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サロネン・イン・ロサンジェルス。 [2005]

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さて、『創世記組曲』(NAXOS/8.559442)の話しが続くのだけれど...
この組曲を聴き終えての不思議な余韻が気になっている。『創世記組曲』は、第2次世界大戦の終盤、企画され、それぞれの作曲家に委嘱され、1945年、終戦、間もなくロサンジェルスで初演された。が、ナチスの恐怖や、第2次世界大戦の惨禍の影があまり感じられない。というより、何とも言えない、フワっとした気分が漂う。これは何だろう?と考えて、ふと思い付いたのが、オプティミスティックなカリフォルニアの気分?『創世記組曲』の作曲家たちは、企画者を除いてみなヨーロッパ出身。さらには、ストラヴィンスキーを除いて、みなユダヤ系。なのだけれど、その当時、みなカリフォルニアに住んでいた。興味深いことに、ビバリーヒルズなどには、第2次世界大戦を避けて、クラシックの一流どころが集まっていた。つまり、映画スターたちのご近所に、クラシックの中心が存在した?!今からすると、もの凄く奇妙に思えるのだけれど。『創世記組曲』には、歴史と伝統の地、ヨーロッパとはまったく異なる、カリフォルニアという場所が作用していたように思う。それは、ウェスト・コースト・サウンド?
『創世記組曲』から半世紀ほど時代を下って、1992年、フィンランドからエサ・ペッカ・サロネンがカリフォルニアにやって来る。L.A.フィルの音楽監督に就任するために。そして、作曲家としても知られるマエストロ。やはり、その作品にもまた、カリフォルニアは作用したか?そんな、ロサンジェルス時代(1992-2009)のサロネンを振り返る。2005年にリリースされた、フィンランド放送交響楽団を指揮しての自作自演集(Deutsche Grammophon/477 5375)を聴き直す。

10年も前の話しになるのだけれど... 2002年の年末、サントリーホール国際作曲委嘱シリーズに登場したサロネン。作曲家としてのサロネンを聴ける!と興味津々で足を運んだ。そして、その時、聴いた、フォーリン・ボディーズが鮮烈な印象として残っている。何てカッコいい曲なんだ!現代音楽で、あんなにエキサイティングなオーケストラ・サウンドを聴けるなんて!それは、ジョン・アダムズ(b.1947)を思わせるような、ポスト・ミニマルな音楽で、難解さが管を巻くような"ゲンダイオンガク"ではけしてなかった。そのフォーリン・ボディーズがとうとうCDになる!と、ただならずテンションが上がってしまったこの自作自演集。
始まりは、フォーリン・ボディーズ(track.1-3)。で、サントリーホールで聴いたあの時の印象とは少し違うものがある。鮮烈な印象は薄れて、あの時の興奮は蘇らない。こんなものだったか?と、少し戸惑いすら感じる。難解ではない現代音楽が珍しくなくなった今、ジョン・アダムズばかりでないポスト・ミニマルは、インパクトに欠ける帰来もあるのか?一方で、録音だからこそ、丁寧に聴くことができ、気分や勢いばかりでない、フォーリン・ボディーズのおもしろさにも気付く。それは、指揮者、サロネンの、近現代音楽のスペシャリストなればこその、様々な作品を振って来て生み出される感覚だろうか?これまでサロネンが録音し、評判となった数々のアルバムの片鱗が見えて来るようで、おもしろい。例えばバルトーク(SONY CLASSICAL/SK 62598)やレブエルタス(SONY CLASSICAL/SK 60676)、あるいはバーナード・ハーマン(SONY CLASSICAL/SK 62700)など、20世紀的なエリート主義とは一線を画す、独特な世界観を紡ぎ出した音楽にインスパイアされているようで... 何より、そういう音楽が好きなのだろうな... というのが伝わって来て... 好きな音楽をおもちゃ箱に詰め込みつつ、生来の明晰さで器用にまとめ上げる。そうして、はばかることなくカッコいい音楽を創り出す!こういう現代っ子感覚、サロネンにもあったかと、今、改めて聴いてみて、妙に親近感が湧いてしまった、フォーリン・ボディーズ。
一転、2曲目のウィング・オン・ウィング(track.4)は、動から静へ... ブライアーズ(b.1943)っぽいアンビエントさに包まれて、フォーリン・ボディーズとはまた違った難解ではない現代音楽を聴かせてくれる。作品は、L.A.フィルの本拠地、ウォルト・ディズニー・コンサート・ホールのオープン(2003)を記念して書かれた(初演は、柿落としの翌年... )もので、この建物を設計した、鬼才、フランク・ゲーリーならではのうねるフォルム(ジャケットに写っているのがその一部... )にインスパイアされた音楽とのこと。が、サロネンはそれをうねりとは受け取らず、より具体的なイメージとして、風を孕んだヨットの帆を思い描いたらしい... そうしたあたりが、アンビエントな方向へと向かわせたか?まるで、宇宙を舞台としたSF映画(タルコフスキーじゃなくて、ソダーバーグの『ソラリス』とか... )を見るような感覚があって、ある意味、とてもロサンジェルスっぽく思える。そして、3曲目、インソムニア(track.5)。やっぱり、映画が思い浮かんでしまう... アル・パチーノが主演したスリラー、その名もズバリ、『インソムニア』(2002)。不眠症が招く、虚と実があやふやになって行く恐怖... そんな物語が思い出されて、映像を感じさせる音楽。ロサンジェルスという先入観がそうさせるのだろうか?いや、やっぱり映画音楽的だと思う。
さて、演奏は、L.A.フィルではなくフィンランド放送響。これが、L.A.フィルだったらどうだろう?という思いが過る。もちろん、フィンランド放送響の演奏も、すばらしい。特に、インソムニア(track.5)などは、北欧の、瑞々しくも仄暗い気分がしっくりと来ていて、サントリーホールでのN響による世界初演の時よりも魅力的。一方で、フォーリン・ボディーズ(track.1-3)は、もっと感覚的であっても良かったように感じる。サントリーホールでのN響の日本初演を振り返ると、よりアグレッシヴでスポーティーですらあった感覚が、多少、重くなってしまったような... もちろん、サロネンがそれを望んだのだろうけれど... カリフォルニア時代のサロネンのウェスト・コースト・サウンドは、L.A.フィルだったなら、また違った魅力を放ったはず...

SALONEN: FOREIGN BODIES ・ WING ON WING ・ INSOMNIA
FINNISH RADIO SYMPHONY ORCHESTRA ・ SALONEN


サロネン : フォーリン・ボディーズ 〔管弦楽のための〕
サロネン : ウィング・オン・ウィング *
サロネン : インソムニア 〔管弦楽のための〕

エサ・ペッカ・サロネン/フィンランド放送交響楽団
アナ・コムシ(ソプラノ) *
ピア・コムシ(ソプラノ) *

Deutsche Grammophon/477 5375




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