SSブログ

フランス・バロックが大きく花開く前に... ルイ13世とマザランの音楽。 [before 2005]

アンリ3世の時代から、アンリ4世の時代へ...
と、何となくフランスの音楽史を下って来たので、勢い、そのまま下ってみようかなと。ということで、アンリ4世の後を継いだルイ13世の時代、極めてローカルに形成されつつあったフランス・バロックが萌え立つ頃と、ルイ13世を支えた宰相、リシュリューの後継者として、まだ幼かったルイ14世を支えた宰相、マザランの時代、マザランの故国、イタリアからの最新モードがフランスに伝えられた頃。まもなくやって来る、太陽王の時代、リュリによるフランス・バロックが大きく花開く前の、フランスにおける音楽の興味深い姿を探る。
そんなアルバム、2タイトル... ジョルディ・サヴァール率いる、ル・コンセール・デ・ナシオンによる、ルイ14世の宮廷を飾ったバレ・ド・クールからのダンスで綴るアルバム、"L'ORCHESTRE DE LOUIS XIII"(Alia Vox/AV 9824)と、ジャン・テュベリ率いる、アンサンブル・ラ・フェニーチェの演奏、フィリップ・ジャルスキー(カウンター・テナー)が歌う、マザランが招聘したイタリアの音楽を取り上げるアルバム、"UN CONCERT POUR MAZARIN"(Virgin CLASSICS/5 45656 2)を聴く。


サヴァールが懐深く奏でる... ルイ13世のオーケストラ。

AV9824.jpg
ルイ14世、太陽王のダンス・マニアっぷりは、父親譲り?ルイ13世(在位 : 1610-43)もまたダンス・マニアで、息子に負けず、多くのバレ・ド・クールを生み出した。そんな作品の数々が、王の死後、半世紀を経て、宮廷音楽家の名門、フィリドール家の老フィリドールこと、アンドレ・ダニカンにより再発見(1690)。で、この老フィリドールが、それらを整理しまとめたものを、サヴァールがさらにセレクション。サヴァールの王様シリーズ(様々な王様の人生を、その宮廷を彩った音楽で編む意欲作の数々... )の一環ということになるのか、年代ごとに作品を並べ、ルイ13世の人生を追う"L'ORCHESTRE DE LOUIS XIII"、ルイ13世のオーケストラ...
フランスの初期バロックを象徴するエール・ド・クール、バレ・ド・クールを担った、ルイ13世の宮廷楽長たち、ゲドロン(ca.1570-ca.1620)や、ボエセ(1586-1643)らによる音楽だったのだろう、ルネサンス・ポリフォニーとは違う、軽やかで、様々な表情を持った舞曲が並び、太陽王以前のフランスの宮廷の朗らかさのようなものを垣間見て取れて、興味深い。またそこには、ルネサンス以前のマショーの記憶が蘇るような感覚もあって、一筋縄では行かない遊びを含んだリズムというのか、どこか中世風のようでもあり。あるいは、フォークロワを思わせるような人懐っこさもあって、表情の豊かな音楽が次々と繰り出される。そんな、新しさに遠い昔の面影を見るおもしろさ... またそこに、今も昔も変わらない「フランス」らしさのようなものも感じ... 洒落込むような気取りと、程好いセンチメンタルの絶妙さ... この甘辛いテイストが、薄っすらと厭世感のようなものも漂わせ、ただ楽しいだけではない、人生のほろ苦さも捉えているようで、楽しげな音楽なのに、何だかジワンともさせられてしまう。
人生の深みを聴かせるのが上手いサヴァール... リュリ以前のフランスの音楽史の見え難い部分を詳らかにする資料的な興味深さはもちろんある一方で、それだけではない、ルイ13世の心象までも映し出していそうな"L'ORCHESTRE DE LOUIS XIII"の味わい深さ。息子、太陽王とは違い、輝かしいばかりではなかったルイ13世の人生... まだまだフランスの王政が不安定だった頃、新教、旧教の対立が未だ大きく、極めて難しい国際情勢をサヴァイヴしなくてはならなかった頃、母(最古のオペラが上演された時のウェディングの花嫁、マリ・ド・メディシス!)との政治的確執、王妃の不倫疑惑、スパイ行為、それらを糾弾した希代の政治家、宰相、リシュリューの存在などなど、ルイ13世を巡る諸々は、必ずしも王を太陽のような存在に祀り上げることはなく、もどかしいことばかり... けれども、それら全てを受け入れ、ダンスに落とし込むような懐の深さを見せるサヴァール+ル・コンセール・デ・ナシオン。その音楽性、やっぱり凄い。

