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やがて、ヨーロッパ中へと広まる、ピアノ... [before 2005]

3月に入ったものの、寒い日が続きます。
寒いけれど、春の兆しはそこはかとなく感じられ... ということで、春待つ寒さの中に春の兆しを見つける、そんな音楽を聴いてみようかなと考えている3月。バッハが登場する以前のドイツ・バロックモーツァルトが「モーツァルト」となる前のオペラに続いて、ピアノにまつわる早春の景色を見つめてみようかなと...
ピリオド・アンサンブル、ソネリーの演奏、デイヴィッド・オーウェン・ノリスが弾く、ツンペ&ブンテバルトのスクエア・ピアノで、1770年代、ロンドンのコンサート・シーンに初めて登場したピアノによるコンチェルトにスポットを当てる1枚、"The World's First Piano Concertos"(AVIE/AV 0014)と、ピアノがヨーロッパ中に広まりブームを巻き起こし始めた頃、ロマン主義の先触れとなったアイルランド出身の作曲家、フィールドの2番と3番のピアノ協奏曲(TELDEC/3984-21475-2)を、デイヴィッド・スターンの指揮、コンチェルト・ケルンの演奏、アンドレアス・シュタイアーが弾く、ブロードウッドのピアノで聴く。


ロンドンの音楽シーンに、初めてピアノによるコンチェルトが登場した頃... スクエア・ピアノで...

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18世紀を迎える頃、フィレンツェにて、クリストフォリ(1655-1731)により発明されたピアノは、ドイツのオルガン製作者、ジルバーマン(1683-1753)により改良が重ねられ... やがて、その弟子にあたるツンペ(1726-90)がロンドンへ渡り(1760)、よりコンパクト(で、安価!)なスクエア・ピアノを完成させ、ピアノ普及の第一歩を刻む... そんなロンドンで、初めてピアノのためのコンチェルトが登場した様子を捉えるアルバム、"The World's First Piano Concertos"。ロンドンの音楽シーンを牽引したヨハン・クリスティアン・バッハ(1735-82)に始まり、その盟友、アーベル(1723-87)、人気を博していたイギリスの作曲家たちによる、1770年代前半に作曲された、ピアノのためのコンチェルトが並び、充実したロンドンの音楽シーンを再現。もちろん、ツンペによるスクエア・ピアノで... が、このスクエア・ピアノの音色が、凄い... 本当にピアノなのか?!ってくらいに衝撃的で、それを初めて耳にした時は、もう面喰った。そもそもツンペは、クラヴィコードの改造からスクエア・ピアノを完成させていて。そうした仮の姿というか、普及版の簡易ピアノ的な性格が、完成されたピアノに慣れ切った耳には、とんでもないギャップとして響く。まるでツィンバロンでも聴いているような、フォークロワですらあるような、強烈な個性を放つツンペのスクエア・ピアノ... これが、ロンドンの音楽シーンで初めて登場したピアノの響きかと思うと、ピアノという楽器の試行錯誤の歩みに感慨すら覚えてしまう。一方で、そういう響きだからこそ活きるコンチェルトもあって...
アルバムの最後、フック(1746-1827)のコンチェルトの終楽章(track.17)、スコットランド民謡の引用なのか?人懐っこいフォークロワなテイストが、ツィンバロンを思わせるスクエア・ピアノの音色に絶妙に合っていて、何とも言えない味わいを醸す。また、この気の置けない雰囲気がロンドンの音楽シーンを象徴するようでもあり、フックのコンチェルトに限らず、どのコンチェルトからも肩の力の入らない気の置け無さを感じて、印象的。このあたり、宮廷や、そこに集うインテリの上流階級が牽引したウィーンの古典派とは違う、より一般的な音楽ファンに支えられていたロンドンの古典派の性格を垣間見るようで、おもしろい。そうした雰囲気がやがてモーツァルトにも受け継がれ... ヨハン・クリスティアン・バッハのソナタをモーツァルト少年がコンチェルトに仕立て直した3つのピアノ協奏曲からの第1曲(track.9-11)は、そのあたりを如実に物語り、興味深いものがある。
そんなピアノの黎明期、活気に溢れたロンドンの音楽シーンを活き活きと響かせるピリオド・アンサンブル、ソネリーの演奏。コンチェルトとはいえ、実質、ピアノ四重奏という室内楽的な規模ではあるのだけれど、その演奏には不思議なスケール感があって、コンチェルト的な気分をしっかりと味合わせてくれるのが印象的。一方、コンチェルトの主役たるスクエア・ピアノを弾くノリス... 楽器の未発達さを器用にカヴァーしながら、瑞々しいソネリーの演奏にも助けられて、この楽器の強烈な個性を巧みに操り、味わいのある演奏を繰り広げる。そうして感じ入る、ピアノという楽器の早春の頃のほろ苦さというのか、ロンドンの古典派の魅力的な音楽もあって、何か不思議な懐かしさを覚えるようで、不思議な余韻を残してくれる。

