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南米から北欧へ、フォークロワに導かれて、 [before 2005]

いやー、寒過ぎます。暖冬、どこ行った?
なんて、つい不埒なことを考えてしまうのですが、そんな寒い中、訥々と音楽を聴く... 1月は、七草粥的アルバムを探るということで、派手なクラシックではないクラシック、滋味溢れるクラシックを聴いてみるのだけれど。リュート・コンソートゴシックチェロと来て、またちょっと視点を変えて、フォークロワからクラシックを見つめてみようかなと... やっぱり、フォークロワの音楽は温かい。人々の生活とともに育まれた音楽の、ある意味、作為の無い魅力というのは、どこか懐かしい温かさがあって、その温かさに触れていると、不思議と心休まるよう... で、その温かさを、巧みに引き込む興味深いアルバムを2タイトル聴いてもようかなと...
フォークロワが滲む南米のバロック!ガブリエル・ガッリード率いる、アンサンブル・エリマによる、メキシコ、オアハカ大聖堂で歌われた音楽(K617/K617 156)と、トヌ・カリユステが率いた、エストニア・フィルハーモニック室内合唱団による、エストニアのフォークロワをベースに多くの作品を作曲している、エストニアの巨匠、トルミスの合唱作品集(ECM NEW SERIES/465 223)。南米から北欧へ、バロックから現代へ、フォークロワの温かさに導かれて、スローな音楽で、スローな旅をしてみる。


メキシコ、オアハカの大聖堂、フォレクローレが彩る"南米のバロック"の温かさ!

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クラシックは西欧の音楽... というイメージが強過ぎると、"南米のバロック"と言われても、正直、ピンと来ない。が、コロンブスに始まる、スペイン、ポルトガルによる植民地化により、西欧と並行して、南米にも豊かなバロック文化が育まれていて... そんな、"南米のバロック"、世界遺産にもなっている、メキシコ、オアハカの大聖堂に残されている、バロック期の音楽にスポットを当てるガッリード+アンサンブル・エリマ。ポルトガルで生まれ、ポルトガルのエヴォラの大聖堂で歌手として活動した後、大西洋を渡り、アンティグア・グアテマラ(ここも世界遺産で、18世紀までグアテマラの首都が置かれていた都市)、プエブラ(やはり世界遺産、メキシコ・シティから100Kmほど西にある都市)の大聖堂で楽長を務めたガスパル・フェルナンデス(1566-1629)と、メキシコの生まれ、メキシコ・シティの大聖堂の楽長を務めた後、オアハカの大聖堂の楽長を務めたマヌエル・デ・スメーヤ(ca.1678-1755)の、ヴィリャンシーコ(ルネサンス期に始まるイベリア半島で歌われた世俗的な歌曲)からミサまで、多彩な作品が並び、初期バロック(フェルナンデス)から盛期バロック(スメーヤ)に掛けての、"南米のバロック"(南米というよりは中米が正しいのだけれど... ラテン・アメリカということで... )が俯瞰できるような構成。
まず、ルネサンスの名残りも残すフェルナンデスの作品(track.1-19)を聴くのだけれど、このルネサンスの名残りが思い掛けなく効果的であって、シンプルにして素朴なトーンを生み出しつつ、またそこに、フォルクローレを思わせる節回し、太鼓などが、絶妙に入り込める余地を残していて... ルネサンス―初期バロック―先住民の文化が、絶妙にミックスされていて、西欧のコピーではなく、すでにラテン・アメリカ的な指向を見出せているあたりがとても興味深い。一方、スメーヤの作品(track.20-28)は、西欧のモードが意識された音楽が展開。きっちりと盛期バロックのスタイルに倣いつつ、時折、ギャラントな気分すら漂い... 大西洋という大きな隔たりをあまり感じさせないことに驚かされる。もちろん、"南米のバロック"として、フォルクローレ的な色合いがスパイスを効かせていて、西欧にして南米という、高次元の融合が繰り広げられて、それがまた魅力的!
という、オアハカの大聖堂に残された音楽を、ほのぼのと響かせるガッリード+アンサンブル・エリマ。K617が展開した"南米のバロック"で大きな役割を果たした彼らだけに、堂に入って、真に魅力的な"南米のバロック"を歌い、奏でていて、すばらしい。歌手陣、コーラスも含めて、彼らならではのカラフルさと、"南米のバロック"が持つ独特のトーンの相性は抜群で、西欧のバロックにはない、人懐っこさをナチュラルに音楽に乗せ、聴く者を何とも言えずハッピーにする温かな感覚がたまらない。それにしても、何と魅力的な"南米のバロック"!このあたりが、もっと広く紹介されたなら、クラシックはより刺激的になるはず...

