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夏の終わりを探して、地中海を渡る... [2005]

お盆休みも終わりました。8月はすでに後半...
そろそろ、夏の名残を惜しむような、そんな気分?いやいや、夏の勢い衰える気配まったく無し。ではあるのだけれど、一足先に夏の終わりを音楽で探ってみようかなと。Alphaの白のジャケット、古楽とフォークロワを結んでオーガニックなサウンドを響かせる"Les chants de la terre(大地の歌)"のシリーズから... その大地に根差した音楽の力強さに夏を、大地から立ち上る郷愁の匂いに、夏の終わり見出してみる。
ということで、2005年にリリースされた、ヴィオラ・ダ・ガンバ奏者、ニマ・ベン・ダヴィドを中心に、ジャンルの壁を越えた音楽家が集い、セファルディの歌を拾い集めたアルバム、"Yedid Nefesh"(Alpha/Alpha 511)。"Les chants de la terre"のシリーズを代表する名盤、クリスティーナ・プルハル率いる古楽アンサンブル、ラルペッジャータの、南イタリアの舞曲、タランテラをフィーチャーしたアルバム、"La Tarantella"(Alpha/Alpha 503)の2タイトルを聴き直す。


"Yedid Nefesh"、地中海に散らばった破片を拾い集めて...

Alpha511.jpg
クラシックというジャンルにおいて、ユダヤの音楽の存在は、何気に大きい。メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲のメロディックさ、マーラーの交響曲の諧謔的なあたり... ロマン主義の時代、知らず知らずに絶妙なスパイスとなってクラシックをより魅惑的なものとしていた音楽におけるユダヤ性。そうしたユダヤ性とはまた違ったルーツを持つセファルディの歌... クロス・カルチュラルな中世のイベリア半島で育まれるも、レコンキスタの完遂、スペインの統一と合わせて、1492年、イベリア半島を追放されたユダヤの人々とともに、地中海沿海、各地へと離散し、アラブ、トルコなど、それぞれの地域の音楽と影響し合い、また新たな発展を遂げて... という、地中海に散らばった後のセファルディの歌を拾い集めたのが、"Yedid Nefesh"。
ユダヤのフォークロワの歌い手、メイラフ・ベン・ダヴィドと、ヤレル・ハレルの2人と、古楽のフィールドから東洋と西洋を行き来するパーカッショニスト、ミシェル・クロード、そして、ニマ・ベン・ダヴィドのヴィオラ・ダ・カンバという、個性的な4人によるアンサンブル。特に飾ることの無い最小限の編成から、地中海の多様なテイストと結び付いたセファルディの歌の多彩さを丁寧にすくい上げ、ひとつにまとまらない独特のエスニックさで聴く者を眩惑して来る。濃密にアラベスクかと思うと、古代ギリシアの音楽を思わせるミステリアスさを漂わせ、また、トルバドゥールの音楽を思い起こさせるような朗らかさが広がって、セファルディの歌のフレキシブルな展開に驚かされつつ、そのひとつひとつの雄弁さ、味わい深さに、改めて感じ入るばかり。
そうした中、印象に残るのがニマ・ベン・ダヴィドのヴィオラ・ダ・カンバ。この楽器が持つヴィヴィットさが、思い掛けなくユダヤの歌謡性と共鳴し。また、ニマのニュートラルな音楽性が、古楽という枠組みを越えて瑞々しい音楽を実現し、個性的な歌の後ろに控えながらも、アルバムにより鮮やかな色彩をもたらしていて、さり気なくも見事。それは、夏風が吹き抜けてゆくよう。

Yedid Nefesh
Meirav Ben David-Harel - Yaïr Harel, ...


