものを感じさせるクールなサウンドがとにかく爽快!派手にジャズを繰り広げつつも、アメリカの近現代音楽における実験精神と、ヨーロッパの伝統的な語法をきっちりと盛り込めている器用さがバーンスタインらしいなと。それでいて、気分を上げてくれる!
ここから、3曲、ミヨーのバレエ『世界の創造』(track.4)、ストラヴィンスキーのエボニー・コンチェルト(track.5)、ヒンデミットのラグタイム(track.6)と、ジャズのヨーロッパでの化学変化が取り上げられるのだけれど、これがまたおもしろい!必ずしもジャズを消化し切れていないところもあるその音楽の、かえって多様な表情を生む興味深さ!どうもブラジルのサウダージとカーニヴァルな気分が強いミヨー... 擬古典主義とジャズ、無理がありそうな組合せを、マイペースで飄々と奏でしてしまうストラヴィンスキー... マシーン・エイジの気分を煌びやかなベルリンのキャバレーで鳴り響かせるようなヒンデミット... それぞれの個性とスタンスで織り成されるメイド・バイ・イー・ユーの奇天烈さは、アメリカよりもより自由にジャズと向き合った産物なのかもしれない。
そんなヨーロッパでも活躍したアメリカの作曲家、アンタイル... パリを大騒ぎさせたアンファン・テリヴルの、その大騒ぎを引き起こした『バレエ・メカニーク』と同じ年、1925年に作曲したジャズ・シンフォニー(track.7)を聴くのだけれど... メカニークなアンタイルならではのマシーン・エイジの魅力と、それと重なるジャズ・エイジの魅力を溶接して、奇妙なオブジェクトを生み出す。まさに悪童の音楽か。その後で取り上げられるのが、ハリウッドで活躍した「映画音楽の祖父」と呼ばれるデイヴィッド・ラクシンの映画『悪人と美女』(1952)のテーマ(track.8)。これはジャズか?とも思うのだけれど、サックスが歌うメロディーがジャジーで、何とも言えずムーディー... そうしたあたりに、ムード音楽へともつながるジャズの柔軟性も見出せるのかもしれない。
そんな、ジャズの化学変化を俯瞰する"new world jazz"。まず、マイケル・ティルソン・トーマス(以後、MTT... )の選曲が本当におもしろい。ラプソディー・イン・ブルー(track.2)のようなアイコン的作品から、あえてジャズのイメージを攪乱するような作品まで、縦横無尽にジャズを捉えて行く大胆さ!いや、こういう自由さこそ、本来のジャズのスピリットのように感じる。そんなMTTに率いられて、若さ溢れる演奏を繰り広げるニュー・ワールド響。若さなればこそのノリの良さばかりでない、繊細さも印象的で... まったく以って盛りだくさんな内容を、実に器用にこなしながら、ひとつにまとめてしまう力量は大したもの。そうして聴こえて来る、ジャズのニュー・ワールド。ステレオ・タイプに囚われない、その広がりが新鮮!

New World Jazz ・ New World Symphony ・ Michael Tilson Thomas

アダムズ : ロラパルーザ
ガーシュウィン : ラプソディー・イン・ブルー 〔1922年、オリジナル版〕
バーンスタイン : プレリュード、フーガとリフ
ミヨー : バレエ 『世界の創造』
ストラヴィンスキー : エボニー・コンチェルト
ヒンデミット : ラグタイム
アンタイル : ジャズ・シンフォニー
ラクシン : 映画 『悪人と美女』 から テーマ

マイケル・ティルソン・トーマス(ピアノ)/ニュー・ワールド交響楽団

RCA RED SEAL/09026-68798-2




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