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無調へと至る、新ウィーン楽派。弦楽四重奏で追う、5年間の軌跡。 [2005]

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さて、ロマン主義から、どう離脱しようか?
ひと月近くも、ロマン主義を聴き続けて来ると、何だか、依存症みたいになって来る。やっぱり、ロマン主義の音楽というのは聴き易いのかもしれない。クラシックの人気レパートリーが集中するのも頷ける。振り返ってみれば、ロマン主義の時代ほど、サービス精神に溢れた時代は無いようにも思う。旋律はよりメロディックに歌い上げられ、サウンドはますます充実して、音楽の、"音楽"としての成分が、最も高かった時代なのかもしれない。で、その後はどうなったか?ロマン主義のポストリュードとしての新ウィーン楽派... で、離脱を試みる。
ということで、ロマン主義の末期症状から無調に至る、12音技法の発明前夜まで... 2005年にリリースされた、マンフレッド四重奏団の、シェーンベルク、ベルク、ヴェーベルンによる弦楽四重奏曲集(Zig-Zag Territoires/ZZT 041201)を聴き直す。

ロマン主義と現代音楽... それは、まったくの別物の音楽。違うジャンルにすら思えて来るのだけれど。例えば、シェーンベルクによる12音技法の発明が、"ゲンダイオンガク"の始まりとするならば、ウルトラ・ロマンティックなサウンドを無調へと拡大し、その音のカオスを精錬して、12音音楽へと至った新ウィーン楽派の面々は、ロマン主義のこどもたち。12音技法に始まる音列音楽をベースに、戦後、「前衛」を担った、"ゲンダイオンガク"のスターたちは、ロマン主義の孫たち。となると、ロマン主義と現代音楽の間には、断絶は存在しない。間違いなく、音楽史のひとつの流れの中に、ロマン主義と現代音楽は存在している。そんな風に見つめると、ロマン主義も現代音楽も、また違った表情を見せるように思う。そして、ロマン主義から現代音楽へ、うつろう瞬間を捉えたのが、マンフレッド四重奏団による新ウィーン楽派の弦楽四重奏曲集。
1曲目、ウェーベルン(1883-1945)の四重奏曲。シェーベルクの下で学び始めた頃、1905年の作品の出だしは、『トリスタンとイゾルデ』の前奏曲のようで、マーラーの10番の交響曲、アダージョの冒頭のようで、印象的... まだまだロマン主義の範疇にある音楽が展開される。が、シェーンベルク門下の中でも、特に鋭い感性を持ったウェーベルンならではの緊張感はすでに漂い始めていて... ロマンティックな中に、時折、斑のようになって、カオスが出現する。ロマン主義の深い森の中に、時空が歪んで、異次元への穴が、ぼぉーっと開くような、ミステリアスで、薄気味悪くもある、不思議な存在感(その穴の向こうに、"ゲンダイオンガク"は広がっているのだろう... )。調性と、拡大された調性、から、無調へ... という段階を踏まえるのではなく、そういうそれぞれの次元が、隣り合わせで並べられて生まれるスリリングさ、ファンタジックですらある表情が、極めて魅力的。
そんなウェーベルンを聴いての2曲目、1907年から翌年に掛けて作曲された、シェーンベルク(1874-1951)の2番の弦楽四重奏曲(track.2-5)は、まさにウルトラ・ロマンティックに始まって... そのエモーショナルさに、少しクラクラする。が、2楽章(track.3)では、ロマン主義は抑えられ、新即物主義を先取るようなドライさを見せ... 何と言っても「愛しのアウグスティン」の引用!唐突で、飄々として、一筋縄では行かない音楽を展開。3楽章(track.4)、終楽章(track.5)では、この作品を特徴付ける歌が登場。調性の箍が緩んだ中を、ソプラノが表現主義的に歌い上げる。それにしても、ひとつの作品に、様々なスタイルが現れて、おもしろい。それは、ちょっとした20世紀前半の音楽のカタログのよう。そのあたりに、時代のうつろいが如実に表れている。
さて、ウェーベルン、シェーンベルクと来て、最後はベルク(1885-1935)。1910年に作曲された、その弦楽四重奏曲(track.6, 7)は、調性の枠組みを脱して、新たな時代へと踏み込む。が、ベルクならではの艶やかな音楽性には、多分にロマンティックな気分が含まれていて、その滴るようなサウンドは、ウェーベルン、シェーンベルクでは味わえない豊潤さが魅惑的。新たな時代へと踏み込んでも、音楽を薫らせるベルクの伊達なあたり、なかなか希有だなと... という三者三様の音楽、そして、前進する音楽。ウェーベルン(1905)、シェーンベルク(1907-08)、ベルク(1910)と、わずか5年の間に起こる、音楽の進化に目を見張る。で、これが、"ゲンダイオンガク"前夜の風景... 12音技法の発明(1921)には、あと少し、時間を擁することになる。
そんな、5年間に焦点を絞ったマンフレッド四重奏団。まず、このチョイスにセンスを感じる。新ウィーン楽派の、弦楽四重奏のための代表作を取り上げるのではなく、あくまでも、ロマン主義の最後の瞬間を、弦楽四重奏から丁寧に見つめ、切り取って来た、こだわり。それは、アカデミックになりそうで、そういう方向には行かず、うつろう瞬間の「ゆらぎ」そのものに魅力を見出す。で、それを実現するマンフレッド四重奏団の確かな演奏... 一音一音に落ち着いた雰囲気を籠めるも、それをまとめた時にはけして重くはならない絶妙なアンサンブル。ウルトラ・ロマンティシズム、表現主義と、過剰になりそうなあたりを、そうせずに、つぶさにスコアを見つめる視点が、印象的で、何より、作品の素の姿を引き立てる。正直に言うと、すっかり印象が飛んでいたアルバムだったのだけれど、こうして改めて聴いてみて、新鮮な思いにさせられる。

WEBERN/SCHŒNBERG/BERG ・ QUATUOR MANFRED ・ Marieke Koster

ウェーベルン : 四重奏曲
シェーンベルク : 弦楽四重奏曲 第2番 嬰ヘ短調 Op.10 *
ベルク : 弦楽四重奏曲 Op.3

マンフレッド四重奏団
マリー・ベロー(ヴァイオリン)
ルイージ・ヴェッキオーニ(ヴァイオリン)
ヴァンシアーヌ・ブーランジェ(ヴィオラ)
クリスティアン・ヴォルフ(チェロ)

マリエケ・コスター(ソプラノ) *

Zig-Zag Territoires/ZZT 041201




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