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リヒャルト・シュトラウス的、ホーム・ムービー、家庭交響曲。 [before 2005]

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さて、前回に続いてのリヒャルト・シュトラウス、今回は、家庭交響曲を聴いてみることに... しかし、改めて考えてみると、「家庭」と「交響曲」という組合せが、何だか凄い。「家庭」から最も遠いのが「交響曲」のように感じるのだけれど。そもそも、自らの家庭を交響曲に描き込もうというリヒャルトの感覚が凄い。交響詩「英雄の生涯(英雄=リヒャルト)」もそうだけれど、リヒャルトの自らを見つめる視線って、何とも言えない厚かましさがあるような... いや、そこにこそ、リヒャルトならではの独特の音楽が生まれるわけか... リヒャルトのある種の自信の表れが、そのオーケストラ作品の音の多さに表れる?以前は、そうした"ビッグ・サウンド(ビッグ・マウス的な... )"に中てられて、何となく苦手だったリヒャルト。今となっては、その誇大なあたりがキッチュに思えて、魅力的に感じられるから、聴く側の度量も"ビッグ・サウンド"に追い付いて来たのかも... そうして、改めて聴く家庭交響曲...
やっぱり、アンドレ・プレヴィンの指揮、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の演奏で、リヒャルト・シュトラウスの家庭交響曲(Deutsche Grammophon/449 188-2)を聴く。

1894年、リヒャルト、30歳の時、ソプラノ歌手、パウリーネ・デ・アーナと結婚。その3年後、1897年、息子、フランツが誕生。そのフランツの成長とともに、リヒャルト一家も落ち着いただろう、1903年に完成されたのが、この家庭交響曲。それは、リヒャルトの最後の交響詩、「英雄の生涯」(1898)と、最初のオペラの成功作、『サロメ』(1905)の狭間にある作品で、ちょうど世紀が替わり、リヒャルトの創作も交響詩からオペラへと転換する頃の作品。とるなと、何か新しい兆しが見受けられるのかと期待したくなるのだが、あくまで「家庭」の「交響曲」であって、家庭的。時代を切り拓くような大胆さよりも、家庭の何気ない表情を見つめ、ほのぼのとしている。そうしたあたりが、どこか地味なイメージを与えて... 青年期の集大成、「英雄の生涯」と、新時代のオペラ、『サロメ』のインパクトに挟まれて、リヒャルトにとっては、箸休め的作品だったのか?そんな印象も受ける。
が、それくらいのスタンスで臨んだ作品こそ、リヒャルトの素の姿が浮かびあがり、改めて聴いてみると、とても興味深く感じられる。まず、家庭交響曲の主役、リヒャルト一家をつぶさに捉えた丁寧な描写の妙!第1部で、リヒャルト(夫)、パウリーネ(妻)、フランツ(息子)、それぞれの性格を物語るテーマを提示し、そこからリヒャルト一家の一日を追う、ホーム・ムービーを思わせる音楽が始まる。こどもを描いた第2部(track.2)では、フランツの愛らしさが溢れ、そこにはフランツに注がれる父親の愛情に溢れた眼差しを感じ、家庭人、リヒャルトの充実を感じずにはいられない。続く、夫婦を描く第3部(track.3)は、ロマンティックだけれど仄暗いのが印象的。恐妻家としても知られるリヒャルトだけに、結婚生活そのものに関してはネガティヴだったのか?一転、第4部(track.4)では、リヒャルトならではの甘美なロマンティックが充満し、夜、ふたりの盛り上がりっぷり(このあたりには『サロメ』への兆しが表れているか... )が、まさに"ビッグ・サウンド"!これまでの家庭的な雰囲気は、夜、一気に英雄になってしまうのだから、聴いている方が赤面してしまう。が、やがて夜も明ける家庭交響曲... 朝、7時の目覚まし時計で始まる第5部(track.5)の絶妙な切り返し!再びリヒャルト一家が忙しなく動き出す微笑ましさ... ま、騒々しいのだけれど、それでも微笑ましいのは、リヒャルトの家族への愛情をしっかりと感じられるからだろうか。で、やがて壮大なるフィナーレへ... やっぱり"ビッグ・サウンド"が展開されて、ホーム・ムービーのはずが、往年のハリウッド大作を見せられたような、そんな感覚になってしまうから、やっぱり厚かましい、リヒャルト。けど、家庭という、最も身近な存在を丁寧に音楽に綴ることで、ド派手なオーケストレーションで誤魔化されない、リヒャルトの素の力量というものを再確認させられるところもあり、「英雄の生涯」、『サロメ』では味わえない充実感が印象的だ。
そんなリヒャルト一家の日常を、活き活きと聴かせてくれるプレヴィン!それはまるで、楽しいホームドラマを見るかのよう。このあたり、映画音楽の世界でも活躍したマエストロだけに、どこか映像的なものを感じるのか。芝居掛かることなく、ナチュラルな表情を紡いで、他愛の無い悲喜交々を卒なく見せるのが実に上手い。そうして聴こえて来る、リヒャルトの音楽が持つ映画音楽的な感覚!そういう感覚を引き出すプレヴィンのセンス!リヒャルならではの"ビッグ・サウンド"には、ハリウッド風のポップな仰々しさを重ね、巧みにエンターテインな方向へと導き、交響曲の堅苦しさを忘れて、よりおもしろく聴かせてくれるプレヴィン。そんなマエストロに絶妙に応えるウィーン・フィルの流麗にして手堅い演奏も効いていて。派手なリヒャルトの音楽を落ち着かせ、家庭交響曲の交響曲にして独特な日常感をふんわり漂わせつつ、しっかりと"ビッグ・サウンド"も鳴らす巧さ!そんな演奏があってこそ、「英雄の生涯」、『サロメ』にも劣らない家庭交響曲のおもしろさを、たっぷりと味わえた。
さて、家庭交響曲の後で、グラフマンのピアノによる、左手のためのピアノ協奏曲、家庭交響曲余禄(track.6)も取り上げられるのだけれど... かのパウル・ヴィトゲンシュタイン(第1次大戦で右手を失ったピアニスト... 20世紀、多くの左手のためのピアノ作品を生む切っ掛けとなったピアニスト... )の委嘱によるコンチェルトで、息子、フランツが腸チフスになり、その時のリヒャルトのハラハラと、快復してハッピーなあたりを、家庭交響曲のフランツのテーマを用い、「余禄」として描いた作品。家庭交響曲から22年を経ての、1925年に完成された作品だけに、より深化したリヒャルトの重厚な音楽が魅力的。何より、左手のみでありながら、雄弁なピアノが聴かせる!グラフマンの豪快で鮮やかなタッチが、また見事!

R.STRAUSS:SINFONIA DOMESTICA ・ PARERGON
GRAFFMAN/WIENER PHILHARMONIKER/PREVIN


リヒャルト・シュトラウス : 家庭交響曲 Op.53
リヒャルト・シュトラウス : 家庭交響曲余禄 Op.74 *

ゲーリー・グラフマン(ピアノ) *
アンドレ・プレヴィン/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

Deutsche Grammophon/449 188-2

リヒャルト・シュトラウス、生誕150年に、リヒャルトを聴く!
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