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総音列音楽。が、ワカラナイ。 [2005]

無調まで来ました。フンメルが遥か遠くに感じられる...
もう、こうなったら、突き進むしかない!ということで、ウェーベルンのこどもたちによる、総音列音楽。正直に申しますと、よくわかっておりません。こういうあたりが、まさしく"ゲンダイオンガク"なのだろうなと... 聴く以前に、その理論に付いて行けない。よって、ワカラナイ。で、それが音楽なのか?となるのだけれど、21世紀から、その"ワカラナイ"を振り返ると、かえって媚びない姿勢が興味深くも思えて。戦後、12音技法の遺産を受け継いだ、新たな音楽の担い手たちによる、音楽のための音楽理論研究室。そのハイレベルかつ閉じた場所に入ることは、ちょっと無理そうなので、そこから響いて来るものだけを、壁越しに聴いてみようかなと。
ということで、"ゲンダイオンガク"のアイコン、総音列音楽を象徴する存在、ピエール・ブーレーズ(b.1925)。その80歳を記念して、2005年にリリースされた、2タイトル... 自らが創設した、現代音楽専門家集団、アンサンブル・アンテルコンタンポランを指揮しての、代表作、『ル・マルトー・サン・メートル』(Deutsche Grammophon/477 5327)と、ブーレーズの推薦による... パーヴァリ・ユンパネンのピアノで、3つのピアノ・ソナタ(Deutsche Grammophon/477 5328)を聴き直す。


『ル・マルトー・サン・メートル』。が、ワカラナイ。

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ブーレーズの名前を、一躍、国際的なものとした『ル・マルトー・サン・メートル(主なき槌)』(1955)。80歳の記念リリースの前に、還暦コンサート(1985)のライヴ盤を引っ張り出して来て、その解説を読む... それは、図や表を用いて、丁寧に書かれているのだけれど、図や表を用いて、丁寧に読み解かないと、作品の本質に到達し得ない複雑さに、じぇじぇじぇ... となる。そもそも、おら、総音列の段階でついていけてねー(って、海女のアキちゃん風に... 現代音楽の、万年あまちゃんです... 汗)。となったら、もう聴くしかない。シュルレアリスムの詩人、ルネ・シャールの詩集をベースに、シェーンベルクの『月に憑かれたピエロ』にインスパイアされて作曲された、アルトと、6つの楽器による、『ル・マルトー・サン・メートル』(track.1-9)。
まず、音列音楽なればこその、パラパラとした感覚が、たっぷりとロマン主義を聴いて来た耳には、心地良いのかも。一方で、総音列を極め切って、システマティックになり過ぎたところから、もう一度、音楽的な慣性を取り戻そうとして生まれた『ル・マルトー・サン・メートル』。アルトが歌い出す(track.3)と、新ウィーン楽派的な艶やかさが漂って、ノスタルジック。いや、音列音楽自体が、今やノスタルジーの範疇だと思うのだけれど、久々に聴くと、その感触は独特。甘いんだかしょっぱいんだか、わかんね(何だか"まめぶ"みたいな曲だなぁ... )。けど、そこがいい!"ゲンダイオンガク"は、すっかり現代ではなくなったあたりから、おもしろくなるような気がする。何しろ、『ル・マルトー・サン・メートル』は、半世紀以上も前の作品。その存在について、生々しく、議論、研究していた段階はとうに過ぎて、ただ、そこから生まれて来るサウンドを、そのまま触れてみることができるのだと思う。そして、まさしくシュールな、飄々とした不思議さに、ギャグめいたものすら感じたりで、おもしろい。
一転、1980年代の作品となるデリーヴ1(track.10)、デリーヴ2(track.11)が続くのだけれど、そこには、もはや「前衛」の時代が過去となっての、ある種の"現代的"なスタイリッシュさが広がる。ミニマル・ミュージックの時代を経験してのパルス?だろうか、その点描的なサウンドのシャワーは、クール!そして、独特の編成が生み出す色彩感。こういうあたりは、フランスの作曲家なればこそのセンスが光る... また、そこから、音楽的な盛り上がりが引き出されて、デリーヴ2(track.11)のフィナーレへ向けて、アンサンブルが熱を帯びてゆく様は、総音列音楽のドライで冷たい感覚はすっかり失せて、カッコ良ささえ見せる!
"ゲンダイオンガク"だって、魅了して来るものは間違いなくある... そう思わせてくれる、すばらしいパフォーマンスもまたあって... 今さらではあるのだけれど、やっぱり凄い!並みの腕利き揃いではない、現代音楽のスーパー専門家集団、アンサンブル・アンテルコンタンポラン。難曲だろうが何だろうが、きちっと向き合って、どんなサウンドに対しても、しっかりとした答えを導き出す。その揺ぎ無い確かさが、ある意味、どんなに難解であっても、聴き手に、おもしろい!と思わせる説得力を持たせてしまう。で、おもしろかった!久々に聴いてみると、頭をシャキっとさせてくれるような、効果も、

