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アンビエントなゴシック、ボジティヴなゴシック、 [before 2005]

ルネサンス期、イギリスから、ゴシック期、フランスへ...
音楽における、七草粥を求めて、さらに古い音楽を探る。って、古楽はクラシックにおける「粥」か?と、自分でそういう設定をしておきながら、抵抗感もあるのだけれど、いや、「粥」であることを大いに肯定しよう!そもそも、ステレオ・タイプなクラシックは、あまりにロッシーニ風ステーキ過ぎる帰来がある。そうした中で、音楽史における黎明期=古楽の、シンプルな音楽の魅力は、より際立つように思うのだが... 古楽に対して、ヴォリュームに欠ける?薄味?という感覚を持ったならば、それは、耳が高血圧気味で糖尿の気があるのやも?
だからこそ?音楽による七草粥の試み!ヒリアード・アンサンブルが歌う、ゴシック期、ノートルダム大聖堂のマエストロ、ペロタンのオルガヌム集(ECM NEW SERIES/837 751-2)と、フィリップ・ピケット率いる、ニュー・ロンドン・コンソートの歌と演奏で、ゴシック期のシンガー・ソング・ライター、ゴーティエ・ド・コワンシーの宗教歌を集めた、"Songs of Angels"(DECCA/460 794-2)を聴く。


ゴシック期、ノートルダム大聖堂のマエストロ、ペロタンを洗練させて...

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古楽は薄味... なんて思いながら、そのミステリアスな世界に踏み入ると、強烈な個性に出くわして、慄いてしまうことも多々ある古楽でして、けして薄味とも言い切れない。そりゃワーグナーに比べれば、音は少ないし、ゴシック期まで遡れば、グレゴリオ聖歌にやっといくつか声部が乗っかって、産毛の生えたハーモニー... なのだけれど、そのよちよち歩きの音楽が生む、不安定な様相が、整え切ったクラシックの定番レパートリーにはない、異様なインパクトをもたらすのも事実。そもそも、ゴシック期の文化(もちろん、ゴシックの大聖堂に象徴されるわけだけれど... )が凄い!内省的なロマネスク期の後で、野蛮としてのゴート的=ゴシックの在り様は、中世におけるバーバリスティックな表現の爆発を見るようで、どこか20世紀におけるモダニズムの伝統への挑戦と重なる?なんて言ってしまうのは強引?「中世」と一括りにされがちではあっても、ゴシック期の特異性は、ただならない。
で、そうしたゴシック期のマエストロ、ノートルダム楽派を代表するひとり、ペロタン(12世紀後半-13世紀)のオルガヌム(中世に生まれた多声音楽、ポリフォニーの原点... )を、ヒリアード・アンサンブルが歌う名盤で聴くのだけれど... 今、改めて聴いてみると、その洗練の度合いに驚かされる!ヒリアード・アンサンブルのレパートリーは、それこそグレゴリオ聖歌から現代音楽まで、もの凄い幅があるわけだけれど、その幅を可能とする器用さが、ヒリアード・アンサンブルならではの洗練を生み出すのか、ゴシック期の癖のある音楽が、鮮やかに処理されて、ただならず美しい!それは、もう、最初の一音が耳に飛び込んで来た瞬間から感じられ、どこか異次元に連れ去られるかのよう。古楽専門のヴォーカル・アンサンブルが繰り出す、まさにゴート的=ゴシックな、生々しい中世を蘇らせるア・カペラとは一線を画す、あらゆる時代をひとつの声で旅するヒリアード・アンサンブルの、異次元さ... その美しさは、「古楽」という枠を飛び出して、ニューエイジを思わせるようなアンビエントさをペロタンのオルガヌムに見出す。そうして生まれるトーンは、ペロタンらノートルダム楽派の音楽をアルス・アンティクァ=古い技法と呼んだ、その次の時代を切り拓くアルス・ノヴァ、ギヨーム・ド・マショー(ca.1300-77)の音楽よりも、さらにその先にある、ルネサンス期の音楽の甘やかな気分を予兆するようで、興味深くもある。が、何と言っても、そのやわらかなア・カペラの夢見心地なあたりに、たゆたう悦び!嗚呼、癒されるとはこういうこと...

