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クラシックにおいて、"マニアック"であるということは、 [overview]

2005年は、マニアックだった!
と、ここまで、散々、書いて来たので、ダメ押し的に、特に"マニアック"だったもの選んでみる。で、まずは、ルイジ指揮、MDR響が、フランツ・シュミットの全4曲の交響曲を、一気に取り上げた4枚のアルバム(Querstand/VKJK 0503, 04, 05, 06)。ひとつ年上に、ラフマニノフ(1873-1943)、ひとつ年下にラヴェル(1975-1937)、そして、同い年にシェーンベルク(1874-1951)... そんな風に、フランツ・シュミット(1974-1939)の周りを見つめると、彼を取り巻いた時代が如何に多様であったかを思い知らされる。そうした中で、19世紀、ドイツ―オーストリアのロマン主義の系譜を受け継ぐフランツ・シュミットという存在は、幾分、古臭いものがあるのかもしれない。だからか、今となっては、音楽史の中で埋没気味... そんな存在を徹底して紹介しようとしたルイジのMDR響との仕事ぶり(4つの交響曲のみならず、後に左手ピアノのための協奏曲集までもリリース!)は、まさにマニアック!だけれど、掘り起こされた4つの交響曲と、そこから窺える、最後のロマン主義者、フランツ・シュミットの変遷は、本当に興味深かった。ある意味、時代を代表する名曲よりも、時代そのものを感じられたのかもしれない。クラシックにおいて、"マニアック"であるということは、時代と向き合うことなのかもしれない。
ということで、さらに、さらにさらにマニアックを極めたアルバムを、改めて振り返り、2005年、最もマニアックな1枚を選んでみたいと思う。

2005年の"マニアック"で、まず気になるのが「版」。他のジャンルよりも、断然、カチっとしたイメージのあるクラシックではあるけれど、この「版」が、揺るぎなくスコアに縛られているはずのクラシックの作品にブレを生じさせ、思い掛けない新鮮さや発見、驚きをもたらしてくれる。そんな1例、ハイルディノフ、ストーンのピアノで聴く、ショスタコーヴィチの4番の交響曲の2台ピアノ版(CHANDOS/CHAN 10296)... どうやってピアノ2台に落とし込むんだ?!というほど、巨大な印象のあるショスタコーヴィチの4番の交響曲だけに、初めてその版の存在を知った時の衝撃は大きかった。が、そういう衝撃も薄れ、今、改めてその版を聴き直してみると、オーケストラでは知り得なかった、この交響曲の芯の部分が詳らかとされてゆくようで、また刺激的。
それから、ヴァイル指揮、カペラ・コロニエンシスによるワーグナーのオペラ『さまよえるオランダ人』の初稿(deutsche harmonia mundi/82876 64071 2)。「ワーグナー」という個性で武装される以前の、ある意味、剥き出しのワーグナー... というのが、この初稿だったように感じる。そして、剥き出しとなって、作曲家としての技量が露わになったワーグナーによる確かな音楽と、そこから発せられる瑞々しさは、今、改めて聴いてみて、さらに増すよう。で、さらに剥き出しな状態を聴かせてくれたのが、スホーンデルヴルトがピリオドのピアノで弾く、ベートーヴェンのピアノ協奏曲、4番と5番、「皇帝」の試演版(Alpha/Alpha 079)。試演版?!もはや、これ以上、マニアックな版は存在しないのでは?というくらい極まっている... で、極まった先に聴こえて来るベートーヴェンの独特の息遣い... 「試演」という準備段階に触れてしまうことで、楽聖のあられも無い姿を覗いてしまう?そんなゾクゾク感があった。そして、この1枚から始まったスホーンデルヴルトのシリーズ、ヴァイオリン協奏曲のピアノ版も含め、全6曲で、より生々しいベートーヴェンに迫り、マニアックな偉業を成し遂げた。

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さて、時代の徒花だったのか?第2次大戦中に企画され、終戦後まもなく初演された、当時、一流の作曲家を集め編まれたコラボ組曲... シュウォーツ指揮、シアトル響による『創世記組曲』(NAXOS/8.559442)。シェーンベルク、ストラヴィンスキーといった有名どころによるパートは、現在でも取り上げられることはあるものの、組曲としてはすっかり忘れ去られてしまった... のを、改めて蘇らせたこのアルバム。20世紀半ばのあらゆる音楽語法がごった煮のように繰り広げられ、そのあたりが忘れ去られる要因だったのかもしれないけれど、今となっては、そうしたごった煮の時代を振り返る貴重な資料と言えるのかもしれない。いや、ごった煮であることの魅力!これは、時代を経た今だからこそ際立つもの。その盛りだくさんなあたり、今こそ注目すべきのように感じる。
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アメリカン・モダニスト... というと、コープランドあたりがすぐに思い浮かぶのだけれど、アメリカン"ウルトラ"モダニストとなると、何それ?!いや、まったく知らなかった。で、その知られざるアメリカのモダニズムを取り上げるのが、シュライエルマッハーのピアノによる"American Ultramodernists 1920-1950"(MDG/613 1265-2)。ヴァレーズを中心に集ったアメリカのウルトラ・モダニストたち、神秘主義にも彩られ、独特の存在感を示すその音楽は、今となってはまったく以ってマニアック。が、その当時、アメリカでは大きな注目を集めたのだとか... 実験的な音楽が広く注目されたなんて、ちょっと信じ難いのだけれど... ウルトラ・モダンなトンデモのセンセーショナリズム、みたいな感じで受け入れられたか?しかし、シュライエルマッハーが奏でる音楽は何と詩的な!