BOULEZ: LE MARTEAU SANS MAÎTRE ・ DÉRIVE 1 & 2
ENSEMBLE INTERCONTEMPORAIN ・ BOULEZ


ブーレーズ : 『ル・マルトー・サン・メートル』 *
ブーレーズ : デリーヴ 1
ブーレーズ : デリーヴ 2

ピエール・ブーレーズ/アンサンブル・アンテルコンタンポラン
ヒラリー・サマーズ(メッゾ・ソプラノ) *

Deutsche Grammophon/477 5327




12音技法―総音列音楽―制御された偶然性、が、ワカラナイ。

4775328
さて、頭がシャキっとして、改めて総音列音楽とは?と、考えてみる。
7つの白鍵と、5つの黒鍵... 音階を成す12の音を均等に扱うという、それまでの音楽にはあり得なかった作曲方法を用いる音列音楽... で、音楽は成り立つのだろうか?成り立たせてしまうのが12音技法。だから、こどもがピアノをいたずらしているかのように、パラパラと音が散らばった、奇妙な音楽が繰り広げられる。さらに、音高のみならず、強弱なども、数理的にコントロールして、究極の形に至ったのが、総音列音楽/トータル・セリエル。という、基礎的なことを踏まえて、改めて聴いてみる、ブーレーズの3つのピアノ・ソナタ。
1番のソナタ(track.1, 2)は、ウェーベルンの死(1945)から間もない、第二次世界大戦、終戦の翌年、1946年の作品。で、見事な12音技法による作品。ウェーベルンからの遺産を継承し、戦後の新たな時代を真正面から切り拓く、挑戦的な「真新しさ」を今を以ってしても感じさせる、切っ先の鋭い音楽が展開される。一方で、12音技法により、それまでの音楽の伝統を打ち砕いて、響く、散らばった音の破片には、独特のロマンティックさが漂ってもいて... 破壊の美学?旋律を立ち切られて生まれたひとつひとつの音符の「間」に滲む、余韻のポエジーというのか、味わいをもたらしていて、おもしろい。続く、2番のソナタ(track.3-6)は、1番の2年後、1948年、総音列音楽へと至っての、究極的な音楽の形を見せてくれる。ある意味、より濃密?散らばっていることよりも、様々な音によってひとつの空間が埋められるような、威圧感が、興味深い。一方で、折り目正しい4楽章構成のおもしろさ。総音列音楽でありながら、それぞれの楽章の性格付けの伝統的なあたりが、何だか微笑ましい。
そして、3番のソナタ(track.7-16)... あまりにシステマティックとなった総音列音楽に対する、ケージ(1912-92)による偶然性というアンチテーゼを受けて、「制御された偶然性」を用い、1958年に完成された作品。と、なると、もう、どーゆーこと?というリアクションしか出て来ない。いや、このアンビバレントさが、実は、たまらなく好き!偶然が制御できてしまうというのは、何か、カッケー... そういう力技を可能としてしまうのが、ブーレーズか... しかし、その音楽は、その"偶然性"な部分、ピアニストによって変わるだろう揺らぎの部分が作用して、幾分、緩い印象を受ける。とはいえ、結局、一期一会であって、ここで感じる印象というのは、ピアノを弾く、ユンパネンによるところも十分にあるはず。そもそも、正解は存在し得ない、「制御された偶然性」というわけだ。
さて、改めてユンパネンの弾く3つのピアノ・ソナタを聴いて感じたのが、音列音楽だからこそ、ピアノという楽器の個性が際立つこと。いわゆる"音楽"と距離を取る、剥き出しの音符の連なりだからこそ、ピアノの響きというものが、普段以上にクローズアップされてしまって、新鮮?そうして、クラシックを象徴するピアノというマシーンの、ロマンティックな色合いに、はっとさせられる。またそこには、ユンパネンが持つトーンもあるのかもしれない。難曲であっても、さらりと弾き切る、ブーレーズが信頼を寄せた確かなテクニックがありつつも、ドライな作品からもうひとつ深い音楽世界を拓くような、イマジネーションの広がりを見せ。難解であっても、薫り立つピアノの響きを駆って、もうひとつの美しい音楽の在り様を見せてくれる。

BOULEZ: THE THREE PIANO SONATAS
PAAVALI JUMPPANEN


ブーレーズ : ピアノ・ソナタ 第1番
ブーレーズ : ピアノ・ソナタ 第2番
ブーレーズ : ピアノ・ソナタ 第3番

パーヴァリ・ユンパネン(ピアノ)

Deutsche Grammophon/477 5328




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