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ヘンデルのオペラとオラトリオを結ぶ、『サウル』! [2005]

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巳年は、蛇がウネウネするように、世の中もうねる。
みたいなことを、風水の偉い先生が、2013年を迎えるにあたって、どこかに書いていたことを思い出す。毎日、毎日、ニュースを見ていると、何かこう、気持ちがどんどん殺気立って来るようなところがある。これが、その「巳年」ということなのか?また、どこか、必要以上にうねるよう仕向けられてもいるようで。ニュースが、逐一、捉える、過剰なアクション、リアクションに、たっぷりと眩惑された後では、騙されているような感覚にもなる。うねりの中で、虚も実も、徹底的に掻き回されて、本当のところはますます見え難くなる今日この頃...
さて、前回、シェーンベルクによる編曲で、ヘンデルの合奏協奏曲を聴いたのだけれど、こちらは、絶妙にヘンデルを見え難くして、興味深い音楽を繰り広げていたのだけれど。シェーンベルク版のヘンデルを聴いたものだから、ヘンデルそのものを聴いてみたくなり... ということで、2005年にリリースされた、ルネ・ヤーコプスの指揮、コンチェルト・ケルンの演奏、ピリオドで活躍する実力派ソリストたち、RIAS室内合唱団による、ヘンデルのオラトリオ『サウル』(harmonia mundi FRANCE/HMC 901877)を聴き直す。

ヘンデルのオラトリオは、いくつあるのだろう?オペラよりは少ないと思うのだけれど、かなりの数になるはず... で、その多くのオラトリオを、多いからこそ、どこかで一括りに考えていたのかもしれない。1712年、ロンドンに渡ったヘンデルは、まずオペラで人気を博す。が、やがて、ロンドンにおけるイタリア・オペラ・ブームが全盛を過ぎて、劇場経営に支障をきたすようになると、英語によるオラトリオを作曲するようになる。そして、まもなく、代表作となる『メサイア』(1742)で、後世に残る揺ぎ無い名声を獲得するわけだ。つまり、ヘンデルのロンドン時代の前半がオペラで、後半がオラトリオ... 分かり易い構図が見えて来る。が、『サウル』(1739)は、オペラとオラトリオが重なる頃に作曲されている。つまり過渡期の作品。で、これが絶妙に作用していて、思い掛けなく魅力的!
1733年、ヘンデルに対抗して、ナポリ楽派の巨匠、ポルポラがロンドンに招聘され、"貴族オペラ"が活動を始めるものの、過度な競争(国王=ヘンデルvs"貴族オペラ"/王太子=ナポリ楽派)もあって、1737年に共倒れ。ヘンデルは、翌年に新たな組織を立ち上げ、『メサイア』の初演、前年(1741)まで、イタリア・オペラの作曲を続けるものの、鳴かず飛ばずの状態が続いた... 中でのオラトリオ『サウル』!イタリア・オペラの性格を色濃く残しつつの、オラトリオならではのコーラスの活躍など、実は、いいとこ取りでフルに楽しませてくれる。
そんな『サウル』、まず印象に残るのが、それまでのイタリア・オペラで培って来たドラマティックさ!一方で、イタリア・オペラに付き物のレチタティーヴォが無い!どんなに魅力的なアリアが並んでも、説明的なレチタティーヴォがドラマの勢い断ち切ってしまうもどかしさが、『サウル』には無い!で、レチタティーヴォ無しで綴られるイタリア・オペラのスピード感に、圧倒される(もちろん、イタリア・オペラではないのだけれど... )。そうして盛り上がったところで、イタリア・オペラには無い(皆無ではないけれど... )、ふんだんに盛り込まれたコーラスの迫力!もう、聴き応えは満点だ。そこに、サウルの物語の魅力... オラトリオなればこその、旧約聖書を題材とするものだけれど、聖書の説教臭さよりも、イスラエル王国における政権交代(王朝交代)の歴史劇のドラマティックさには、イタリア・オペラ以上の魅力を感じずにはいられない。何より、『サウル』って、こんなにもおもしろかった?
この『サウル』を聴くのは、いつ以来になるのか... それくらい聴いていなかったのかもしれない。だからか、もの凄く新鮮!そして、老練なオラトリオのイメージとは一味違う、イタリア・オペラのようなフレッシュさを発見して、ヘンデルのロンドン時代、前半、後半のステレオタイプを覆してくれる刺激的な音楽に、今さらながらエキサイトしてしまう!で、そんな作品の魅力を余すことなく引き出すエキサイティングな歌と演奏... 小気味よく、軽やかで、カラフルな演奏を繰り広げるコンチェルト・ケルン。「室内」なればこその高機能性にこだわらず、少し規模を大きくして流麗さも見せつつパワフルに物語を盛り上げるRIAS室内合唱団。美しくも力強くドラマを紡ぎ出すソリストたち、ひとりひとりの見事な歌声!派手さは無くとも、確かな実力を持った歌手たちを並べて得られるドラマの求心力というのは、凄い。そうしたところに、ヤーコプスならではの魅力が光る。一方で、音楽に介入しようとしないヤーコプスの姿勢も興味深い。よって、ヤーコプスならではの魔法は掛からない。が、オーケストラ、コーラス、そしてソリストたちを十分に活かして、シンプルに、ヘンデルの過渡期の作品と向き合う真摯さが、かえって『サウル』の魅力を引き出すのか。そもそも、オラトリオにしてイタリア・オペラ的であることが盛りだくさんであって、そこに魔法以上の効果がすでにあるのだろう。様々な個性が犇めくピリオドの世界に在って、よりその個性を際立たせるヤーコプスらしさよりも、ヘンデルの地力が大いに魅力を放っているあたりが、興味深い。そうして浮かび上がる、過渡期の作品としての弱さではない、オペラとオラトリオを結ぶ、ある意味、集大成的とも言えてしまう聴き応え。いや、聴き直して良かった!今、改めて、ヘンデルの魅力に圧倒される。

RIAS-KAMMERCHOR CONCERTO KÖLN
SAUL GEORGE FRIDERIC HANDEL
RENÉ JACOBS


ヘンデル : オラトリオ 『サウル』 HWV 53

ミカル : ローズマリー・ジョシュア(ソプラノ)
ミラブ : エンマ・ベル(ソプラノ)
ダヴィデ : ローレンス・ザゾ(カウンターテナー)
ヨナタン : ジェレミー・オヴェンデン(テノール)
大祭司/エンドルの魔女 : マイケル・スラッテリー(テノール)
アマレク人/アブネル : フィンヌル・ビャルナソン(テノール)
ドエグ/サムエル : ヘンリー・ウォディントン(バリトン)
サウル : ギドン・サックス(バリトン・バス)
RIAS室内合唱団
ルネ・ヤーコプス/コンチェルト・ケルン

harmonia mundi FRANCE/HMC 901877

5月、バロック三大巨頭を聴く!
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