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ウィーンからハリウッドへ、映画音楽からヴァイオリン協奏曲、 [before 2005]

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ノルマンディー上陸作戦(1944)から70周年というニュースをいろいろと聞いた昨日、何となく第2次大戦を音楽の面から見つめてみた。例えば、ナチスによるユダヤ人迫害、そしてオーストリア併合(1938)... 世界史の教科書で漠然と捉えていた事柄も、それにより音楽の世界で引き起こされた事態を改めて見つめると、戦争の重さをひしひしと感じずにはいられない。後期ロマン主義、ウィーンの爛熟期を彩った多彩な面々たちの多くが、アメリカへと亡命する。いやウィーンに限らず、ヨーロッパの多くの音楽家がアメリカへと亡命した。当然、アメリカは一気に輝きを増し、ヨーロッパの衰微は著しかった... 芸術の雄弁さの一方で、文化とは実に儚い...
さて、ひたすらロマン主義を追って来て、その先に映画音楽が見えたような気がしたツェムリンスキー。その後で、ツェムリンスキーに師事し、実際に映画音楽の世界で活躍したコルンゴルトを聴いてみようかなと... ギル・シャハムのヴァイオリン、アンドレ・プレヴィンの指揮、ロンドン交響楽団の演奏で、コルンゴルトのヴァイオリン協奏曲(Deutsche Grammophon/439 886-2)を聴く。

エーリヒ・ヴォルフガング・コルンゴルト(1897-1957)。
音楽評論家を父に、音楽環境に恵まれて育ったコルンゴルト少年は、すぐさま才能を開花させ、モーツァルトの再来として、ウィーンの音楽シーンの注目の的に... ツェムリンスキーもそのオーケストレーションを手伝ったという、11歳の時のバレエ『雪だるま』(1908)の初演は、ウィーン宮廷歌劇場にて、フランツ・ヨーゼフ帝も隣席しての、大成功!というから、タダモノではない。その後も、ウィーンで順調にキャリアを積み、10代にしてすでに人気作曲家として活躍。23歳の時には、オペラ『死の都』(1920)が国際的な成功を収め、その名声はウィーンに留まらず知れ渡り... そうした最中、アメリカで活躍していたプロデューサー、ラインハルトと知り合い、ブロードウェイのミュージカルの仕事を受けたりと、活動の幅を広げる。1934年には、ハリウッドに進出していたラインハルトから誘いを受け、映画音楽にも取り組むことに。が、その矢先、1938年、ナチスによるオーストリア併合。ユダヤ系だったコルンゴルトは、そのまま亡命を余儀なくされ、映画音楽の世界での本格的な活躍が始まる。ハリウッドでは、本場の後期ロマン主義、ウィーンの伝統を惜しみなく持ち込み、その仕事ぶりは絶賛され、2度のアカデミー作曲賞にも輝く。一方で、芸術音楽からは距離ができてしまい、ジレンマを抱えることとなった。
そうした中、逆に、映画音楽で培った財産を用いて作曲されたのが、ここで聴くヴァイオリン協奏曲(track.4-6)。コルンゴルトがそれまで手掛けた映画音楽のテーマを用い、巧みにコンチェルトに編集された音楽は、映画音楽ならでは流れの良さと、往年のハリウッド映画を思わせるゴージャス感が最高!第2次大戦、終戦の年に作曲され、その2年後、かのハイフェッツによって初演(1947)された時には、コルンゴルトのロマンティックなスタイルが時代錯誤と批判されたとのこと... いや、わかるのだけれど、映画から逆輸入されたロマン主義というのは、実はかなり斬新だったのでは?コルンゴルトが映画にロマン主義を輸入し、映画音楽の雛型を作り上げ、それをまたコンチェルトに逆輸入するという興味深さ... ふと思い返せば、文学の新しい潮流が音楽に持ち込まれて生まれたのがロマン主義であって、ストーリーに刺激され発展し、やがてストーリーを動かす音楽へと還元され、それがまたコンチェルトへという連なりに、音楽史のおもしろさを感じる。何より、ウィーン流がハリウッド風に変換されて放つ香気!ヨーロッパのヘヴィーさは軽減され、映画のセットのようなふんだんのロマンティシズムに彩られ、時代錯誤を逆手に取った音楽の在り様は意外にもクールですらある。いや、ウィーンの神童は死んでいない!
さて、コルンゴルトの前に、アメリカのロマン主義者、バーバー(1910-81)の、1941年に初演されたヴァイオリン協奏曲(track.1-3)も取り上げられるのだけれど、同時代の作品として、何よりメイド・イン・アメリカのロマン主義として、コルンゴルトのコンチェルトと並べられると、とても興味深い。バーバーの音楽にはアメリカの広大な風景が浮かび... またそれがアメリカの気候を映すようにどこかドライでもあって、そのあたりが何気なくモダニスティックにも感じられ... そういうバーバーを聴いてからコルンゴルトを聴くと、コルンゴルトの音楽もどこかアメリカナイズされて聴こえるからおもしろい。いや、アメリカの大地が育むセンスは間違いなくあるなと、2人のロマン主義に触れて、感じ入る。一方、ロマン主義に留まるコルンゴルトに対し、モダニズムへと踏み出すバーバー... その終楽章(track.3)は、プロコフィエフを思わせるモダニズムが軽やかに弾け、マンハッタンの摩天楼を思わせるキュビスティックなイメージが小気味良く、素敵。これもまたアメリカならではか...
という、魅惑的な2つのコンチェルトを奏でるシャハムのヴァイオリンがすばらしい!シャハムならではの、実に安定した揺ぎ無い音色が、しっかりと2人の音楽を捉えて、その竹を割ったようなシンプルな居ずまいが、2人の「アメリカン」を強調するかのよう。強調してこそリッチに聴こえる妙。で、やはりハリウッドで活躍したプレヴィンの指揮だからこそ、「アメリカン」をどう響かせるか、しっかりと心得ていて、ロンドン響をカラフルにセンス良く鳴らし、1940年代、アメリカのロマン主義を瑞々しく繰り広げる。そうして、2人の作曲家による音楽の、どこか夢見るようなサウンドを、目一杯、キラキラと輝かせる!

BARBER & KORNGOLD: VIOLIN CONCERTOS, ETC.
GIL SHAHAM/LONDON SYMPHONY ORCHESTRA/ANDRÉ PREVIN


バーバー : ヴァイオリン協奏曲 Op.14
コルンゴルト : ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 Op.35
コルンゴルト : 組曲 『空騒ぎ』 Op.11 から 〔ヴァイオリンとピアノのためのシェイクスピア劇への付随音楽〕
   花嫁の部屋の乙女/ドグベリーとヴァージェス、夜景の行進/間奏曲、庭の場/仮面舞踏会、ホーンパイプ

ギル・シャハム(ヴァイオリン)
アンドレ・プレヴィン(ピアノ)/ロンドン交響楽団

Deutsche Grammophon/439 886-2




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