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アメリカン・ウルトラモダニストの、ポエティック... [2005]

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爆発的に多様化、多極化の一途を辿った20世紀、音楽史...
ではあるのだけれど、やっぱりどこかで伝統の地、西欧を軸に見つめてしまう癖があるのかもしれない。だからか、西欧の外にある音楽を丁寧に見つめることは少なかったのかもしれない。ふと、そんなことを思ったのは、20世紀、両大戦間のアメリカの音楽を聴いて... いや、知らないことが多々ある、20世紀、アメリカの音楽史。それは、不勉強ゆえなのだけれど。これまで、ガーシュウィン(シンフォニック・ジャズ)、コープランド(モダニスト)、ケージ(「前衛」)くらいで、漠然とその流れを捉えた気でいたのだなと思い知らされた。そして、より広がりを以って見つめる20世紀、アメリカの音楽史の興味深さたるや... 今さらながらに、おもしろい!
ということで、ショスタコーヴィチを聴いた後で、東から西へ思いっきり振れてのアメリカ... 2005年にリリースされた、ドイツの鬼才、シュテッフェン・シュライエルマッハーが弾く、"American Ultramodernists 1920-1950"(MDG/613 1265-2)を聴き直す。

"American Ultramodernists 1920-1950"、ウルトラモダニスト?!
モダンが"ウルトラ"な状態って、どんだけなんだよ... という興味から手に取った1枚。『バレエ・メカニーク』(1926)とか、ナンカロウ(1912-97)とか、そういうキテレツなサウンドを期待していたのだけれど、意外と大人しかった... という8年前の印象は、もうすでにおぼろげで、改めて聴かないと、どんな音楽だったかも思い出せない状態。ということで、聴き直す。で、いつものパターン... 8年前とは違う、新たな視界が広がって、驚かされることに... そんな、"American Ultramodernists 1920-1950"。文化、経済、産業、あらゆる点で、アメリカが大きく飛躍した頃、狂騒の20年代... ヨーロッパの伝統に対抗し、実験的な音楽を繰り広げ、またそれがウケてしまって大いに注目を集めた「ウルトラモダニスト」と呼ばれた作曲家たち... カール・ラッグルス(1876-1971)、ヘンリー・カウエル(1897-1965)、デーン・ルディア(1895-1985)、ルース・クロフォード(1901-53)という4人の作品を取り上げる。それは、ケージ(1912-92)らが、アメリカから世界に向けて衝撃を与える前段階の世代で、カウエルならば何とかわかるのだけれど、他はわからない... というのが、正直なところ... いや、それほどに、20世紀、アメリカの音楽史、知らないことが多々あるのだなと、今さらながらに思い知らされる1枚となった。
ということで、ふらりと図書館へ立ち寄り、音楽史の本をいくつか借りて来る。で、アメリカの近代音楽について、パラパラっと目を通してみた。で、それは、想像以上に多様。かつ、ヨーロッパの亜流では終わらない個性に、今さらながら興味津々!また、それらは、良い意味で歴史に縛られておらず、ヨーロッパには無いドライな感覚が漂うのか。ガーシュウィン(1898-1937)の国際的なブレイクに隠れてしまっている、より広いアメリカの音楽の風景は、やたら新鮮で、魅力的に映る。そこに、ウルトラモダニストたち。どうやら、ヴァレーズ(1883-1965)がその中心にいたようで... この"アメリカのフランス人"が道標となって、アメリカにおける"ウルトラ"なモダンは、大いにイメージし易くなる。ヨーロッパの新しい潮流に刺激を受けつつ、より実験的で、時折、オカルティック?
1曲目、ルディア(この人も、実は"アメリカのフランス人"... )による、テトラグラム(神聖四字)、第8番、「プリマヴェーラ」(track.1-4)は、その仰々しいタイトルからして、もう、かなりイってしまっているのだけれど、占星術師としても有名だというから納得... で、スクリャービンの色合いを感じさせる神秘的なサウンドに、まさに占星術師を見出しつつ。これまた占星術的と言うべきか、天体の運行を思わせる淡々とした無機質さが、ヨーロッパの象徴主義とは一味違って、モダニズムとも重なり、おもしろい。そして、最も印象に残るのが、女性作曲家、クロフォードの前奏曲集(track.5-13)。後に夫となる、シーガー(1886-1979)の不協和的対位法を用い、抑制的な響きの中に、制御された感覚が漂う、独特の無調の世界が描き出される。で、新ウィーン楽派にも影響を受けたとのことだが、彼女が生み出す抽象性は、熟れ過ぎたロマン主義としての新ウィーン楽派とは違う、過去が存在しないよりピュアな緊張感を孕み。やがて席巻することになる、ケージ(1912-92)や、フェルドマン(1926-87)を予兆する、余白、余韻が現れていて、魅惑的。それがまた思い掛けなくポエティックでもあって、素敵!
そんな抽象的なポエティックさが続いた後で、目の覚めるような風景が現れる... カウエルの富士山の雪(track.21)。モダニズムの新たな糸口として、東洋への好奇心を募らせ、後に日本にも訪れたカウエル(1957)だが、フワっと、雲間から頭を覗かせる富士山の姿が目に浮かぶような、そんな瑞々しい音楽を聴かせてくれる。ま、若干、中華風が混ざるところもあるのだけれど、ご愛嬌かなと... そういう、多少、ブレもある、西洋の持つ東アジア像が、どこか、ドビュッシーの東洋趣味に通じるようなところもあって、スーベニールかつ、アンティークな絵葉書のお洒落感?そのノスタルジックな雰囲気は、悪くない。何より、富士山の曲があることがすばらしい... 祝、世界遺産登録!ではないけれど、もっと知られても良いように感じる小品かなと。
そして、ウルトラモダニストたちを蘇らせた、シュライエルマッハー。クラシック切ってのマニアック。この人でなくてはあり得ない切り口。が、そこには間違いなく魅力的な音楽世界が広がっていて... そうした作品を丁寧に捉えつつ、作品の持つ響きの色をよりヴィヴィットに聴かせるタッチ!一音一音の鮮やかさ、程好い重量感が、アメリカのモダニズムに、何か、コクのようなものを加える?で、それは、ある種のヨーロッパ?屈託の無いはずのアメリカのモダニズムが、伝統のドイツのピアニズムで紡がれることで、単なるモダニズムでない、その"ウルトラ"なあたりが際立たされ、より興味深いものとなるよう。

American Ultramodernists 1920-1950

デーン・ルディア : テトラグラム 第8番 「プリマヴェーラ」
ルース・クロフォード : 前奏曲集
カール・ラッグルス : 天使たち
カール・ラッグルス : エヴォケイションズ
カール・ラッグルス : オルガヌム
ヘンリー・カウエル : ピアノのための小品
ヘンリー・カウエル : 富士山の雪
ヘンリー・カウエル : ルディアへのオマージュ
ヘンリー・カウエル : 命の竪琴

シュテッフェン・シュライエルマッハー(ピアノ)

MDG/613 1265-2




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