David Owen Norris Sonnerie The World's First Piano Concertos

ヨハン・クリスティアン・バッハ : ピアノ協奏曲 変ホ長調 Op.7 No.5
アーベル : ピアノ協奏曲 変ロ長調 Op.11 No.2
ヨハン・クリスティアン・バッハ : ピアノ協奏曲 ト長調 Op.7 No.6
モーツァルト : ピアノ協奏曲 ニ長調 K.107-1 〔ヨハン・クリスティアン・バッハのソナタ Op.5 No.3 からの 編曲〕
ヘイズ : ピアノ協奏曲 イ長調
フック : ピアノ協奏曲 第5番 ニ長調 Op.1

デイヴィッド・オーウェン・ノリス(スクエア・ピアノ : ツンペ & ブンテバルト)
ソネリー
モニカ・ハジェット(ヴァイオリン)
エミリア・ベンジャミン(ヴァイオリン)
ジョゼフ・クラウチ(チェロ)

AVIE/AV 0014




アイルランドという辺境からロシアという辺境へ... 国民楽派を予感させるフィールドの存在...

3984214752
ヨハン・クリスティアン・バッハが、ピアノをロンドンの音楽シーンに登場させて間もなく、ピアノは爆発的な人気を博し、チェンバロに取って替わることに... それから四半世紀が過ぎようとしていた頃、アイルランドから新たな才能がロンドンへやって来る(1793)。後にピアノのヴィルトゥオーゾとして、ヨーロッパ中にその名が知れ渡り、今では「夜想曲」の創始者としても知られるジョン・フィールド(1782-1837)。ダブリンで音楽家の家に生まれ、早くから才能を発揮し、9歳にしてピアニストとしてデビュー... つまり、フィールドは生まれた時からピアノが鍵盤楽器の王様だった最初の世代... で、11歳でロンドンへと移ったフィールドは、モーツァルトのライヴァルでもあった、ピアノ界の最初の巨匠、クレメンティ(1752-1832)に学び、やがて師とともにヨーロッパ中をツアーして周り、最終的にロシアへと渡り、活動の拠点とする。そんなロシアで生まれた2つのピアノ協奏曲を聴く...
フィールドは夜想曲の生みの親として、ショパン(1810-49)の先駆的な存在として知られるわけだけれど、ここで聴くピアノ協奏曲もまた、すでにショパン的なトーンに彩られていて。まず1曲目、2番(track.1-3)は、古典派の最後の時代、ベートーヴェンが華麗なピアノ協奏曲を書いていたすぐ後だけに、そういうベートーヴェン的な格調を感じさせながらも、ロマンティックなトーンに充ちたメローな音楽が流れ出す。ヨハン・クリスティアン・バッハを聴いて、モーツァルトの音楽的ルーツというものを見出したように、フィールドを聴いて、ショパンの音楽的ルーツを見出せるのかも。で、フィールドの音楽には、ロマン主義ばかりでく、すでに国民楽派を思わせる気分も漂い。このあたり、フィールドのロシア滞在が影響を与えているのか?あるいは、フィールドの故郷、アイルランドのフォークロワの記憶だろうか?アイルランドという辺境から、ロシアという辺境へ渡って生み出される国民楽派を予感させるトーンは、まもなくやって来る、ドイツ―オーストリアに留まらない音楽の広がりを思わせて、感慨も。何より、そうした音楽が持つ、メインストリームを越えた、より魅惑的な音楽に聴き入らずにいられない。
続く、3番(track.4-6)は、2楽章(track.5)に、フィールドの2番の夜想曲が取り上げられていて(となるとオーケストラはお休み... ピアノ・ソロのみによる演奏... )。何でも、2楽章のスコアが残っていないらしく、どうやらこの作品が生まれた昔も、こんな風に夜想曲を用いて2楽章としていたらしい。それだけ、フィールドの夜想曲は人気があったということか... 今のクラシックでは考えられないような作品の柔軟な在り様というのが、とても新鮮!で、しっとりとしたフィールドの夜想曲、ショパンよりも、ベートーヴェンの「月光」のような瑞々しさを感じて、ただならず美しい!また、そこからのキャッチーな3楽章(track.6)が、たまらない...
という、フィールドの2つのピアノ協奏曲を聴かせてくれたシュタイアーのピアノが見事!ツンペのスクエア・ピアノに続く、よりピアノへと進化させたブロードウッドのピアノを用いての、ピリオドのピアノならではのアンティークさを薫らせつつ、ピアノならではの魅力をきっちりと歌い上げ、ロマン主義が花開こうとしていた頃の音楽をブルーミンに奏でる!そんなシュタイアーを絶妙にサポートするコンチェルト・ケルンの演奏がまたすばらしく... 彼らならではの切れ味の鋭さばかりでない、19世紀の音楽が持つ豊潤さをしっかりと鳴らし切って、大いに魅了されてしまう。そうして際立つ、フィールドの音楽!

FIELD: PIANO CONCERTOS NOS. 2 & 3
STAIER ・ CONCERTO KÖLN ・ STERN

フィールド : ピアノ協奏曲 第2番 変イ長調 H.31
フィールド : ピアノ協奏曲 第3番 変ホ長調 H.32 〔夜想曲 第2番 ハ短調 付き〕

アンドレアス・シュタイアー(ピアノ : 1802年頃の作製、ブロードウッド)
マイケル・スターン/コンチェルト・ケルン

TELDEC/3984-21475-2




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