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それは、旧時代の終末?フランツ・シュミット、『七つの封印の書』。 [before 2005]

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さて、6月となりました。そして、5月末から暑いです。すでに、夏...
とはいえ、梅雨はまだだし、今年はエル・ニーニョだというから、今後の天候はまた変わるのだろうけれど。しかし、暑いのには参ります。気温こそ、まだまだ酷暑の頂には及ばずとも、今年、最初の暑さというのが、慣れない高温に身体がついて行けず、何だか、知らず知らずに、疲労感、蓄積中。熱中症のニュースがどっと出て来たことに、納得(いや、気をつけましょう!)。そこに来て、ロマン主義疲れも... 振り返れば、4月からずっとロマン主義を聴いておりまして、さらには、前期ロマン主義から後期ロマン主義へ... よりヘヴィーになってゆくサウンドが、ずしりと圧し掛かるようで、息苦しい。ならば、止めればいいのだけれど、止められない。というのが、ロマン主義の中毒性?特に、後期ロマン主義の豊潤さには、麻薬性があるよなぁ。
で、やっぱり後期ロマン主義... ファビオ・ルイジが率いた、MDR交響楽団の演奏、MDR放送合唱団のコーラス、若手からベテランまで、実力派の歌手たちを揃えての、フランツ・シュミットの大作、オラトリオ『七つの封印の書』(Querstand/VKJK 0411)を聴く。

新約聖書のヨハネの黙示録を題材に、7つの封印が解かれ、終末が襲い来るカタストロフを、大オーケストラに、大コーラス、6人の歌手と、パイプ・オルガンまでをも登場させて、壮大に描き出すフランツ・シュミット(1874-1939)のオラトリオ、『七つの封印の書』。このオラトリオが完成したのが、1938年... それは、フランツ・シュミットの死の前年で、フランツ・シュミットが少年の頃から暮らすウィーン、オーストリアが、ナチス・ドイツによって併合された年... つまり、第2次大戦が目前に迫った時期であり、そうした不穏な空気がこのオラトリオの中には充ち満ちている。やがて訪れる戦争の惨禍を予見するかのよう。このオラトリオには、何かそうした預言めいた不思議なパワーを感じ、終戦から69年を向かえる今を以ってしてもなお、独特の緊張感を覚えるような気がする。
という音楽... 1930年代ともなれば、時代は完全に近代音楽の時代。けれど、そうした中に在って、ロマン主義を貫くフランツ・シュミットの音楽が、独特な緊張感をもたらしていて。第2次大戦により崩れ去る旧体制を象徴するように、ロマン主義という伝統が際立つのか?後期ロマン主義からは時代を少し遡って、ワーグナーを思わせる鮮烈な情景を描き上げ、シューマンを思わせる仄暗さで包みながら、時折、バッハを思わせるような古風さも覗かせて... 第2部、冒頭の壮麗なるオルガンの独奏(disc.2, track.1)などは、より古い時代を印象付けて、第2部、押し迫ってからア・カペラで歌われる男声によるコーラス(disc.2, track.9)は、まるでグレゴリオ聖歌... 後期ロマン主義をベースにしながらも、そこにはフランツ・シュミットに至る音楽の系譜がひとつにまとめるような感覚すらあるのか。それがまた、旧時代の音楽(クラシック?)そのものの終末を描くようでもあり、感慨が広がる。一方で、近代音楽にも敏感に反応を示すフランツ・シュミットもいて... 印象主義や表現主義的なセンスを巧みに引き入れ、黙示録の人知を越えた情景を効果的に響かせるあたりは、見事!そうしたあたり、どこかショスタコーヴィチを思わせるところもあって(ショスタコーヴィチにとっての黙示録は、革命か... )、おもしろい。そんな、ロマン主義と古い時代、ロマン主義と同時代を鋭い感性で結んでゆくフランツ・シュミットの器用さに、改めて感心させられる。
で、この大作に挑んだのが、ルイジ、MDR響... 4つの交響曲に、左手のためのピアノ協奏曲までもリリースするという、それまでになかったフランツ・シュミットの仕事を俯瞰するシリーズを展開した彼ら... その最初のタイトルがこの『七つの封印の書』だった。そういう点で、最も自信のあったタイトルだったか。ルイジがMDR響から引き出すサウンドは、明晰かつ引き締まったもので、「大作」に囚われることなく、ナチュラルに音楽を紡ぎ出していて、とても印象的。何より、鬼才、ルイジならではの有機的な音楽作りが、黙示録のおどろおどろしいあたりにスムーズな展開をもたらして、天変地異といった恐怖のインパクトばかりでなく、カタストロフから救済へという大きな流れを生み出していることに魅了される。そんなルイジに鍛えられたMDR響のクリアなサウンドがまたフランツ・シュミットの音楽の隅々までを照らし、雰囲気に流されることなく、明確に音楽を構築してゆく姿がクール!黙示録を如何にもなロマン主義で鳴らす巨大オラトリオは、時として色物に映りかねないけれど、MDR響の精緻な演奏は、まるで作品の内側から全体を見つめるようで、フランツ・シュミットの希有な魅力を詳らかにする。
さて、忘れてならないのがMDR放送合唱団!室内合唱を思わせるドイツのコーラスならではの高機能性と、巨大オラトリオに本物の迫力を生み出すパワフルさ... MDR放送合唱団のフレキシブルさがあってこそ、このオラトリオは、俄然、活き活きとしたものに。もちろん歌手陣もすばらしく、輝かしくやわらかな声でこのオラトリオのストリーテラーとも言えるヨハネを歌い上げるリッパート(テノール)、深くも透明感のある低音が印象的な主の御声を歌うローテリング(バス)ら、誰もが魅力的で、絶妙なアンサンブルを聴かせてくれる。そうして繰り広げられる黙示録の世界の不思議なポエジー!恐怖を煽るでもなく、説教臭くなるでもなく、淡々と終末を綴り、聴こえて来る雄弁さに、より深く感動させられる。

FRANZ SCHMIDT | DAS BUCH MIT SIEBEN SIEGELN | FABIO LUISI DIRIGENT

フランツ・シュミット : オラトリオ 『七つの封印の書』

聖ヨハネ : ヘルベルト・リッパート(テノール)
主の御声 : ヤン・ヘンドリック・ローテリング(バス)
アンネッテ・ダッシュ(ソプラノ)
ナテラ・ニコリ(メッゾ・ソプラノ)
ヨハネス・クム(テノール)
ギュンター・グロイスベック(バス)
MDR放送合唱団
ファビオ・ルイジ/MDR交響楽団
ミハエル・シェーンハイト(オルガン)

Querstand/VKJK 0411




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