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"Haunted Heart"、もうひとりのルネ・フレミング... [2005]

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何となく、"ゲンダイオンガク"からジャズという流れで...
暑さも一息ついた?ということで、ちょっとブレイク。クラシックから離れてみる。って、完全に離れてしまうわけではないのだけれど... 今や、アメリカを代表するプリマとなったルネ・フレミング(ソプラノ)が、かつてクラブ・シンガーをしていた頃に立ち戻るという、興味深い1枚。で、クラシックから鮮やかに離れて見せた、息を呑む、プリマのアナザー・サイド。オペラハウスで見せる表情とはまったく違う... いや、別人?というくらいのギャップに驚かされつつ、あまりに堂に入った歌いっぷりに、ただただ魅了されてしまったアルバムを久々に聴く。
2005年にリリースされた、ルネ・フレミングのジャズ、ポップスからのナンバーを歌うアルバム、"Haunted Heart"(DECCA/988 0602)を聴き直す。

まず、その付け焼刃でない、圧倒的な存在感に息を呑む。プリマが気分転換にジャズあたりで遊んでみました。というような、中途半端さは、一切、無い。1曲目、アルバムのタイトルにもなっているスタンタード・ナンバー、"Haunted Heart"の、ピアノによる最初の一音からすでに雰囲気はたっぷりで、そこに、フレミングの意外なほどの低音... わずかにハスキーにも聴こえるその魅惑的な低音に包まれると、もう、完全にクラシックは忘れてしまう。そして、何とも言えない濃密な空気感... 客もまばらな、少し古ぼけた店の、その奥で、派手にスポットを浴びるでもなく、淡々と歌う、クラブ・シンガー... 誰のために歌うというでもなく、ピアノに寄り掛かり、ピアノが鳴ったから、渋く、歌い出す... その、本物であることを思い知らされるような濃密さ... だけれど、その濃密さには、どこかリヒャルト・シュトラウスのオペラと通じるような感覚を見出したり... いや、数々のオペラの舞台を経て来たからこそ生まれる、シーンを生み出すことに長けたプリマのセンスもあるのかもしれない。とにかく、魅惑的な歌声を楽しむというだけでない、スモーキーなクラブの気だるい気分を、存分に味あわせてくれるフレミング。
で、2曲目、ジョニ・ミッチェルの"River"(track.2)だったりするのが、最高!いや、夏にクリスマス・ソングです。けど、このアンビバレントさが、かえって心に沁みるのかも... そもそも、キラキラした讃美歌とは違う、ジョニ・ミッチェルならではのトーンというか、どこか寂しげなクリスマスが、夏の終わりに、独特のチープ感を伴って、得も言えないセンチメンタルを巻き起こす!そして、アルバムは、この独特の、フレミングのアナザー・サイドをどんどん深めてゆく... 4曲目、スタンダード・ナンバー、"You've Changed"(track.2)の、遠い「往年」の気分... ビートルズ(track.7)の、思い出に浸るようなあたり... ジミー・ウェッブ(track.8)の、カントリーが滲んで生まれる懐かしさ... そこに現れる新ウィーン楽派!ここまでの独特のトーンを、ベルクの無調へとつなげてしまう巧さ!フレミングのアナザー・サイドは、そのままクラシックへとつながって、まるでメビウスの輪のように「ルネ・フレミング」という歌い手を形作っていることに、はっとさせられる。そして、ベルクの無調から繰り出される"The Midnight Sun"(track.9)の、新ウィーン楽派の歌曲のように聴こえて来る不思議さ。その後の、マーラーの「美しさゆえに愛するのなら」(track.10)から漂う、どことなくジャジーな臭い。このボーダーラインを漂う感覚がたまらない。いや、フレミングだからこそ可能な漂流... その漂流を絵に仕上げる、センスを感じさせるアレンジの妙!
ピアノを弾く、ハーシュによるアレンジは、クラブ・シンガー、フレミングの感性を大切に包みながらも、鮮やかなサウンドで、このアルバムのたゆたうような独特の時間の流れを生み出す。特に、フリゼールのエレキギターのヴィヴィットなサウンドは、たまらないものがあって。その"エレキ"で、マーラー(track.10)を伴奏してしまう大胆さが、凄い。で、音ばかりでなく、ウィーン世紀末のイマジネーションまで増幅されて、いつもの伴奏で聴くよりも、かえって、クリムトの絵を思わせるような、ダークな煌びやかさが現れて、驚いてしまう。そして、ジャズの一線で活躍する、ハーシュのピアノ、フリゼールのギターは、当然ながらすばらしく、フレミングのアルバムではあるけれど、ピアノとギターでもたっぷりと聴かせる!だからこそ、"Haunted Heart"は濃密なのだろうな。
そして、その濃密さの核、フレミング... 一声、歌うだけで、まるでシーンを見せてしまうような、味わい深さ... それでいて、一曲、一曲、丁寧に、作品の在り様を模索し、巧みに表情を付けてゆく器用さ!よくよく見つめれば、そのラインナップ、一筋縄では行かない。特に、後半、ブラジルのサウダージを感じさせるヴィラ・ロボス(track.12)から、パリのサロンを感じさせるパラディール(track.13)、そして、古き良きアメリカのフォスター(track.14)と、漂流の度合いは激しくなる。けれど、"Haunted Heart"というトーンにつなぎ止める確固たる音楽性があって、流れを生み出すフレミング。そこに、普段のオペラで聴くよりも、彼女の凄さを感じ、より魅了されてしまう?久々に聴いて、改めてそんな風に思ってしまった。

Renée Fleming Haunted Heart

Haunted Heart
River
When Did You Leave Heaven?
You've Changed
Answer Me
My Cherie Amour
In My Life
The Moon Is A Harsh Mistress
オペラ 『ヴォツェック』 から/即興/The Midnight Sun
マーラー : 美しさゆえに愛するのなら
My One And Only Love/This Is Always
ヴィラ・ロボス : 愛の歌
パラディール : プシシェ
フォスター : 厳しい時代はもうやって来ない

ルネ・フレミング(ヴォーカル)
フレッド・ハーシュ(ピアノ)
ビル・フリゼール(ギター)

DECCA/988 0602




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