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時代を遡って、バロック期へ... で、バロック期の音楽の都というと、どこだろう?日本人にとって「音楽の都」というと、ウィーンかもしれない。が、ウィーンの音楽シーンがまだ発展途上だった頃、北ドイツに目を向けたマニアックな1枚。中世以来、都市国家として富を蓄積し、北ヨーロッパの音楽の中心として繁栄したハンブルクを掘り起こす、ベルリン古楽アカデミーの"Ouvertüren"(harmonia mundi FRANCE/HMC 901852)。バロック・オペラの巨匠、ヘンデルがオペラ・デビューを果たした北のオペラ都市、ハンブルクで上演された人気作から、序曲、組曲を取り上げるのだけれど。ヘンデルはともかく、ハンブルクのローカルな作曲家たちの名前がマニアック... それこそ、あんた誰?となるのだけれど、ハンブルクのオペラの賑わいを伝える活きのいい音楽に魅了される!
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バロック期のローマは、ヴェネツィアやナポリと並ぶオペラの中心だった。しかし、オペラ熱が高まり過ぎたか?オペラ周辺の不道徳が際立ち始めたか?教皇聖下がオペラを禁止。そのオペラ禁止下のローマの音楽シーンに迫るバルトリのアリア集、"OPERA PROIBITA"(DECCA/475 7029)。禁止という閉塞的な状況で、かえってオペラへの熱は高まり、より刺激的な劇的な音楽が繰り広げられるローマにスポットを当てるマニアックさ!カンタータやオラトリオとして法の穴を掻い潜り、オペラは1曲もないのに、これほどまでにオペラティックだとは!バルトリのスーパー・パフォーマンスもあって、ミンコフスキ+レ・ミュジシャン・デュ・ルーヴルのスパークリングな演奏もあって、刺激的なオペラ禁止都市、ローマのエキサイティングなあたりが生々しく蘇る!
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そして、元祖オペラ都市、ヴェネツィアの凋落を描き出す... ビオンディ+エウローパ・ガランテによるヴィヴァルディのパスティッチョ『バヤゼット』(Virgin CLASSICS/5 45676 2)。しかし、なぜにパスティッチョ(既存のオペラからのアリアなどを寄せ集め、再編集されたオペラ... )?と、最初は思った。が、このパスティッチョがどういう背景を持って、どんなアリアを持ち寄ってひとつに編集されたことを知った時の衝撃は、計り知れないものが... 自身のアリアと、ライヴァル、ナポリ楽派のアリアを対峙させたヴィヴァルディのセルフ・パロディとも言える構成に感服。と同時に、ヴェネツィアからナポリへ、モードの中心がうつろう頃のバロック期のオペラを見事に活写しているあたり、一級の資料ともなっており。これは、ただの寄せ集めじゃない!

そして、2005年のリリース、最もマニアックに感じた1枚!
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古楽アンサンブル、セクエンツァとディアロゴスによるアルバム、"CHANT WARS"(deutsche harmonia mundi/82876 66650 2)。クラシックの起源とも言うべきグレゴリオ聖歌が、如何にして生成/精製されたかを辿る、極めて意欲的な1枚... つまり、クラシックの始まりがここで語られる?と思うと、ワクワクさせられる。そして、古代の伝統を受け継ぐローマと、それをベースにしながらも、独自の感性で新たなスタイルを生み出したアルプス以北の文化的なせめぎ合いの興味深さ!結果、先進的な文明を築いて来たローマが、新興のフランクに競り負けて、南ではなく北のセンスが、ヨーロッパのインターナショナル・スタイルに... これは、単に聖歌の問題に限らず、「ヨーロッパ」の性格を決める、極めて重要なターニング・ポイントだったとように感じる。となって来ると、もはや"マニアック"なんていうスケールを越えてしまっているのかもしれない"CHANT WARS"。何と言っても、そこで歌われる聖歌の雄弁なこと!グレゴリオ聖歌の静謐さに至る前段階... 洗練に至る前の状態の粗削り感が、独特の雄弁さを生んでいて、男声のパワフルで突き抜ける歌声が、カッコいい!

ということで、2005年のリリースを振り返る、これにて終了。となると、次回から何を書いていいのやら... 只今、ぼんやりと、途方に暮れております。




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コメント 2

yoshimi

こんにちは。
「皇帝」の古楽演奏では、ガーディナー&レヴィンの録音を随分昔に聴いたことがあります。
これがどうにも好きになれず、それ以来、古楽のベートーヴェンは敬遠しておりましたが、このスホーンデルヴルトの演奏は、少し試聴しただけでも、とても良いですね!
フォルテピアノの音が尖っていなくて綺麗ですし、なめらかでありつつ細やかな起伏のある表現で、私にはとても自然に聴こえてきました。
(でも、第4番の第2楽章は、現代ピアノの方が静寂で沈潜した雰囲気と瞑想感が深く感じられるような気がしましたが...)
それに、規模の小さな古楽器の響きは、記憶の中に残っている田舎の原風景を思い出すような、とても懐かしいものを感じます。
フレットワークがヴィオールで演奏した《バッハの技法》を聴いた時も、同じような感覚を覚えました。

以前書かれた「皇帝」の記事も拝見して、ますます聴きたくなってきました。
このCDは近々購入しようと思います。
ご紹介下さって、どうもありがとうございました。

by yoshimi (2013-09-17 11:35) 

carrelage_phonique

yoshimiさん、こんにちは。

スホーンデルヴルトは独特です。でもって、試演版は、本当に独特です。
やっぱり「試演」だけあって、いつもの感覚には至れない部分もあるのですが、試演版だからこそ聴こえて来るものも間違いなくあって。何より、スホーンデルヴルトの息遣いが感じられる、距離感というか、親密感は、たまらないです。是非、この空気感、体験してみてださい。



by carrelage_phonique (2013-09-17 20:47) 

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