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真夏の中世、『ロビンとマリオンの劇』。 [2005]

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いやはや、暑い日が続きます。
ということで、スルスルっと聴ける、軽めの音楽を... とはいえ、今回、取り上げる作品は、音楽史的には極めて重要な作品なのだけれど... オペラが誕生した16世紀末のフィレンツェ... そこからさらに時代を遡って、13世紀の後半、ナポリで上演された音楽劇... その後のジングシュピール、オペラ・コミック、オペレッタの先駆とも言える歌芝居、中世の音楽に特異な存在感を示す『ロビンとマリオンの劇』。その飄々とした音楽が、暑い最中には、何かいい感じ。ある意味、脱力系で、程好く陽気で、夏っぽく、久々に聴いて、ツボにはまる。
そんな、2005年にリリースされたアルバム... イタリアの古楽アンサンブル、ミクロロゴスが歌い奏でる、花咲ける中世を彩った、トルヴェール、アダン・ド・ラ・アルによる音楽劇、『ロビンとマリオンの劇』(Zig-Zag Territoires/ZZT 040602)を聴き直す。

実際の中世の音楽シーンというのは、きっと多様で、刺激的だったのだと思う。文化圏の境界が今とは異なり(イベリア半島の半分以上がイスラム圏で、フランス語圏はまだ成立しておらず、フランスは北と南で異なる言語が話されていた... )、境界というよりそれはグラデーションを描き、また重なり合い(ヴァイキングの末裔により建国されたシチリア王国では、地層のように重なるビザンツ文化、イスラム文化と共生し、地中海の東西を結ぶ文化センターとして繁栄を誇った... )、あるいは、十字軍の時代、東の文化が西へ大きな影響をもたらした史実を振り返れば、それは容易に想像ができる。が、今、中世の音楽として聴くことが可能な音楽は極めて限られたものとなっている。記譜が発達段階にあって、記録の少ない中世の音楽は、どうしてもその後の音楽と比べると、限られたものとなってしまう。その限られた範囲で描き出される中世の音楽像というのは、何か、大人しいイメージに押し込められているようで、漠然ともどかしさを覚える。そうしたところに、『ロビンとマリオンの劇』は、異彩を放つ!
静謐な修道院(例えば、ヒルデガルト・フォン・ビンゲン... )や、荘重な大聖堂(例えば、ノートルダム楽派... )のイメージが強い中世の音楽にあって、世俗的な音楽劇ということ自体、何か突出したものを感じてしまう。物語そのものは、パストラル、牧歌劇の伝統から逸脱することのない、若い農村のカップルに、騎士の邪魔が入るという定番にして他愛の無いもの... が、その他愛の無いあたりを、飄々と音楽にしているあたり、厳めしい中世像を見事に裏切ってくれて、新鮮!のっけから、突き抜けてあっけらかんとした音楽を繰り広げて、圧倒されさえする始まりのモテット... マショーの登場を目前としたアルス・アンティクアの時代を代表する作曲家のひとり、アダン・ド・ラ・アルではあるけれど、マショーのような見事にポリフォニックに展開されるモテットの、気持ち良いくらいにばらけた各声部が、パチンパチンと弾ける感覚は、何だか爽快!そこから、多声、単声を巧みに使い分けて、中世のひと癖ある様々な楽器に彩られて展開する物語の魅力的なこと!クラシックというイメージが完成するずっと昔の、「中世」という不思議さにドギマギしつつ、フォークロワを思わせる素朴さに潜む鮮烈な表情、思わず脱力してしまうようなユルさ、一緒に歌えそうなキャッチーさ、時折、漂う、オリエンタルな匂いにゾクっとしつつ、どこかカラっとしたメロディ、サウンドにただならず惹き込まれる。そこには、「暗黒の時代」なんていう中世のステレオタイプはまったく存在しない。いや、中世は多様だったのだ... ということを再認識させられる多彩さを放ち、静謐な修道院や、荘重な大聖堂ばかりでなかった、息衝く中世の音楽が詰まった『ロビンとマリオンの劇』は、眩しくすらある。
そんな中世の音楽を、また見事に歌い奏でたアンサンブル・ミクロロゴス!ひとつひとつのナンバーを丁寧に取り上げつつ、迷い無く竹を割ったように一音一音を響かせる圧巻の歌であり演奏... 久々に聴いてみれば、その揺ぎ無さとパリっとした仕上がりにただただ魅了されてしまう。一瞬たりとも湿気ったところがなく、声にしろ、楽器にしろ、それぞれにキャラクターが立ち、鮮やか!そこに生まれる圧倒的な解放感!「クラシック」であることはもちろん、古楽云々、気難しさは消え去り、シンプルに魅力的な音楽が追求されるかのよう。だから、本当に魅力的... 下手にアルカイックになるでもなく、ノスタルジックになるでもなく、堂々と21世紀に鳴り響く... これが中世の原色の姿なのかもしれない... そうして蘇った中世の音楽劇の輝き!この輝きが、何とも言えず、夏!何だろうこの感覚... 楽しかった夏の記憶を擽られるような、ちょっとセンチメンタルも滲んで、うわっと、夜祭りや、花火大会みたいに、聴く者を包んでしまう。盛り上げてしまう。

Adam de la Halle ・ Le Jeu de Robin et Marion ・ Ensemble Micrologus

アダン・ド・ラ・アル : 『ロビンとマリオンの劇』

アンサンブル・ミクロロゴス

Zig-Zag Territoires/ZZT 040602




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