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目まぐるしさの中の、最も尖がっていた頃... ヒンデミット、室内音楽... [before 2005]

パウル・ヒンデミット、没後50年のメモリアル...
プーランクに続いて、ヒンデミットを聴くのだけれど、こうして、改めて、20世紀の音楽を振り返ると、感慨深いものがある。『春の祭典』の初演がちょうど100年前、その少し前にシェーンベルクは無調へ突入し、その後まもなく12音技法へと至る。もちろん、そればかりではない。18世紀がリヴァイヴァルされ、輝かしきマシーン・エイジが未来を照らし、都市の喧騒が魅惑的に鳴り響き、ジャズは大西洋を渡り、古くからのフォークロワは拾い集められ... あらゆるセンス、スタイルを呑み込んで、19世紀、ロマン主義、ワーグナー一辺倒だった音楽が、突如として爆発的な進化を遂げる20世紀... ヒンデミットは、表現主義から、擬古典主義、新即物主義へ、さらにロマン主義へと回帰して... その作風の変化には、20世紀の目まぐるしさが見て取れる。
そして、その目まぐるしい中で、ヒンデミットが最も尖がっていた頃、近代音楽が最も刺激的だった1920年代の作品を久々に聴いてみる。クラウディオ・アバドの指揮、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の演奏で、ヒンデミットの全7曲からなる"室内音楽"、4番、1番、5番を収録した第1集(EMI/5 56160 2)と、2番、3番、6番、7番を収録した第2集(EMI/5 56831 2)を聴く。


第1集。1920年代のルポルタージュ?

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まずは、"室内音楽"の始まり、1番(track.6-9)を聴いてみるのだけれど... 弦楽四重奏をベースにしながらも、ハーモニウムやサイレンまで加わっての異形の編成で繰り広げられるキテレツな音楽。1楽章(track.6)のマシーン・エイジを象徴するようなメカニカルな音楽は、今を以ってしてクール!続く2楽章(track.7)のとぼけた表情は、ダダを意識させるようで、それでいてフォークロワな臭いもしてくれる不思議なテイスト。かと思うと、3楽章(track.8)では、木管にグロッンケンシュピールがアクセントを加えて、ちょっとアルカイックに詩的に静かな音楽が流れ出す。そして、最後は、様々なパーッカションが次々に駆り出され、街の喧騒を取り込むような終楽章(track.9)!あらゆる要素が盛り込まれて、錯綜するようでありながら、「室内」という規模の中に、目一杯の1920年代の時代の気分が詰め込まれているおもしろさ!これは、ある種のルポルタージュなのかも...
という1番で始まった"室内音楽"なのだけれど、2番以降は、室内楽ではなく協奏曲へと方向転換。そして、アバド、ベルリン・フィルによる第1集では、まず堂々たるヴァイオリン協奏曲、4番(track.1-5)が取り上げられる。表現主義的な不穏さが蠢く1楽章が序奏となって、近代音楽による上質なコンチェルトが繰り広げられる4番。キビキビとした動きと、ヴァイオリンならではの艶やかさが結ばれて、プロコフィエフやバルトークのコンチェルトにまったく引けを取らず魅力的。この4番と対を成すように第1集を締め括るのが、5番(track.10-13)、ヴィオラ協奏曲。ヒンデミットはヴァイオリン、ヴィオラのマエストロとしても活躍しただけに、この2つの楽器のためのコンチェルトの充実ぶりは確かなもの... 5番も、ヴィオラならではの深いサウンドを活かしつつ、モダニスティックさをきっちりと捉えて聴き応えは十分。そこに終楽章の「軍隊行進曲のヴァリアンテ」(track.13)の、ちょっぴり毒づくような軍隊風がいい味を添えて、音楽における新即物主義の魅力を楽しませてくれる。
のだけれど、そうした充実の2つのコンチェルトに挟まれることで、1番の異形は、間違いなくより際立つ... ヒンデミットの若さが炸裂するその音楽の魅力は突き抜けていて、それ以後の"室内音楽"が、どこか取り澄ましたものに聴こえてしまうのは少し残念な気もする。

HINDEMITH: KAMMERMUSIK NR. 1, 4 & 5
ABBADO & BPO

ヒンデミット : 室内音楽 第4番 Op.36-3 〔ヴァイオリンとオーケストラのための〕 *
ヒンデミット : 室内音楽 第1番 Op.24-1 〔12の独奏楽器のための〕
ヒンデミット : 室内音楽 第5番 Op.36-4 〔ヴィオラとオーケストラのための〕 *

コーリャ・ブラッハー(ヴァイオリン) *
ヴォルフラム・クリスト(ヴィオラ) *
クラウディオ・アバド/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

EMI/5 56160 2




第2集。"室内音楽"は、おもちゃ箱?

