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"交響曲"を越えてゆく「ロマン」、リストのファウスト交響曲。 [before 2005]

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えーっ、ロマン主義について、改めて見つめている、この春。普段、あまりに何気なく捉えている「ロマン主義」という言葉を、いろいろと考えてみると、本当に興味深いなとつくづく感じる。そもそも、何を以ってして「ロマン主義」なのか?あまりに何気なく捉えている... ということは、その言葉を便利に使っているというだけで、実際は漠然としたイメージしか持っていなかったことに気付かされ、反省するやら、勉強になるやらで。そうして、今さらながらに、ロマン主義の魅力に惹き込まれ、クラシックの核となるレパートリーが多いことに、納得。
さて、そのロマン主義。シューベルト、メンデルスゾーン、シューマンと踏み込んで来ての、その最たる作品かなと... サイモン・ラトルの指揮、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の演奏による、リストのファウスト交響曲(EMI/5 55220 2)を久々に聴いてみた。

19世紀も半ばを過ぎた頃、リストが、ゲーテ(1749-1832)の代表作、戯曲『ファウスト』を題材に作曲した、ファウスト交響曲。ゲーテ、所縁(宰相を務めていた... )の地にして、リストが宮廷楽長(1848-59)を務めていたヴァイマルにて、1857年に初演される。さて、ロマン主義の音楽が、ロマン主義文学の影響から生まれたとするならば、ロマン主義文学の端緒、ゲーテは、ロマン主義の音楽の祖父のような存在になろうか?で、その代表作を基にした交響曲というのは、ある意味、ロマン主義音楽の完成を見るようで、とてもシンボリックに思えて来る。また、ロマン主義の前半の交響曲(シューベルト、メンデルスゾーン、シューマン... )を聴いてから、リストの交響曲に触れると、その壮大でドラマティックな音楽世界に、より明確になったロマン主義を感じずにはいられない。で、それを特に感じるのが、皮肉なことに、ファウスト交響曲の、交響曲にして"交響曲"ではないあたり?
"交響曲"という古典主義の時代に生まれた型枠を脱し、より自由な交響詩という形を生み出したリストだけに、ファウスト交響曲でも形に捉われることはない。特に、3楽章の終わりの「神秘の合唱」(track.4)、ソロとコーラスが描き出す壮麗な情景は、ワーグナーの楽劇を思わせて、交響曲にはとても思えない。そもそも1楽章からして交響詩的... ロマン主義の前半の交響曲を思い起こせば、その音楽の在り様は、一味違うことに気付かされる(あるいは、"交響曲"という形が、極めて古典主義なものであることを思い知らされる... )。何より、リストのファウスト交響曲は、親交のあったベルリオーズの劇的物語『ファウストの劫罰』(1846)からインスピレーションを得ている(リストに『ファウスト』を紹介したのがベルリオーズとのこと... )だけに、まさに劇的で、どこか映画音楽を予見するようでもあり、楽想を緻密に積み上げていく"交響曲"にはない、雄大な音楽の流れが印象的。この、積み上げるのではない、流れて行く感覚が、ロマン主義?オーケストラというパレットを用い、自由に、ひとつの物語を大きく描き出す大胆な姿に、ロマン主義の精神を改めて見出す思いがする。で、これが「ロマン」なのかも...
それにしても、こんなにもおもしろかった?と、久々に聴いてみて、今さらながらに目を見開かされる。ファウスト交響曲は、編成の特殊さ(オーケストラの他に、テノール、男声コーラスに、オルガン... )もあってか、そう取り上げられる作品ではないし、死の舞踏や、「前奏曲」、ハンガリー狂詩曲に比べると、リストらしい押し出しの強さというか、リストの時代が持つ独特なハッタリ感が薄い気がして... 正直に言ってしまうと、どこか冗長(何しろ、1楽章だけで30分弱!)で、つまらない?くらいの印象だったのだけれど... いやいやいや、長大な中に、『ファウスト』の物語を用いて、何か深淵に触れるような、スケールの大きさを感じ(って、そういう大仰さこそ、リストか... )。何と言っても、最後の「神秘の合唱」(track.4)の、美しいテノールの独唱と、荘重な男声コーラスの雰囲気満点なあたり!この儀式めいた終わり方の、芝居掛かった雰囲気こそが、何とも言えず魅力的!
そんなファウスト交響曲を、少し肩の力を抜いて、素直に響かせるラトル。このマエストロならではの、どこかポップな気分が、ロマン主義をことさら強調するのではない、より現代的な感覚を以って繰り広げていて、印象的。リストの個性を程好くすくい上げ、19世紀の芝居掛かった雰囲気を、現代のポップで読み解き、何かテーマパークに遊ぶようでもあり... そういう点で、19世紀のエンターテイナー、リストの音楽性を見事に現代に昇華しているのかもしれない。そんなマエストロの志向を、着実に音楽にしてゆくベルリン・フィルの手堅さに、「神秘の合唱」(track.4)では、エルンスト・ゼンフ合唱団、プラハ・フィル合唱団の瑞々しい歌声、まさにロマンティックなザイフェルトのテノールと、絶妙にツボを押さえていて、ファウスト交響曲の魅力を卒なく聴かせてくれる。そうして浮かび上がる、ロマン主義のおもしろさたるや!

LISZT : A FAUST SYMPHONY
RATTLE / BERLIN PHIL.

リスト : ファウスト交響曲 S.108 〔3人の人物描写による〕

サイモン・ラトル/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
ペーター・ザイフェルト(テノール)
エルンスト・ザンフ合唱団(男声)、プラハ・フィルハーモニー合唱団(男声)

EMI/5 55220 2




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