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怪談にもリアル... の、21世紀流、ハーディングの『ねじの回転』。 [before 2005]

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さて、ハロウィンが近付いております。
ということで、お化けモノ... とはいえ、おかしか、いたずらか、なんていう、かわいらしいお化けは出てきません。ガッツリ憑依しまくりの、本格派ホラー、オペラ『ねじの回転』!を取り上げるのだけれど、その前に... ブリテンの生誕100年のメモリアルということで、無伴奏チェロ組曲初期作品集と、ブリテンを集中的に聴いてみて、改めて、その音楽の独特さに、興味を覚えてしまう。一体、この独特さは、どこからやって来るのだろうか?擬古典主義との近さや、新ウィーン楽派的なロマンティック(12音技法へ至る以前の... )さを感じ、イデオロギーの壁の向こう側、ショスタコーヴィチとも共鳴するようなダークさも漂わせて... ブリテンの音楽は、間違いなく近代音楽の枠組みの中で語ることができるわけだけれど、それだけではない、ビートルズと同時代を生きたポップ性?あるいは、ケルトの昔からイギリスに流れる抒情性?クラシックの枠組みでは語り切れない感覚が浮かび上がり、他には探せないその感覚に、惹き込まれてしまう。20世紀の音楽の革新からは距離を置いたブリテンではあるが、距離を置いて貫かれた独自性は、20世紀の音楽において、極めて希有なものに思える。
で、またさらに、希有な作品... 本格派ホラー・オペラ!ダニエル・ハーディング率いる、マーラー室内管弦楽団の演奏で、イアン・ボストリッジ(テノール)ら、イギリスの実力派を取り揃えたキャストが光る、ブリテンのオペラ『ねじの回転』(Virgin CLASSICS/5 45521 2)を聴く。

ブリテン、1954年のオペラ、『ねじの回転』。ヘンリー・ジェイムズの小説(1898)をオペラ化した作品... ということで、まずそのストーリーがおもしろい。ホラーの古典にして、何度か映画化もされ、影響を受けた作品も多いのかもしれない... そして、ゼロ年代、ジャパニーズ・ホラーが太平洋を渡った後、スプラッターが退潮気味のハリウッドや、何気に味わい深いスペインあたりのホラーを見ていると、ふと『ねじの回転』を思わせるところがある。それは、リアルな幽霊像?モンスターではない、ゴーストにこそ、恐怖を、さらにはドラマをも見出す。が、それをオペラにしてしまう?モンスターではない、ゴーストが放つ恐怖を、描き出されるのだろうか?
いや、ブリテンだからこそ、その希有な独自性があってこそ描くことができたのだと思う。『ねじの回転』が持つ、独特の緊張感を、巧みに音楽に反映しつつ、イギリスの旧家の重苦しさ、そこに住む家庭教師とこどもたちの軽やかなやり取り、こどもたちを意のままにしようとする幽霊の不可思議な存在感と、物語に込められた硬軟、日常と非日常を卒なく盛り込み、テンポよくドラマを展開する。ブリテンは、1930年代に多数の映画音楽を手掛けているのだけれど、そうした経験が、台詞を歌うという伝統的なオペラとは違う視点を持たせるのか、『ねじの回転』に限らず、ブリテンのオペラというのは、映像をイメージさせるよう。ブリテンの鋭敏な感性が、シーンごとの空気感を鮮やかにサウンドにし、そこに、歌曲で培った、気負うことのないナチュラルな旋律を浮かばせて... すると、芝居掛かったドラマティシズムとは違う瑞々しさが、物語の隅々までに行き渡り、キャラクターたちはより息衝いて、ドラマには緊張感が生まれる。で、そんなドラマに惹き込まれてしまうと、まるで自分も幽霊となって、家庭教師とこどもたちの姿を、屋敷の隅から見つめるような、そんな感覚にさせられる。劇場で見るのではなく、CDで聴くからこその感覚だろうけれど、これがとても興味深く、このオペラの風変わりさを象徴していて、おもしろい。
という、『ねじの回転』を、若々しい感性で捉えたハーディング... この全曲盤は、今から11年前、2002年のレコーディング... となると、ハーディング(b.1975)は、まだ20代後半... 指揮者としては、今も十分に若いけれど、やはり今とは違うフレッシュさに充ち溢れている。またそれが、このオペラの風変わりなあたりに絶妙に作用し、ブリテンのヴィヴィットな音楽を際立たせる。そこに、ハーディングの現代っ子感覚も乗っかって。ジメっとした幽霊モノを強調するのではなく、かえって淡々と物語を追うことで、怪異の唐突さというか、怪異に遭遇する思い掛けなさのようなものに、現代的な恐怖を掻き立てる。それは、霊感がある人がつい見てしまうような感覚だろうか?つまり、リアルな幽霊像?原作を巧みにオペラにしたブリテン、そのオペラに現代におけるリアルな幽霊像を与えるハーディング。非日常を描きながら、オペラという非日常において、リアルを生み出す器用さ!それを飄々とやってのける、ハーディングの若さに、また感服させられてしまう。いや、この人は間違いなく大器...
で、幽霊である。幼い兄妹に執着する亡霊、ピーター・クイントを歌う、ボストリッジ。魔女博士としても知られるだけに、当たり役?の前に、プロローグも歌うのだけれど。ピアノ伴奏で歌われる、小説の扉を開くかのような始まりから、すっかり惹き込まれてしまう。ボストリッジならではのクリアで、美しく繊細な歌声... 幕が上がり、やがて幽霊として現れれば、そのクリアな美声が、奇妙にカラっと響き、生きているのか、死んでいるのか、よくわからない。いや、幽霊役なのだから、死んでいなくてはならないのだけれど、この生死をはっきりさせないトーンが、かえって気味悪く。日常を浸食して来る非日常の狡猾さのようなものを炙り出して、印象的。そんな、亡霊に取り憑かれた幼い兄妹、マイルズとフローラを歌う2人のこどもたちがまた見事!ボストリッジを筆頭に、イギリスの歌手たちの、勝手知ったイギリスの情景を、卒なく歌い紡いで生まれるテンポが最高。そして、マーラー室内管の、腕利き揃いの若手オーケストラならではの、隅々まで神経の行き届いた演奏に、ひとつひとつのシーンは鮮やかな色彩を放ち、このオペラの魅力を余すことなく音にする。

Benjamin Britten
The Turn of the Screw
Mahler Chamber Orchestra
Daniel Harding


ブリテン : オペラ 『ねじの回転』 Op.54

プロローグの語り手/ピーター・クイント : イアン・ボストリッジ(テノール)
家庭教師 : ジョーン・ロジャース(ソプラノ)
マイルズ : ジュリアン・レアング(ボーイ・ソプラノ)
フローラ : キャロライン・ワイズ(ソプラノ)
グロース夫人 : ジェイン・ヘンシェル(ソプラノ)
ジェスル嬢 : ヴィヴィアン・ティアネイ(ソプラノ)

ダニエル・ハーディング/マーラー室内管弦楽団

harmonia mundi/HMU 807553




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