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息衝く「皇帝」。スホーンデルヴルトによる驚くべき試演版... [2005]

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録画しておいた、ダルデンヌ兄弟の映画、『少年と自転車』を見る。
嗚呼、ダルデンヌ兄弟... 格差社会の救いの無い暗さを見せつけて、見る者を凹ませる物語を次々に繰り出して来るわけだけれど、『少年と自転車』は、"少年"に"自転車"という、軽やかさを生むツールがあって、救いもあったか... そして、深く印象に残る、ベートーヴェンの「皇帝」の2楽章。劇中、切なくなってくると、鮮烈に流れ出すオーケストラによる序奏のフレーズ。そのフレーズだけで、それ以上は流さない。それは、まるで、何かのサイレンのようにも聴こえ、もどかしさとともに、強いインパクトを残す。これが、ダルデンヌ兄弟ならではのベートーヴェンの使い方。そう簡単に音楽を楽しませてはくれないのだなと... が、物語の最後、それでも少年は自転車に乗って、やっと手に入れた、ささやかな幸せの下へと消えて行った後、エンドロールの背景に、ピアノ・ソロが表れる。とうとうオーケストラによる序奏の続きが流れ出す!「皇帝」の2楽章は、ベートーヴェン切っての泣かせ楽章。映画がなくたって、心がじんわりしてしまうのに、それを、ここで、使うか!?ダルデンヌ兄弟... 路線変更?いや、そのあまりの美しさと切ないピアノの表情こそが、21世紀のリアルの遣る瀬無さに、やさしく寄り添いつつも際立たせるのかもしれない。そんな思いとともに聴いた「皇帝」、2楽章。頭から離れなくなってしまって...
2005年にリリースされた、アルテュール・スホーンデルヴルトのピリオドのピアノ、スホーンデルヴルトが創設したピリオド・アンサンブル、クリストフォリによる、ベートーヴェンのピアノ協奏曲、4番と、5番、「皇帝」、その試演版(Alpha/Alpha 079)を聴き直す。

様々な個性に彩られたピリオド界にあって、またさらに個性的な存在感を示すピアニスト、スホーンデルヴルト。その個性を、さらにさらに際立たせた試演版を用いてのベートーヴェンのピアノ協奏曲のシリーズ。その最初の1枚だった、4番(track.1-3)と5番、「皇帝」(track.4-6)。とにかく、"試演版"という、それまで思いもよらなかったヴァージョンに驚かされ。ピリオドなればこそのオリジナル主義も、いよいよ以って凄い次元へと突入したなと、オリジナルさえ突き抜けての試演版に、少し慄き、少し呆れたことを覚えている。
で、その試演版とは?ベートーヴェンの支援者のひとり、ロプコヴィッツ侯爵のウィーンの邸宅の一室で、初演を前に試演された時の編成を再現するもの。管楽器とティンパニはいつも通り、なのだけれど、弦楽セクションは2人ずつ(コントラバスはひとり... )。となると、4番が20人、「皇帝」が21人という、普段では想像も着かない編成で、ピアノ・ソロを支えることに。いや、この刈り込まれたアンサンブルが生み出す、独特のハーモニーには、本当に驚かされるもの。今、改めて聴いても刺激的で、何と言うか、ただならず生々しい。
そもそも、コンサートホール用の版ではない。豪奢であろう邸宅での演奏の再現ではあるけれど、あくまで一室での演奏。コンチェルトという、本来、ゴージャスな規模を、狭い空間に押し込めての、濃密さ。客席との近さ。あらゆることが、普段のクラシックの常識を超越してしまっている。が、これを、見事に録音し切ったスホーンデルヴルトのこだわりに、脱帽。また、そのこだわりに応え切った録音もすばらしい!だからこそ、"試演版"の、常識を超越した状態を、生々しく追体験できる... そうして味わうベートーヴェンは、まるで、オーケストラの一員となって、音楽の内側から聴くような臨場感がある。刈り込まれたアンサンブルだからこそ、ひとつひとつの楽器の音は明瞭に聴こえ、なおかつ、それらが耳元で鳴り響くような近さ... 編成は小さくとも、生まれるダイナミクスは、普段のオーケストラに引けを取らない。というより、小編成の小回りの効くあたりが、スコアに書かれたそれぞれの段の流れを普段以上に活き活きとサウンドにし、聴く者を取り囲んで迫って来るような、一味違う迫力すらある。
もちろん、小編成なればこその、室内楽的な魅力も... 楽器ひとつひとつの艶やかな表情が手に取るように感じられ、コンチェルトでは感じ得ない繊細さに息を呑む。特に印象に残るのは、「皇帝」の2楽章(track.5)の始まり、スホーンデルヴルトの息遣いが聞えて来るところ。音楽が始まる前の緊張感と、一息付いて流れ出す、あのやさしく切ないメロディは、まるで呼吸そのもの。ただ音楽を聴くだけではない、まさしく息衝く音楽に、聴く側もつい息を合わせてしまうような感覚になって、ただならず引き込まれてしまう。いや、そういう一体感が、凄い。そうして得られる感動は、なかなか他に探せない、独特のもの。感動自体が濃密。なのかも。
そして、スホーンデルヴルトの丁寧なタッチ!19世紀初頭に製作されたヨハン・フリッツによるピアノの、どこか訥々としたトーンを愛しむように、ひとつひとつの音符をすくい上げて、無理なく音楽を紡ぎ出す。やはり、試演版の小さな編成が、ピリオドのピアノに音的な負担を減らす利点もあるのか。鳴り響くハーモニーこそ迫力満点ではあるのだけれど、ピアノはよりナチュラルな表情を見せるのが興味深く、また新鮮。そして、縦横無尽に、スホーンデルヴルトのピアノを盛り立てるアンサンブル、クリストフォリ!彼らのフルスロットルなパフォーマンスは、ベートーヴェン本来のアグレッシヴさを明確に捉えて、コンチェルトの華麗さに、より挑戦的なおもしろさを加える。スホーンデルヴルトのピアノももちろんすばらしいのだけれど、この試演版のおもしろさは、このクリストフォリに依るところは大きいなと。そう言う点で、息も荒くなるほど、スホーンデルヴルトの指揮に力が入っていたのだろうなと。そうして、見事に鳴らし切り、まとめたスホーンデルヴルトの音楽性、見事!

BEETHOVEN Concerti pour piano 4 & 5
Arthur Schoonderwoerd - Cristofori


ベートーヴェン : ピアノ協奏曲 第4番 ト長調 Op.58
ベートーヴェン : ピアノ協奏曲 第5番 変ホ長調 Op.73 「皇帝」

アルテュール・スホーンデルヴルト(ピアノ : 1807-10年頃の製作、ヨハン・フリッツ)
クリストフォリ

Alpha/Alpha 079

6月、ロマン主義下り。
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