最愛の伴侶よ、忘れてしまったのかい
ナニ・ナニ
彼は捕らわれてしまう
ねむれ、愛するわが子
この高貴な娘を引き立てたまえ
汝、隊商の歌をうたう者/おお岩よ、我らが楯よ
高い高い、お月さま
わが魂の愛する方
モーゼ
扉を開けて、いとしい人
わたしは黒く、美しい
ようこそ、私のいとしい人
私は知るだろう、そこで何を話すのか

メイラフ・ベン・ダヴィド・ハレル(ヴォーカル/パーカッション/シフォニ)
ヤイル・ハレル(ヴォーカル/タル/パーカッション)
ニマ・ベン・ダヴィド(ヴィオラ・ダ・ガンバ/ヴォーカル)
ミシェル・クロード(パーカッション)

Alpha/Alpha 511




"La Tarantella"、毒すらあおっての、南イタリアの濃密...

Alpha503
タランチュラに噛まれたら、タランテラを踊れ!という民間療法?そんなのありか?という、都市伝説のような話しをアルバムにしてしまったプルハル+ラルペッジャータ... メンデルスゾーンの4番の交響曲の終楽章に、ロッシーニのタランテラ・ナポリターナなど、クラシックでは定番のちょっとエスニックな南イタリアの舞曲、タランテラ尽くしのアルバム、"La Tarantella"。なのだけれど、クラシックの作品として加工される以前の、剥き出しの状態のタランテラをマニアックに集めての、タランテラ尽くしによる熱気が凄い。一方で、タランチュラの毒とタランテラを結び付ける大仰さというか、胡散臭さのようなものが、絶妙なチープさを生んでいて、独特の魅力も放つ。
で、このアルバムを特徴付ける、2人の歌手の存在... まず、イタリアのトラッドの歌い手、ガレアッツィの強烈な歌声!何かヒリヒリするような裏ぶれ感が、南イタリアの強い日差しを思わせて、クラシックの世界には存在しない強い個性に中てられつつも、引き込まれてしまう。そして、地声テノール、ビーズリー... この人ならではの突き抜けた歌声が、イタリアの鮮やかな空、海を思わせて、その鮮やかさで捉えられるイタリアの歌心は、得も言えない。で、この2人の歌声が対極を成しながらも、どちらも濃密にイタリアであるというおもしろさ。この2人の在り様に、様々な文明が融けたスープとしての「地中海」の味わい深さを見出し、ただただ圧倒されるばかり。
もちろん、プルハル+ラルペッジャータの演奏も圧巻!タランテラの熱狂的なリズムを見事に捉え、盛り上げつつ、毒を孕む?タランテラの熱狂的なあたりを濃厚に奏で切る。メンバーひとりひとりのすばらしいテクニックは、それぞれの楽器の音を徹底してクリアに響かせ、そのひとつひとつの音の美しさに聴き惚れてしまうのだけれど。そこに歌手陣の個性が加わると、グっとエモーショナルとなり、アンサンブルとして息衝き、また違ったものに聴こえて来るから不思議。これが、タランテラの毒だろうか?解毒としての踊りなのか、毒が回って踊らされているのか、分からなくなって来る感覚は、地中海に照る太陽による熱中症なのかも...

La Tarantella
L'Arpeggiata - Christina Pluhar


タランテッラ 「ラ・カルビネーゼ」
子守唄 「猫がザンボーニャを爪弾けば」
ナポリ風タランテッラ 〔ヒポドリア旋法による〕
ル・パッサリエリュ(カラスムギのタランテッラ)
物乞いたちの悲哀
ピッジーカ 「お月さん、お月さんよ」
ああ美しきかな、人生よ
ガルガーノのタランテッラ
わたしのビッジーカレッラ(タラント風ビッジーカ)
恋人たちの沈黙
カラブリアのタランテッラ
タランテッラによる子守唄 「夢見てねじれ、わが花の君」
イタリアのタランテッラ
ビッジーカ・ウッチ
葬送の哀歌 「あわれなアントヌッチオ」
タランチュラの解毒剤

ルッチラ・ガレアッツィ(ヴォーカル)
マルコ・ビーズリー(ヴォーカル)
アルフィオ・アンティーコ(ヴォーカル/カスタネット/タンブリン)
クリスティーナ・プルハル/ラルペッジャータ

Alpha/Alpha 503




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