THE HILLIARD ENSEMBLE PEROTAN

ペロタン : 地上のすべての国々は 〔4声のオルガヌム〕
作曲者不詳 : 来たれ、創り主なる聖霊よ 〔コンドゥクトゥス〕
ペロタン : アレルヤ、わたしは援助を与えた 〔3声のオルガヌム〕
作曲者不詳 : おお、処女マリアよ 〔コンドゥクトゥス〕
ペロタン : いと高き御父のしるし 〔コンドゥクトゥス〕
作曲者不詳 : イザヤの歌 〔コンドゥクトゥス〕
ペロタン : アレルヤ、処女マリアの誕生 〔3声のオルガヌム〕
ペロタン : 祝福されたる子よ 〔コンドゥクトゥス〕
ペロタン : 支配者たちは集まって 〔4声のオルガヌム〕

ヒリアード・アンサンブル

ECM NEW SERIES/837 751-2




ゴシック期のシンガー・ソング・ライター、ゴーティエ・ド・コワンシーを暖かに...

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ペロタンと同時期に活動していた歌う修道士、ゴーティエ・ド・コワンシー(1177-1236)。グレゴリオ聖歌を歌うなら、修道士の日課であったわけだけれど、ゴーティエ・ド・コワンシーは、「天使の歌の歌い手」を名乗り、聖母マリアを讃える自作の歌を歌って活躍したらしい... で、その歌は、ノートルダム大聖堂に響いたペロタンのオルガヌムとは違い、単旋律で、トルヴェール的なノリというのか、キャッチーで、人懐っこいメロディが印象的。カスティーリャ王、アルフォンソ10世(在位 : 1252-84)が編纂した、『聖母マリアのカンティーガ』へと通じるようなトーン... 一度、耳にしたら、覚えてしまいそうなシンプルさと、何とも言えぬ朗らかな気分に包まれて、ゴシック期の、まさに「ゴシック」な仄暗さは微塵も感じさせないポジティヴさが心地いい!
そんな、ゴーティエ・ド・コワンシーの宗教歌を、巧みに歌い奏でるピケット+ニュー・ロンドン・コンソート。ややもすると単調になりかねない単旋律による音楽を、ソロとコーラス、男声、女声を絶妙のバランスで並べ、ひとつの旋律を歌いつないで、飽きさせることの無い動きを与える。また、そうしたヴァラエティに富む歌声を、素朴な中世の楽器で軽やかに背景を描き、「天使の歌の歌い手」というゴーティエ・ド・コワンシーの宣伝文句を見事に形にし... 天使が宙を舞うような、ピースフルでキラキラとしたアンサンブルが本当に素敵!ハープとギターン(イスラム圏からイベリア半島を経て伝わったギターの先祖... そんな認識でいいのか?)の、撥弦楽器ならではの濁りの無いサウンドは、爪弾かれる度にささやかな輝きを放つようで、フィドルの朴訥としたドローンには、何とも言えない牧歌的な風景を見るようで、その合間をリコーダーが調子よく歌い... 大聖堂から屋外に飛び出し、野を駆け回るような楽しさがこぼれ出す。熱狂的なマリア崇拝に生きたというゴーティエ・ド・コワンシーだが、そのマリア賛美の歌には、熱狂とは裏腹に、いい具合に脱力した自由な空気が漂うのか、ピケット+ニュー・ロンドン・コンソートのニュートラルなセンスが、気負いのない音楽を繰り広げ、そのナチュラルな歌と演奏は、暗黒の中世ならぬ、晴天の中世を楽しませてくれる。それがまた、一足先に春の訪れを思わせる暖かさを感じさせ、花の匂いを乗せたそよ風に吹かれるようでもあり... 嗚呼、やっぱり、癒される!

SONGS OF ANGELS
NEW LONDON CONSORT/PICKETT


ゴーティエ・ド・コワンシー : Amours qui set bien enchanter
ゴーティエ・ド・コワンシー : Mere Dieu, vierge senee
ゴーティエ・ド・コワンシー : Amours dont sui espris
ゴーティエ・ド・コワンシー : Talens m'est pris orendroit
ゴーティエ・ド・コワンシー : Ma viele
ゴーティエ・ド・コワンシー : Hui matin a l'ajournee
ゴーティエ・ド・コワンシー : Entendez tuit ensemble, et li clerc et li lai
ゴーティエ・ド・コワンシー : Hui enfantés

フィリップ・ピケット/ニュー・ロンドン・コンソート

DECCA/460 794-2

1月、七草粥的アルバムを求めて...
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