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シューベルト越しに見つめる古典主義、八重奏曲。 [before 2005]

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シューベルトは、ロマン派の作曲家だ。と、認識して来たのだけれど...
前回、シューベルトの最後の3つのピアノ・ソナタを改めて聴いて、その認識が大きく揺らいでいる。ベートーヴェンの影響を強く受けた最後の3つのピアノ・ソナタ。時にはモーツァルト風の軽やかさ、朗らかさも窺えて、まさにウィーンの古典派の伝統を感じずにはいられない音楽。それは、ロマン主義の真新しさよりも、古典主義の成熟を強く印象付けられて... いや、最後の3つのピアノ・ソナタに限らず、よくよくシューベルトの音楽を聴いてみると、ロマン主義よりも古典主義の色合いの方が強いのかも。で、それを思い知らされることに!
ピリオドの管楽アンサンブル、モッツァフィアートと、ピリオドの弦楽アンサンブル、ラルキブデッリのジョイントによる演奏で、シューベルトの八重奏曲(SONY CLASSICAL/SK 66264)... どんな曲だったか、すっかり記憶が飛んでいたところで、久々に聴く八重奏曲は、何だか衝撃的だった。

フランツ・シューベルト(1797-1828)、その31年という短い人生をつぶさに見つめれば、多作家だけに、どこを切ってもすばらしい作品が顔を覗かせる。が、八重奏曲が生まれた1824年前後というのは、傑作とされる作品がより多く生み出された頃で... 未完成交響曲(1822)や、『美しき水車小屋の娘』(1823)、弦楽四重奏曲「死と乙女」(1824)、アルペジョーネ・ソナタ(1824)など、ロマンティックな傑作が多い。一方で、八重奏曲はというと、驚くほど古典主義!だからだろうか、曲のイメージがすっかり飛んでいて、久々に聴いてみたら、こんな曲だった?!と、驚いてしまった。で、改めてシューベルト像を見つめ直す機会を与えてくれた。
という、八重奏曲... クラリネット、ファゴット、ホルンによる管楽器に、弦楽四重奏、それらを下からしっかりと支えるコントラバスという編成で、小オーケストラといった様相。で、6楽章もあるあたりは、セレナードを思わせるのだけれど、そこから得られる聴き応えというのは、まるで古典派による交響曲のよう。ウィーンの上質な古典主義に囲まれて育ったシューベルトだからこその、端正で洗練された音楽は、「八重奏」というスケールを越えて、交響曲的な密度を感じさせられる。こうしたあたりに、ウィーンの古典派の熟成を感じずにはいられない。その始まり、1楽章は、モーツァルトのような明朗さに、ハイドン、さらにはベートーヴェンを思わせるしっかりとした構築感を聴かせ、「八重奏」なればこその響きの軽やかさと、シンフォニックな本格感が絶妙。続く2楽章のアダージョ(track.2)に広がるのは、モーツァルトの時代への憧憬だろうか?ホルンの牧歌的なトーン、クラリネットが歌うセンチメンタルは夢見るようで... ナイディックのクラリネット、パーヴィスのホルンがまたすばらしく... そこからの、3楽章(track.3)の快活なあたりは、古典主義の輝きそのもの!ロマン主義の仄暗さとは一線を画す、古典主義ならではの明晰さがキラキラとした表情を生み、リズムは弾け、楽しい気分でいっぱいに。4楽章(track.4)では、自作のジングシュピールからのまったりとしたメロディを主題に変奏が繰り広げられ、ほのぼのとさせられる。
で、5楽章、美しいメヌエット(track.5)を挿んでの終楽章(track.6)は、少し雰囲気を変える。そのおどろおどろしい始まりは、ここに来てロマン主義を思わせ、インパクトをもたらす。が、すぐに楽しげな古典派風の音楽が戻り... しかし、これまでとは一味違い、18世紀ではなく19世紀を意識させ、ブラームスを聴くような感覚があるのか。シューベルトの死後、5年を経て生まれたブラームス(1833-97)、「新古典派」と呼ばれることもあるわけだけれど、そのブラームス風の古典主義がすでに表れているようで、とても興味深いものを感じる。キャッチーなテーマ(これがまたブラームスを予感させて... )に彩られつつ、時に対位法を用いて気難しい表情を見せたり。いや、これこそがウィーンの流儀?キャッチーかつアカデミックという甘辛感がいい味を醸し、おもしろい。またそれが、やがてブラームスへとつながって行くのかと考えると、とても感慨深いものもある。
で、このシューベルトによる古典主義を、カラフルに活き活きと響かせるモッツァフィアート、ラルキブデッリの演奏が何とも言えず素敵でして... ピリオド楽器なればこその味わいを活かしつつ、その素朴なトーンを以ってして、かえってカラフルなトーンを引き出し、なおかつ自由な雰囲気を醸す演奏は驚くべきもの。それでいて、アンサンブルとしてのふんわりとしたまとまりも魅力的... ことさら根を詰めることなく、気心が知れた仲で、いい調子で音楽を紡ぎ出すあたりが、聴く者に得も言えない心地良さをもたらしてくれる。そうして生まれる古典主義のハッピー感!シューベルトの時代には失われてしまった18世紀のポジティヴさを、シューベルト越しにすくい上げるモッツァフィアート、ラルキブデッリの演奏に、何だか癒される。

SCHUBERT : OCTET, D 803 ・ MOZZAFIATO & L'ARCHIBUDELLI

シューベルト : 八重奏曲 ヘ長調 D.803

モッツァフィアート
チャールズ・ナイディック(クラリネット)
デニス・ゴッドバーン(ホルン)
ウィリアム・パーヴィス(ファゴット)
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ラルキブデッリ
ベラ・ヴェス(ヴァイオリン)
リンダ・クァン(ヴァイオリン)
ユルゲン・クスマウル(ヴィオラ)
アンナー・ビルスマ(チェロ)
マージ・ダニロフ(コントラバス)

SONY CLASSICAL/SK 66264




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