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"In a landscape" [2005]

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思い掛けなく、さらにさらに音楽史を下っております。
ロマン主義を後にして、ウルトラ・ロマンティックから無調へ、12音技法へ、総音列音楽へ... さらには、制御された偶然性... 振り返ってみると、20世紀という世紀は、音楽史においてただならない状況を生み出していたのだなと、つくづく思う。近代音楽が堰を切ったように溢れ出し、それまでの伝統やら何やらを押し流し... いや、下手すると、「音楽」という概念すら押し流していたのかも... まさに、それは、大洪水... そして、その大洪水に、やがて、アメリカから、大きな波紋が広がる。その波紋の広がりは、"ゲンダイオンガク"を主導したヨーロッパを揺らし、芸術そのものを揺るがし、もはや音楽に留まらない"ゲンダイオンガク"を生み出す。
それが、アメリカの「前衛」の旗手、ジョン・ケージ。2005年にリリースされた、現代音楽のスペシャリスト、ヘルベルト・ヘンクが弾く、ケージの初期ピアノ作品集(ECM NEW SERIES/476 1515)。かのブーレーズすら揺さぶった存在を、ブーレーズに続いて聴き直す。

フランスのブーレーズ(b.1925)、アメリカのケージ(1912-92)。20世紀後半の音楽を、大西洋の両端で担った両巨頭... 最初は交流もあったが、ケージの「偶然性」の発明により、決裂。徹底してシステマティックな音楽を構築した総音列音楽からすれば、「偶然性」なんてものは、随分とふざけたものに映ったかもしれない。ブーレーズからしたら、お前、喧嘩売ってんのか?!だったのだろう。が、ケージの偶然性を無視できなくなったブーレーズは、やがて制御された偶然性へ... もう、こうなって来ると、こどもの喧嘩... 徹底制御を打ち破った偶然性をさらに制御しようってんだから... いや、もちろん、それは、きちんとした音楽的成果を生み、"ゲンダイオンガク"を前進させたわけだけれど。こういう、喧嘩上等的、「前衛」のポール・ポジション争いみたいなのが、間違いなく、音楽をおもしろい方向へと導いて行ったのだなと、21世紀の今から見つめると、感慨も...
そんな両者の音楽... ブーレーズを聴いた後で、ケージを聴いてみると、その何とも言えない"間"に、フっと一息つける。それだけ、ブーレーズの音楽というのは、余人の入り込む隙の無いほど、徹底して構築されているのだろう。で、ケージを聴いて、再びブーレーズに戻ってみると、今度は、ヨーロッパの音楽史の長さと重みを感じさせる、ただならない洗練に、息を呑む。そして、フランス人ならではの感性というのか、音色が持つ色彩感の繊細で鋭敏な感覚に圧倒される... ケージでは到達し得ない境地がある。だからこそ、ケージは、東洋思想へと傾き、ヨーロッパには生み出し得ない"間"を、自身の芸術の中に生み出して行ったのだろう。ヘンクによる初期ピアノ作品集、1曲目、『四季』(track.1-9)が映す情景は、まるで水墨画で描いた日本の風景のよう(マース・カニングハムのためのダンスの音楽で、イサム・ノグチが美術を手掛けた... )。オーケストラで演奏される方が一般的なのかもしれないけれど、ここではもちろんピアノ... で、ピアノの、ひとつの楽器なればこその単色感が、墨の濃淡を思わせて。また、ひとつの楽器なればこそ"間"は際立ち。描き込まれていない余白に、イマジネーションは広がり、残響はもちろん、無音の状態にも、某かの音を鳴らしてしまうような不思議さが、より印象的に響かせる。
続く、メタモルフォシス(track.10-14)は、ケージがまだ音列に留まっていた頃の作品。その、しっかりと中身の詰まったあたりが、ちょっと微笑ましくさえあって、おもしろい。その後で、ケージ作品中、最も美しいだろう"In a landscape"(track.15)... それはまさに風景!で、得も言えぬアンビエントさ!久々に聴くと、その瑞々しさに圧倒される... 初期ピアノ作品。となると、長いケージの創作活動を振り返れば、とても狭い範囲を指すようだけれど、取り上げられた作品は、それぞれに個性的。30年代の音列を用いた作品に、40年代の東洋的な空気が流れる作品。スタイルを模索する過程にあって、興味深い性格の幅を見せる。また、ヘンクのチョイスも絶妙で、30年代と40年代が交替し、アルバム自体にリズムがつけられる感覚も。そうして、「難解」なだけでない、ケージの素の魅力をさらりと引き出していて。そのセンスの良さは、まさにECM的だなと...
しかし、何と言ってもヘンクのピアノ!ひとつひとつの作品の性格に、そっと寄り添い、それぞれが持つトーンを丁寧に響かせる。そうして広がる、ケージ作品が持つポエジー... 現代音楽のスペシャリスト、というだけではない、豊かな音楽性は、シンプルな音楽に味わいを籠めて。また、シンプルな音楽だからこそ、ヘンクの音楽性は際立ち、ケージのみならず、ヘンクにも魅了される1枚。

JOHN CAGE EARLY PIANO MUSIC
HERBERT HENCK


ケージ : 四季
ケージ : メタモルフォシス
ケージ : In a landscape
ケージ : オフェーリア
ケージ : ピアノのための2つの小品(ca.1935/rev 1974)
ケージ : クエスト
ケージ : ピアノのための2つの小品(1946)

ヘルベルト・ヘンク(ピアノ)

ECM NEW SERIES/476 1515




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