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さて、気を取り直して、"室内音楽"の続きを聴くのだけれど... 第2集は、ピアノ、チェロ、ヴィオラ・ダモーレ、オルガンによるコンチェルトと、楽器が盛りだくさん!1番の強烈なイメージはとりあえず置いといて、改めて"室内音楽"を俯瞰してみると、そこで取り上げられる独奏楽器のヴァラエティに目を見張る。"室内音楽"というおもちゃ箱に、様々な楽器が放り込まれたような、多彩さがまず楽しい。そして、そのあたりが特に強調される第2集。始まりは2番(track.1-4)、ピアノ協奏曲。ピアノの、マシーンとしての性格を際立たせるような、ドライでスタイリッシュな近代音楽が繰り広げられる1楽章は、1番のキテレツさに最も近く、クール。バウハウスとのコラヴォレーションで、自動演奏オルガンを用いたヒンデミットだけに、メカニカルな魅力は冴えている。
そこから一転、古楽器を引っ張り出して来てしまうのが、6番(track.9-12)、ヴィオラ・ダモーレ協奏曲。ドイツにおける擬古典主義の旗手、ヒンデミットらしい、バロック期を彩った楽器の復活!独特の古雅なトーンを滲ませながらの、メロディックな冒頭から魅惑的。時として、ヴィオラよりもクリアで静謐な響きをもたらし、古雅である以上により現代的な感覚も滲む不思議さは印象的。で、最後は、"室内音楽"の最後を飾る、7番(track.13-15)、オルガン協奏曲。もはや、「室内」ではない!煌びやかなオルガンの響きに、金管、木管が活躍する編成は、オルガンという楽器に新たな管を増設したような... まるで全体がひとつの楽器のようになって鳴り響くおもしろさがあり、そこに1920年代におけるフューチャリスティックな感覚を見るようでもあり、魅惑的。
そんな、"室内音楽"を聴かせてくれた、アバドとベルリン・フィル。ひとりひとりの音楽性が際立ったスーパー・オーケストラだからこそ、"室内音楽"の室内楽的な魅力をきちっと描き出し、ドライになりがちな新即物主義の音楽から、しっかりと旨味を引き出すアバドのセンス。全7曲、それぞれに魅力的に仕上げてしまう器用さはさすが!で、忘れてならないのが、ソリストたち... 当時のコンサート・マスター、ブラッハーの端正なヴァイオリンに始まって、ファウストが弾くチェロの、渋くも艶やかな響き、クリストのヴィオラ・ダモーレの古雅にしてフレッシュな音色... ベルリン・フィルのメンバーによるソロは、ソリスト然とするばかりでない、アンサンブルとしての魅力もまたすばらしい。もちろん、フォークトのピアノ、マーシャルのオルガンもいい味を醸す!

HINDEMITH: KAMMERMUSIK VOL.2
ABBADO & BERLIN PHIL.

ヒンデミット : 室内音楽 第2番 Op.36-1 〔ピアノとオーケストラのための〕 *
ヒンデミット : 室内音楽 第3番 Op.36-2 〔チェロとオーケストラのための〕 *
ヒンデミット : 室内音楽 第6番 Op.46-1 〔ヴィオラ・ダモーレとオーケストラのための〕 *
ヒンデミット : 室内音楽 第7番 Op.46-2 〔オルガンとオーケストラのための〕 *

ラルス・フォークト(ピアノ) *
ゲオルグ・ファウスト(チェロ) *
ヴォルフラム・クリスト(ヴィオラ・ダモーレ) *
ウェイン・マーシャル(オルガン) *
クラウディオ・アバド/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

EMI/5 56831 2




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