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黒いロシア... リュビモフが弾く、黒いミサ。 [2005]

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さて、ソチ・オリンピックまで、200日を切りました。
暑い最中に冬のオリンピックの話しも何ですが、いや、少しは涼しくなるかな?なんて... それにしても、ロシアでの冬のオリンピックは初めてという、ソチ。とにかく雪やら氷やらのイメージが強いロシアだけに、かなり意外だったのだけれど、どんなオリンピックになるのか、何だかんだで、楽しみ。何より、冬のオリンピックの競技の、白い背景が大好きだったりする。競技のみならず、その風景がすばらい!アルペン・スキーの「白」のスリル、スキー・ジャンプの「白」の雄大、スケート・リンクの「白」の緊張感、目にも詩的な冬のオリンピック。
その一方で、近頃のロシアのイメージは、何か"ブラック"。一種、独特のキナ臭さが常に漂っていて、大統領の押しの強さでは済まされない"ブラック"感。いや、歴史を振り返れば、現在の比では無く、真っ黒だったソヴィエトが存在していたわけで... ユートピアを謳いながら"ブラック"という恐怖... もちろん、その色は"ブラック"ではなく、真っ赤... 肌の色に捉われない、全人類共通の血の色... という本来の高潔な意味よりも、やっぱりこう、漆黒の背景があって、たっぷりと流された血の史実を象徴する赤だったのだろうなと...
そんな、20世紀、ロシアの黒歴史の周辺で産み落とされた音楽を聴いてみようかなと。2005年にリリースされた、ロシアの鬼才、アレクセイ・リュビモフの弾く、ロシア―ソヴィエトを巡るピアノ作品集、"Messa Noire"(ECM NEW SERIES/465 1372)を聴き直す。

えーっ、ひと様の国を、黒い黒いと言うのも、随分と失礼な話しでして... 書いておきながら、何だかなぁー、とも思うわけであります。が、改めて「黒」という色を見つめると、けしてネガティヴなものばかりではないようにも感じる。情緒的に「黒」という色を捉えるならば、他の色にはない、より深い世界が広がるようにも思えて来る。政治はさて置き、ロシアの文化には、そういう深い「黒」の存在を感じることがある。単なる暗さとは違う、時に温かみすら生むような、不思議な黒さ。そんな「黒」をピアノの音から滲ませ、20世紀、ロシア―ソヴィエトのピアノ作品を綴ったリュビモフ。そのタイトルがまた象徴的で、"Messa Noire"、黒ミサ...
ストラヴィンスキーのイ調のセレナーデ(track.1-4)に始まり、ショスタコーヴィチの2番のピアノ・ソナタ(track.5-7)、プロコフィエフの7番のピアノ・ソナタ(track.8-10)、そして、アルバムのタイトルとなったスクリャービンの9番のピアノ・ソナタ、「黒ミサ」(track.11)と、ロシアを彩る異才たちによる4作品をバランス良く並べた1枚。革命前夜となる1913年のスクリャービンが象徴主義、パリでブレイクしての1925年、ストラヴィンスキーが擬古典主義、そして、第二次世界大戦中、戦時下の厳しさの只中にあった1943年、プロコフィエフはロシア・アヴァンギャルド、ショスタコーヴィチは社会主義リアリズム... 年代、場所、状況、スタイル、それぞれに異なり、それぞれの個性を見せる4作品となるわけだけれど、リュビモフは、この4作品を独特の「黒」のトーンで包み、モダニズムに覆われた20世紀のドライな空気感とは一味違う、より深いロシアの味わいを響かせる。
まず、ストラヴィンスキーのイ調のセレナーデ(track.1-4)... 擬古典主義らしい明快であっけらかんとした音楽に、何か、ずしりとした「黒」を盛り込んで、ジワっと、ストラヴィンスキーのルーツたるロシアのプリミティヴさを滲ませるのか。早速、鬼才、リュビモフのペースに引き摺り込まれる。そこに、ショスタコーヴィチの2番のピアノ・ソナタ(track.5-7)... これが社会主義リアリズムの温度感なのだろう、どこか冷え冷えとしたシベリアの風景が目に浮かびそうなその音楽にも、温度を感じさせる「黒」を持ち込むリュビモフ。すると、荒涼とした風景は、少しおどろおどろしい風景に置き換わって、これまでの印象は少し変わる。そして、切れ味鋭いロシア・アヴァンギャルドを展開するプロコフィエフの7番のピアノ・ソナタ(track.8-10)。この作品の魅力たる怜悧さを少し抑えて、モダニズムの輝きの後ろにある闇を見せるようであり... また、スローな2楽章(track.9)では、「黒」が甘やかな香りを放ち、革命前のゆったりとした気分が蘇り、たっぷりとノスタルジックに響かせて印象的。そうして、スクリャービンの「黒ミサ」(track.11)へと辿り着く"Messa Noire"。それは、まるでミステリーの謎解きのように最後に奏でられ、それこそ魔法使いがその後のロシアに呪いを掛けるようなマジカルさがあって、おもしろい。本来なら、それぞれに尖がって響くはずの音楽が、魔法により巧みに結ばれて、黒いロシアの物語を描き出すような感覚があり、4人の個性を越えた、"Messa Noire"というアルバムそのものに魅了される。
そんなアルバムを織り成したリュビモフの存在が、何か魔法使いっぽい... そのタッチ、見事にクリアなのだけれど、残響で煙に巻くようなところもあって... 何より、一音一音が重みを増していて、モダニズムのスタイリッシュさとは違う、イニシエから人知れず続く、人知の及ばないロシアの底知れなさのようなものが、20世紀の4作品から沁み出して来るよう。いや、20世紀の作品にして、そういう底知れなさを呼び込むことこそが、黒ミサ的?20世紀の輝きではなく、闇を捉え、そこに黒い詩情を湛えた"Messa Noire"。聴き込むほど、そこに広がる希有な音楽性に、眩惑され、聴き入るばかり。

ALEXEI LUBIMOV MESSE NOIRE
STRAVINSKY / SHOSTAKOVICH / PROKOFIEV / SCRIABIN


ストラヴィンスキー : イ調のセレナーデ
ショスタコーヴィチ : ピアノ・ソナタ 第2番 ロ短調 Op.61
プロコフィエフ : ピアノ・ソナタ 第7番 変ロ長調 Op.83
スクリャービン : ピアノ・ソナタ 第9番 「黒ミサ」 Op.68

アレクセイ・リュビモフ(ピアノ)

ECM NEW SERIES/465 1372




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