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バリトンが拓く、ヴェルディのより広がる世界。 [before 2005]

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どうやら、9月後半は、ヴェルディで走り切りるようです。
ここ久しく、ヴェルディを聴いていなかった反動?というより、ほとんどヴェルディを取り上げて来なかった穴埋め?なのか、どうなのかはともかく、変にヴェルディにはまってしまう今日この頃... 何より、やっぱりヴェルディはいい!となる今日この頃。それはまた、ヴェルディの音楽と、集中的に向き合う機会となり、ヴェルディと言う存在を様々な視点から考える切っ掛けにも... 今さらながら、こういう作曲家、こういう音楽だったんだ... と、不勉強を思い知らされつつ、感心させられ、大いに魅了されております。そんなメモリアル。
で、今日この頃、気になっている言葉が、「ヴェルディ・バリトン」。ということで、リチャード・アームストロングの指揮、エイジ・オブ・インライトゥンメント管弦楽団の演奏で、今や巨匠、トーマス・ハンプソンのバリトンによる、ヴェルディのアリア集(EMI/5 57113 2)を聴く。

「ヴェルディ・バリトン」、何となく使っていた言葉だけれど、特に気に留める言葉でもなく、そのことについてあまり考えることもなかった。が、改めてその言葉を見つめると、特異な印象を受ける。ソプラノでもテノールでもなく、"バリトン"。で、バリトンであるのが"ヴェルディ"。って、なかなかおもしろい。いや、それだけバリトンを重視したヴェルディだったわけだけれど... そのあたりを意識しながら、ヴェルディのオペラを振り返ると、何だかもの凄く新鮮に思えて来る(つまり、ヴェルディを真剣に聴いて来なかったことがバレてしまう?)。
ヴェルディのイメージというのは、強烈なステレオタイプに覆われているように思う。また、そのステレオタイプが見事に魅力的だったりするものだから、ステレオタイプをわざわざ捲ってまで、その下に隠れているヴェルディの本当の姿を探ろうとはして来なかった。ブンチャッチャッ、ブンチャッチャッ、と、調子よく運ばれて行くドラマ... そのドラマの、劇画的に劇的なあたり... 心地良く盛り上げられてゆく音楽... 間違いなく大好きだけれど、それらは何となくどれも同じように思えて、単純なものだと思いこんで来てしまった。が、ソプラノでもテノールでもなく、"バリトン"が動かすドラマというのは、そう単純でないことに気がつく。って、遅過ぎ... だよな...
ハンプソンが歌う、ヴェルディのアリア集を改めて聴いてみると、ひとつひとつのアリアが実に魅力的であることに感じ入る。ソプラノやテノールのアリアの花やかさとは違う、より性格的なアリアの数々... これまで、ひとつのシーンとして、全曲の中で聴いて来たバリトンのアリアが、それだけを抜き出して集中的に聴いてみると、また違った存在感を見せる。ソプラノやテノールのアリアの音楽的な花々しさとはまた違う、ひとつひとつのアリアに籠められたドラマ性が薫り立ち、同じヴェルディではあっても、異なる温度感を感じさせる興味深さ。"バリトン"という、これまでとは違う切り口を体験することで、ヴェルディのステレオタイプは、簡単に捲ることができたような気がする。そして、ヴェルディのオペラを彩る、バリトンによるロールの、実に人間味に溢れた表情の深さ!主役としては、よりその性格俳優ぶりが強調され、また脇役としては、ドラマに奥行きを持たせる名バイ・プレイヤーとしての"バリトン"が強調される。ソプラノでもテノールでもなく、「ヴェルディ・バリトン」である所以。ヴェルディのオペラに求められる、バリトンの資質というものを再認識させられることで、より立体的にヴェルディのオペラを聴くことができるのかもしれない。そうすることで、ヴェルディの魅力をより深く味わえるのかもしれない。
そして、ヴェルディのオペラにおけるバリトンの魅力を、丁寧に捉え、かつしっかりと聴かせてくれるハンプソン。必ずしも「ヴェルディ・バリトン」に特化した歌手ではないかもしれないけれど... というより、フランスものから、ドイツもの、イタリアものと、何でもこなして来たハンプソン。いや、だからこそ生まれるバランス感覚とセンスが、かえって「ヴェルディ・バリトン」のロールが持つ深みとドラマ性を、クリアに表現できているように感じる。また、「ヴェルディ・バリトン」というひとつのイメージを生みながらも、歌われる多様な性格、表情を持ったひとつひとつのロールを、器用に演じ分けるハンプソンの姿も印象的で。このアルバム、単なるアリア集を越えた、オムニバス・ドラマを見るような聴き応えがおもしろい。さらに、そうしたハンプソンの方向性を、さり気なくサポートする、アームストロングの指揮、エイジ・オブ・インライトゥンメント管。ピリオド・オーケストラでヴェルディ?!という新奇さは、まったく薄いものの、モダンのオーケストラではなかなか得難い味わいを、そこはかとなく響かせて、ハンプソンが歌い上げるドラマ性を、より濃密に仕上げる巧みさ!このアルバムにとって、それは、間違いなく重要なスパイスとなり。ヴェルディのすばらしさは、改めて、際立つ!

VERDI: OPERA ARIAS
HAMPSON ・ ARMSTRONG


ヴェルディ : オペラ 『マクベス』 より 「裏切り者め!... 老境をなぐさめる、慈悲や尊敬や愛」
ヴェルディ : オペラ 『エルナーニ』 より 「聞いてくれ... 若き日々よ」
ヴェルディ : オペラ 『二人のフォスカリ』 より 「ついにひとりになった... ああ、年老いた心よ」
ヴェルディ : オペラ 『海賊』 より 「ついにこの海賊は私の捕虜になった... 数多くの愛らしい乙女が」
ヴェルディ : オペラ 『イル・トロヴァトーレ』 より 「すべて鎮まった... 君が微笑み」
ヴェルディ : オペラ 『シチリア島の夕べの祈り』 より 「あの女はわしを嫌っていた... 権力の中心にあり」
ヴェルディ : オペラ 『群盗』 より 「裏切りだ!... 豪勢な宴が終わり... 最初の人は神秘の法典で武装し」 *
ヴェルディ : オペラ 『スティッフェーリオ』 より 「彼は逃亡した... リーナは天使と思っていたのに」
ヴェルディ : オペラ 『椿姫』 より 「プロヴァンスの海と陸... 小言などおまえはきくまいが... 」 から 第1場の最後まで *
ヴェルディ : オペラ 『ジョヴァンナ・ダルコ』 より 「これがその場所か... 老人の希望は娘だけだったのに」
ヴェルディ : オペラ 『マクベス』 より 「わしは、どこにいるのだ!... 激しい炎の中に立ち」

トーマス・ハンプソン(バリトン)
リチャード・アームストロング/エイジ・オブ・インライトゥンメント管弦楽団
ティモシー・ロビンソン(テノール) *
ダニイル・シトダ(テノール) *

EMI/5 57113 2




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