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ピアノの魔術師、仙人となる... リスト、後期作品集。 [2005]

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台風が北上して、梅雨らしくなって来て... ロマン主義...
いや、やっと、当初の狙い通り、しっとりとクラシックな雰囲気に。で、水も滴るロマン主義のアルバムを引っ張り出して来るのだけれど。その前に、中欧の洪水が凄いことになっている様子。日本じゃ空梅雨で拍子抜け?なんてノンキなことを言えても、世界に目を向けると、とんでもない量の雨が降っている。それがまた、クラシックに馴染のある川が大氾濫だったりで... ボヘミアの川よ、モルダウよ... とか、美しき青きドナウ、とか、多くの作曲家にインスピレーションを与えた川も、一転、街を飲む込み、音楽なんて呆気なく流し去ってしまう現実。ゼンパー・オーパーが、エルベ川に浸かってしまった2002年の大洪水が思い出される。けれど、あの時のように、また力強く再生してくれることを願うばかり。それにしても、美しい自然は、恐ろしい脅威。日本も、世界も、同じだなと。
さて、ロマン主義です。フンメルベートーヴェンウェーバーと、じっくり下って来ての、リスト。2005年にリリースされた、ジョス・ファン・インマゼールが1886年製、1897年製のエラールのピアノで弾く、リストの後期作品集(Zig-Zag Territoires/ZZT 040902)を聴き直す。

リスト(1811-86)の死を前にした、1880年代の作品を中心に取り上げる後期作品集。ウェーバーの『オベロン』(1826)からは、半世紀以上が経ち、その間、ロマン主義は大きく花開き、やがて爛熟期を迎えようとしていた。そして、『オベロン』の透明感の後で聴くリストの晩年の作品というのは、何とも仄暗い。まさに人生の終わりを思わせる重苦しさが漂う。それらは、収録された作品のタイトルにもくっきりと表れていて、夜、子守歌、墓、僧院、別れ、悲しみ、凶星!いや、そういう深刻さにこそ、ロマン主義の真髄を見たりもする。そうしたとこから振り返る、フンメル、ベートーヴェン、ウェーバーは、本当に若かった!その青々としたロマン主義のフレッシュさに、目が眩むよう。だからこそ、リストの仄暗さも、グっと引き立ち、その深く焙煎されたロマン主義の、豊かな薫りに眩惑される。何と言っても、リストの老境に入った落ち着きが、まさに、今の、梅雨時にぴったりで...
1曲目、「夜」の、闇そのものが足下からひたひたと迫って来るような出だしから、何とも言えない心地にさせられる。また、1886年製、エラールのピアノのくぐもったサウンドが、より、その闇を、濃密にするようで、ピリオドの力というのか、リストそのものに迫って得られる19世紀の光度... 電気の光が存在しなかった頃の、様々なイマジネーションを呼び覚ます暗さに、はっとさせられる。そして、リストの芸術性には、この"闇"が潜むのだなと... 「ピアノの魔術師」、伝説のヴィルトゥオーゾとして、煌びやかなイメージに彩られるリスト。しかし、その音楽を振り返ってみると、どこか仄暗かった。それが、晩年となり、脂が落ちて、骨格が露わになると、"闇"そのものが浮かび上がるのか。その"闇"にこそ詩情は溢れ、枯れてこそ豊潤な芸術性が広がるおもしろさも。
さて、このアルバムのトーンをより濃くしているのが、イストミンが弾くチェロ。インマゼールによるピアノ作品に差し挟まれるように、5つのピアノ伴奏によるチェロのための作品が取り上げられる。そもそも、リストのチェロのための作品というのが珍しい(ここで取り上げる5つの作品が全て?)。いや、改めてこのアルバムを聴いて、こういう作品があったのだと再認識させられる。そして、リストの仄暗さは、チェロの懐の深い音色によって、より確かなものとなるようで... まったく飾ることなく(かつての華麗なピアノ作品からしたら、見事に枯れ切っている... )、渋い旋律を、淡々と歌う姿は、ロマン主義を突き抜けて、中世の歌でも聴くような感覚すらある。
それは、時代の寵児だった反動なのだろうか?この後期作品集には、どこか時代感の箍が外れてしまうような不思議さがある。ピアノ作品に関しては、ドビュッシーや、神秘主義にはまったサティを思わせる、象徴主義的な臭いも漂い始めていて、1880年代の、近代が目前となった頃の、時代を先取りするリストの嗅覚の鋭さを感じずにはいられない。一方で、時代感の箍が外れて、より自由となったリストは、ひたすらにリスト自身を突き詰めてもいるようで。その孤独な姿には、厭世感が漂い... また、厭世的ですらある態度に、ロマン主義の爛熟を見るようでもあり。リストの晩年というのは、魔術師が仙人へと昇仙した深淵さに充ちている。
そんなリストを見せてくれたインマゼール!この人ならではの、作曲家の存在を突き放すような、訥々としたタッチは、ピリオドのピアノの特性を見事に捉えていて、モダンのピアノにはない癖こそ活かし切り、そこから、リストの時代を際限なく想像してゆくような... アプローチとしては、極めてシンプルなのだけれど、そこから生まれる音楽世界は、思い掛けなく深く、そして、広大ですらある。そのスケール感は、どうやって生み出されるのだろう?それは、作為的でないこと。ピリオド・アプローチ、オリジナル主義に忠実であることだろうか。そうした姿勢が、晩年のリストに重なるようでもあり、この共鳴がまた不思議な境地に至らしめている。それにしても、指揮棒を置いて、ピアノと向き合ったインマゼールは、その両手から、よりダイレクトに、特異な音楽性が滲み出て来るようで。もしかしたら、この人こそ仙人なのかもしれない...

Franz Liszt ・ Pièces Tardives ・ J. van Immerseel - S. Istomin

リスト : 夜 Sz.699
リスト : 墓場の子守歌 Sz.195a *
リスト : 子守歌 Sz.198
リスト : エレジー 第2番 Sz.131 *
リスト : 灰色の雲 Sz.199
リスト : 忘れられたロマンス Sz.132 *
リスト : リヒャルト・ヴァーグナーの墓に Sz.202
リスト : ノンネンヴェルトの僧房 Sz.382 *
リスト : 執拗なチャールダーシュ Sz.225-2
リスト : 別れ Sz.251
リスト : 悲しみのゴンドラ Sz.134 *
リスト : 凶星!(不運) Sz.208

ジョス・ファン・インマゼール(ピアノ : 1886年製、エラール、コンサート・グランド・ピアノ)
セルゲイ・イストミン(チェロ) *
ジョス・ファン・インマゼール(ピアノ : 1897年製、エラール、セミ・グランド・ピアノ) *

Zig-Zag Territoires/ZZT 040902

6月、ロマン主義下り。
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