Musique à la Cathédrale d'Oaxaca Gabriel Garrido

ガスパル・フェルナンデス : ドン・ディエゴ・フェルナンデス・デ・コルドバの副王着任のための
ガスパル・フェルナンデス : メスティソとポルトガル人についてのビリャンシーコ
ガスパル・フェルナンデス : 降誕祭の招詞とエンサラーダ
ガスパル・フェルナンデス : 聖体拝領の祝祭
ガスパル・フェルナンデス : 黒人とビスカヤ人へのビリャンシーコ
マヌエル・デ・スマーヤ : 降誕祭のビリャンシーコ
マヌエル・デ・スマーヤ : 聖ペトロへ
マヌエル・デ・スマーヤ : 聖母マリアへ
マヌエル・デ・スマーヤ : 8声のミサ 第3旋法

ガブリエル・ガッリード/アンサンブル・エリマ
アルハンブラ市立合唱団

K617/K617 156




エストニア、フォークロワを引き入れて繰り出されるマジカルさ!トルミスの合唱作品集。

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南米から北欧へ... さすがに、冷え冷えとして来るのは否めないか... いや、北欧の音楽というのは、北欧の自然環境を反映して、独特のものがある。久々にトルミス(b.1930)の合唱作品集を聴いて、つくづくそんなことを思う。で、トルミスの場合、エストニアのフォークロワをベースとしているだけに、大地に根差した歌というのか、より強く北欧の厳しい自然がそのまま作品に投影されているようで、インパクトを放つ。一方で、現代作品としては、フォークロワに根差しているだけに、エリート主義的な難解さとは距離を置き、より親しみ易い音楽を実現しており、不思議な温度感を漂わせる。で、この不思議な温度感こそ、トルミスの魅力だなと再確認...
1曲目、「我が家を知るには」は、民謡を思わせる、素朴でシンプルなメロディを、2人のソプラノが繰り返し歌いつないで、まるでミニマル・ミュージックのように展開。ふと、デイヴィッド・ラング(b.1957)のポスト・ミニマルな音楽が思い浮かび... ラングの独特なトーンは、トルミスあたりからやって来ているのだろうか?フォークロワをベースにしながらも、より現代的な感覚も漂うトルミスの音楽。アンビエントな気分にも包まれて、心地良い... 2曲目、「船上に歌う」(track.2)の、コントラルトのソロの背景に広がるヴォカリーズは、ドローンのようにも響いて、声にして、何かシンセサイザーが造り出すサウンドにも聴こえ、現代音楽という狭いカテゴリーを乗り越えてしまうようなセンスが魅力的。一転、3曲目、太鼓(シャーマン・ドラム)が重々しく響く「鉄を呪え」(track.3)は、呪術的でミステリアス... エストニアの土着の文化を巧みにクラシックに引き入れて、クラシックのイメージを超越するスケール感を見せる。それは、まるで太古の神が歌声に憑依するような、そんな緊張感がスリリング!
というトルミスを歌う、エストニア・フィルハーモニック室内合唱団。エストニアの作品だけに、ネイティヴが生む揺ぎ無さというのか、しっかりと地に足の着いた歌声が、トルミス作品をよりスケールの大きなものとしているようで、独特な音楽体験をもたらしてくれる。北欧のコーラスならではのクリアさと、そこに、何やらマジカルなものが乗せられて、ただならない迫力が生まれて息を呑む。特に、バス、テノール、男声合唱とバス・ドラムのための「雷鳴への連祷」(track.7)の、まさに雷が落ちて、大地が揺れるようなパワフルさ!バス・ドラムのおどろおどろしい重低音に巧みに乗り、見事に雷鳴になり切る男声は、凄い。そこから、一転、2人のソプラノによる、得も言えない美しさを湛えた「迷子のガチョウ」(track.8)が締め括りとして歌われるのだけれど... 1曲目の「我が家を知るには」に回帰するような、キャッチーでシンプルなメロディが、ピアノの美しい伴奏を伴って、延々と繰り返されて... 北欧の厳しい自然を目の当たりにし、最後に温かな暖炉の前に辿り着くような、そんな感覚だろうか?まるでお伽噺を読み聞かされるような、どこか懐かしいファンタジーを感じる。

VELJO TORMIS LITANY TO THUNDER

トルミス : 我が家を知るには 〔2人のソプラノとピアノのための〕
トルミス : 船上に歌う 〔コントラルトと混声合唱のための〕
トルミス : 鉄を呪え 〔テノール,バス,混声合唱とシャーマン・ドラムのための〕
トルミス : 歌手のこども時代 〔ソプラノと女声合唱のための〕
トルミス : 古代の海の歌 〔テノールと男声合唱のための〕
トルミス : 司祭と異教徒 〔カウンターテノール、2人のテノールと男声合唱のための〕
トルミス : 雷鳴への連祷 〔テノール、バス、男声合唱とバス・ドラムのための〕
トルミス : 迷子のガチョウ 〔2人のソプラノとピアノのための〕

トヌ・カリユステ/エストニア・フィルハーモニック室内合唱団

ECM NEW SERIES/465 223

1月、七草粥的アルバムを求めて...
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