L'ORCHESTRE DE LOUIS XIII 1601-1643
LE CONCERT DES NATIONS ・ JORDI SAVALL


老フィリドールによるいくつかのエールの選集 から

ジョルディ・サヴァール/ル・コンセール・デ・ナシオン

Alia Vox/AV 9824




ジャルスキーが明朗、明快に歌う!マザランのためのコンサート。

5456562
ルイ13世の宰相、リシュリューが死の間際、後継者に指名したのが、イタリア出身のマザラン(1602-61)だった。マザランは、元々、ローマ教皇の外交官として働いていたのだけれど、その政治的センスを買われ、リシュリュー枢機卿にヘッド・ハンティングされフランスへ... やがて、バルベリーニ家出身のローマ教皇、ウルバヌス8世に枢機卿に叙せられ(1641)、リシュリュー、ルイ13世が次々にこの世を去った後は、幼いルイ14世(在位 : 1643-1715)と、その母で摂政となったアンヌ王太后を支え、宰相として絶対王政への最後の準備を整えた。そうしたところに、ローマからバルベリーニ家の人々が亡命して来る(ウルバヌス8世の行き過ぎた縁故主義のせいで、教皇の死によりローマを追放された... )。バルベリーニ家はローマにおけるオペラ上演の先駆者で、イタリア切っての音楽のパトロン... 当然、お抱えのイタリアの音楽家たちもパリへとやって来て、フランスで初めてオペラが上演(1645)される。これを皮切りに宮廷における音楽は、一時、イタリアが幅を利かせることに... そんな状況を再現するのが"UN CONCERT POUR MAZARIN"、マザランのためのコンサート。
初期バロックを切り拓いたモンテヴェルディ(1567-1643)、フレスコバルディ(1583-1643)ら、イタリアの大家の作品に、マザランに招かれてパリのためにオペラを作曲(1647)したロッシ(1597-1653)の作品など、イタリアの幅広い世代の作曲家を網羅しつつ、マザランの時代の流行歌も盛り込み、さらには若きリュリに音楽の手解きをしたオルガニスト、ロベルデ(1624-80)によるイタリア人の作曲家のテーマによるフーガ(track.5)も取り上げられ、フランスにやって来たイタリアの音楽と、そこから刺激を受けたフランスの音楽シーンというものを追体験させてくれる。そうして浮かび上がる、明朗なフランス・バロックに対して、イタリア・バロックの明快さ!ルイ13世の時代のバレ・ド・クールを聴いた後だと、イタリアの個性がより印象的に響き... 聴く者を包み誘うようなフランスに対して、聴く者を射抜くようなイタリアの鋭さ!この音楽性の違いがまったく興味深い。
という、フランスで繰り広げられたイタリアの音楽を、活き活きと奏でるテュベリ+アンサンブル・ラ・フェニーチェの面々... このアルバムの主役は、スーパー・カウンターテナー、ジャルスキーではあるのだけれど、その歌ばかりでないのが"UN CONCERT POUR MAZARIN"のもうひとつの魅力。アンサンブル・ラ・フェニーチェによる瑞々しい響きは、イタリア・バロックのヴィヴィットさを引き立ててすばらしく。歌の合間に挿まれる器楽曲がスパイスを効かせ、マザランの時代のイタリア趣味を楽しませてくれる。そして、ジャルスキー!彼ならではの明瞭さは、まさにイタリア・バロックにぴったり。一方で、彼ならではのやわらかなトーンは、まさにフランス的。この2つの兼ね合いが、マザランの時代を魅惑的に蘇らせる。

UN CONCERT POUR MAZARIN
JAROUSSKY . ENSEMBLE LA FENICE . TUBÉRY


カッツァーティ : 大地よ、歓呼せよ *
フレスコバルディ : カプリッチョ
幸福な魂/フォッジャ : モテット 「おお、どれほど慈悲深いことか」 *
母さん、私を修道女にしないで/トゥリーニ : 「ラ・モニカ」に基く3声のソナタ *
ロベルデ : イタリアの主題による4つのパートからなるフーガ
モンテヴェルディ : モテット 「サンクタ・マリア」 *
ヴィアダーナ : コルネットとヴァイオリンのためのカンツォン
チーマ : モテット 「起き、急ぎ来てください、愛しい人よ」 *
フォンテーイ : ラウダーテ・プエリ *
ロッシ : カプリッチョとチャコーナ
バッサーニ : カンタータ 『闇の中の影』 *

フィリップ・ジャルスキー(カウンターテナー) *
ジャン・テュベリ/アンサンブル・ラ・フェニーチェ

Virgin CLASSICS/5 45656 2




nice!(2)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:音楽

nice! 2

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。