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リヒャルト・シュトラウス、ナチュラル・ボーン・ロマンティスト、 [before 2005]

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正直に言うと、リヒャルトは苦手な作曲家でした。
今でこそ、克服されてはいるけれど、どうも掴み難い印象があって... で、生誕150年のメモリアル、今、改めて聴く、リヒャルト... ホルン協奏曲家庭交響曲と聴いて来て、ぼんやりと、かつての印象が蘇る。やっぱり、リヒャルトの音楽は一筋縄では行かないなと... けど、以前と違うのは、その掴み難さが、興味深く思えるところ。ロマン主義の流れをゆっくりと下って来て見つめたリヒャルトの音楽が持つ独特さ、それは展開が読めないこと?迸る楽想がそのまま綴られてゆくような、どこか即興的とも言える縦横無尽なあたり?そうしたあたりが、掴み難く感じたところだったか... リヒャルト以前のロマン派には無かったこの感覚... これって何だろ?
そこで、これぞリヒャルト!という作品に立ち返ってみようかなと思い立ち、久々に引っ張り出して来たアルバム... デイヴィッド・ジンマン率いるチューリヒ・トーンハレ管弦楽団の演奏で、リヒャルト・シュトラウスの交響詩、「ドン・ファン」、「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」、「ツァラトゥストラはかく語りき」(ARTE NOVA/74321 87071 2)の、代表作、3作品を久々に聴く。

1曲目、リヒャルトの出世作と言われる、リヒャルト、24歳、1888年の作品、「ドン・ファン」。なのだけれど、"24歳"ということを意識して聴くと、作曲家、リヒャルト・シュトラウスのただならなさを思い知らされる。そこには、すでに、リヒャルトの音楽が持つ独特さが確立されていて。さらには、それが自信を以って表明されていて、聴く者を見事に独自の世界へと浚って行く... とても20代半ばの青年の完成度、スケール感とは思えない。一方で、20代半ばの若き作曲家ならではの瑞々しさ、向こう見ずな魅力があって、そのあたりがドン・ファンというキャラクターと絶妙に共鳴し、鮮やかにして豪快な音楽を生み出す。で、そうしたあたりに、この上なくロマン主義を感じてしまう。しかし、他のロマン派の大家たちの音楽とは何かが違う。この違いがとても気になる。
ここまで、ロマン主義の流れをゆっくりと下って来て、ロマン派の大家たちの音楽に共通して見出したのは、意外にも古典主義的な気質... ロマン主義の音楽が如何に前時代に立脚して発展を遂げたかを改めて知ることとなったのだけれど、リヒャルトの音楽にはそれがない。交響曲に物語を持ち込んだベルリオーズ、交響詩を生み出したリストなど、リヒャルトの先人たちにも、古典主義に捉われず、より自由な音楽を展開して、その自由さにこそ「ロマン主義」を見出した作曲家はいるけれど、リヒャルトの音楽には、そうした先人たちとも違い、ロマン主義への気負いがまったく無い。自身のイズムとして、当たり前のようにロマン主義が存在している。つまり、ナチュラル・ボーン・ロマンティストということか?19世紀も半ばを過ぎてから生まれたリヒャルトの世代感覚?
2曲目、お馴染み、「ティル・オイレンシュピーゲル... 」(track.2)。今、改めて聴くと、ティルのいたずらの数々を鮮やかに描き取った音楽の奔放さには、古典主義の枠組みでは描けないだろう自由さを感じ... 以前はそのあたりに、振り回されるような感覚を覚えていたのかもしれない。けれど、周囲を振り回すほどの奔放さこそ、19世紀、ロマン主義が希求して来た精神か。古典主義の洗練された世界への反抗としてのロマン主義... という構図を考えれば、ティルは、ある意味、象徴的なキャラクターと言える。いや、ティルに限らず、ドン・ファンも... しかし、リヒャルトの描き出す、ティル、ドン・ファンは、突き抜けて奔放な気がする。反抗の対象としての古典主義がすでに遠い過去となってしまった段階でのロマン主義は、何だか迷走し始めている印象も受ける。
この「迷走」こそが、後期ロマン主義の心情か... そうして、最後に取り上げられる「ツァラトゥストラ... 」(track.3)に至って、その迷走がそのまま物語となって表れるから、このアルバムの展開はおもしろい!神亡き後、ツァラトゥストラの葛藤と、超人へと至る道を綴ったニーチェによる物語を題材に編まれた交響詩は、お約束の鮮烈な導入部の後で、瞑想的にして、時に夢見るようでありながら、苦悩にも充ち、鋭い葛藤を窺わせる雄大な音楽が展開される。さらには、ゾロアスター=ツァラトゥストラのミステリアスな存在が、ロマン主義に神秘主義を招き入れて、新たな音楽の胎動を感じさせもする。1896年、リヒャルト、32歳の作品、「ツァラトゥストラ... 」は、まさに"世紀末"の音楽。「ドン・ファン」からわずか6年で、こういう段階へと至ったかと、感慨も...
という、代表作、3作品を聴かせてくれた、ジンマン+チューリヒ・トーンハレ管の演奏がすばらしい!彼らならではの明晰さとタイトさが、リヒャルトの音楽を肥大させることなくしっかりと締めて、より分かり易い音楽の流れを生み、リヒャルトの音楽が持つ独特さをくっきりと浮かび上がらせる巧さ!派手に立ち回る「ドン・ファン」、表情豊かな「ティル・オイレンシュピーゲル... 」(track.2)に続いて、神秘を仄暗い中に輝かせる「ツァラトゥストラ... 」(track.3)と、シンプルに作曲年代順に並べつつも、絶妙に3つの交響詩をつなげるような感覚があって、ロマン主義が新たな次元へと旅立とうとする大きな物語を見せてくれるよう。聴き終えての充実感は、単なる名曲集に終わらないこのアルバムのおもしろさを示している。

RICHARD STRAUSS: Don Juan ・ Till Eulenspiegel ・ Zarathustra

リヒャルト・シュトラウス : 交響詩 「ドン・ファン」 Op.20
リヒャルト・シュトラウス : 交響詩 「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」 Op.28
リヒャルト・シュトラウス : 交響詩 「ツァラトゥストラはかく語りき」 Op.30 *

デイヴィッド・ジンマン/チューリヒ・トーンハレ管弦楽団
プリモシュ・ノヴァシェク(ヴァイオリン) *

ARTE NOVA/74321 87071 2

リヒャルト・シュトラウス、生誕150年に、リヒャルトを聴く!
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