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ロシア/ソヴィエトのもうひとつの風景、グラズノフ、カバレフスキー... [before 2005]

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いやはや、雪が降ると、もう、どうにもこうにも...
雪に不慣れの関東平野では、積雪10cmを越えたら、大騒動。一方で、雪が降りしきるいつもの街の風景は、同じ場所でありながら、まったく違った場所に見えて、どこか遠い所へと来てしまったような、そんな錯覚も覚えるから、おもしろい。いつの間にやら、旅でもしているような、そんな気分に... 雪景色って、やっぱりいいなァ。なんて悠長なことばかりも言ってはいられないのだけれど。電車まで追突する有り様で、もう、散々。
さて、ロシアの名曲、チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲と、ソヴィエトの名曲、ショスタコーヴィチの1番のヴァイオリン協奏曲を聴いた後で、またロシアとソヴィエトという組合せで... ギル・シャハムのヴァイオリン、ミハイル・プレトニョフ率いるロシア・ナショナル管弦楽団の演奏による、グラズノフとカバレフスキーのヴァイオリン協奏曲(Deutsche Grammophon/457 064-2)を聴く。

まず、グラズノフとカバレフスキーという組合せが、おもしろい!チャイコフスキーとショスタコーヴィチの組合せとは対照的で、シャハムの視点のずらし方が絶妙。で、ずらして見えて来る風景があって... グラズノフ(1865-1936)は、ロシア革命前後、サンクト・ペテルブルク音楽院の院長(1905-28)を務め、ロシアの楽壇に大きな影響力を持っていた人物。カバレフスキー(1904-87)は、ソヴィエトにおける芸術分野の、特に音楽教育に関わる重要ポストを歴任し、体制の一員として、ショスタコーヴィチらを苦しめた存在... となると、グラズノフにしろ、カバレフスキーにしろ、彼らが生きた時代、彼らは主流だったわけだ。が、今となっては、チャイコフスキー、ショスタコーヴィチにすっかり隠れてしまっている。歴史の皮肉が籠められた組み合わせであるわけだ。が、そこにスポットを当てたシャハム... 名曲の影に隠れてしまった佳曲の魅力を鮮やかに響かせる!
その1曲目、グラズノフのヴァイオリン協奏曲(track.1-3)は、必ずしもまったく演奏されないというわけではないけれど、チャイコフスキーに比べればやっぱりマイナー... で、チャイコフスキーのように盛大に華麗というわけでもない... しかし、その音楽の上質さは、チャイコフスキー以上?1904年にサンクト・ペテルブルクで初演されたグラズノフのコンチェルトは、19世紀以来の伝統から逸脱することなく、程好く甘く夢見るようなロマンティシズムに彩られ、リヒャルト・シュトラウスを思わせるところも... そんな、ロマン主義の末期のモードに則りながら、ロマンティシズムに溺れることなく、どこか爽やかな美しさを見せて、印象的。で、終楽章(track.3)は、一転、愛らしくロシア調を展開。バラライカ風にヴァイオリンをピチカートさせるところなどは、ラヴリー!そんなラヴリーさから、巧みにつなげられる、2曲目、カバレフスキーのヴァイオリン協奏曲(track.4-6)。ちょっとコミカルで、何よりキャッチーで、憂い無しの「社会主義リアリズム」が弾ける音楽の楽しさたるや!ソヴィエトの青少年に捧げられているだけに、ショスタコーヴィチのひねた音楽とは一線を画すわかり易さが、妙に気持ち良く、社会主義のユートピア的、楽観主義が、笑っちゃうくらいに充ち溢れていて... いや、この感覚、癖になりそう... というあたりが、「社会主義リアリズム」の呪術だろうか?ま、ソヴィエトの顛末を知っているからこそ、楽しめるのだけれど...
そんな2曲を、朗らかに弾き上げたシャハム!この人ならではの明朗かつしっかりとしたサウンドと素直なアプローチが、よりグラズノフ、カバレフスキーの音楽の魅力を屈託なく引き出していて。グラズノフの色鮮やかにして卒の無いあたり、カバレフスキーのノリよくポップ(「社会主義リアリズム」こそ、ポッピズムなのかも... )なあたりは際立ち、ある種のクラシック的な堅苦しさは魔法のように消え去るのか。シャハムの音楽性がいい具合に作用して、2つのコンチェルトに思い掛けないライトさが生み、素敵。そうしたシャハムのカラーを活かす、プレトニョフ+ロシア・ナショナル管の颯爽とした演奏もまた素敵で、グラズノフでは瑞々しく、カバレフスキーではキビキビと器用な演奏を繰り広げ、すばらしく。「ロシア・ナショナル」を標榜していても、ことさらロシアを強調することのない、すっきりとした演奏が、グラズノフ、カバレフスキーの音楽に、新鮮さをもたらしている。
さて、グラズノフ、カバレフスキーの後で取り上げられるのが、チャイコフスキーのヴァイオリンとピアノのための3つの小品、『なつかしい土地の思い出』(track.7-9)。その1曲目、瞑想(track.7)が、チャイコフスキーのあのヴァイオリン協奏曲、2楽章として作曲されたもの... 結局、現行の2楽章と差し替えられ、「なつかしい土地の思い出」のタイトルを与えられて、今に至るのだけれど、よりロシア調に仄暗くメローなあたりは、現行の2楽章とはまた違ったテイストを持ち、印象的。そこに、チャイコフスキーのトーンをなぞるようなグラズノフのオーケストレーションもあって、チャイコフスキーによる小ヴァイオリン協奏曲を聴くような感覚も... 最後はチャイコフスキーの小粋なワルツ・スケルツォ(track.10)が取り上げられ、これがまた絶妙にライトで、グラズノフ、カバレフスキーからの心地良い流れをパっと華やいだものに... 興味深い視点と、朗らかな演奏と、ロシア/ソヴィエトのもうひとつの風景を映し出したシャハムのセンス、なかなかです。

GLAZUNOV ・ KABALEVSKY: VIOLIN CONCERTOS, etc.
GIL SHAHAM/RUSSIAN NATIONAL ORCHESTRA/MIKHAIL PLETNEV


グラズノフ : ヴァイオリン協奏曲 イ短調 Op.82
カバレフスキー : ヴァイオリン協奏曲 ハ長調 Op.48
チャイコフスキー : 『なつかしい土地の思い出』 Op.42 〔オーケストレーション : グラズノフ〕
チャイコフスキー : ワルツ・スケルツォ Op.34

ギル・シャハム(ヴァイオリン)
ミハイル・プレトニョフ/ロシア・ナショナル管弦楽団

Deutsche Grammophon/457 064-2




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