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シェーンベルクのジャンプ力。 [2005]

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クラシックにおける「編曲」という行為は、刺激的だ...
そもそもオリジナルが尊ばれるジャンルであって、そうしたところに、あえて改編を加えるというのは、掟破りなのかもしれない。いや、だからこそ、オリジナルよりスリリングな結果が生まれる可能性が生まれる?音楽全般において、編曲は、極めて合理的な作業なわけで、特筆すべきものですらないかもしれない。が、クラシックというフィールドでは、いろいろ意味を持ち得てしまうおもしろさ。その内、編曲セレクションとかやってみたくなってしまうのだけれど... その前に、20世紀後半の「編曲」で異彩を放ったベリオに続いての、20世紀前半で興味深い「編曲」をいろいろ残しているシェーンベルクの、ヘンデルを大胆に編曲した珍しい作品を聴いてみる。
2005年にリリースされた、近現代のスペシャリスト、ロバート・クラフトによるシェーンベルクのシリーズから、フレッド・シェリー弦楽四重奏団、20世紀クラシックス・アンサンブルの演奏で、弦楽四重奏とオーケストラのための協奏曲(NAXOS/8.557520)を聴き直す。

"ゲンダイオンガク"の始まり?12音技法の発明で、すっかり気難しいイメージのあるシェーンベルク。一方で、編曲で見せるシェーンベルクの姿は、気難しさとは一味違う、奇妙な人懐っこさを見せる。例えば、ウィンナ・ワルツ... シュトラウス・ファミリーを編曲したというあたりが、すでにシェーンベルクらしくないように感じるのだけれど、教育者としてのシェーンベルクは、弟子たちへの課題のひとつとして、ウィンナ・ワルツに取り組んでいる。でもって、いい味を醸してしまう!優雅なウィンナ・ワルツが、室内楽に落とし込まれ、いつもよりも身近な感覚で響き出すおもしろさ!シェーンベルクにして、ほのぼのと砕けた気分が、変に新鮮だったりする。そして、ここで聴く、弦楽四重奏とオーケストラのための協奏曲(track.1-4)。ヘンデルの合奏協奏曲(Op.6-7)を、弦楽四重奏のコンチェルトとして仕立て直した作品なのだけれど、これって本当にヘンデル?
20世紀前半、新古典主義というモードに合致したライトなサウンドと、明快なリズム。ヘンデルの時代にはあり得ないパーカッションでスパイスを効かせつつ、弦楽四重奏をソリストにバロックならではの合奏協奏曲の雰囲気をより豊かなものとして繰り広げる。それは、シェーンベルクを取り巻いていた小気味よいモダニスティックな時代の空気を感じさせる魅力的なもの。だけれど、原曲がヘンデルかと言われると、ちょっと信じられなく... ということで、オリジナルを引っ張り出して聴いてみたら、おおっ!間違いなくヘンデル。いや、見事にシェーンベルク流に仕立て直されていたのだなと。オリジナルを聴いてこそ、その変容ぶりのおもしろさに気付く...
気難しいようでいて、シェーンベルクは意外とお茶目だったのかもしれない。弦楽四重奏とオーケストラのための協奏曲は、そんなことを思わせる。見事な仕立ての中に、いろいろと遊びが散りばめられていて、ヘンデルのオリジナルを聴けばなおのこと、「こう来ましたか!」と、シェーンベルクの創意に膝を打つところも。やがて至る12音技法のどこか猟奇的にストイックなイメージからすると、それは思い掛けなくカラフルで、ヘンデルを用いて少しおちゃらけてもいるシェーンベルクが新鮮だったり。また、そういうシェーンベルクを味わってから、気難しいシェーンベルクへと立ち返ると、その気難しさにも、より豊かなイマジネーションが広がるのを感じ、また新鮮!新古典主義の後での12音技法によるピアノ組曲(track.5-9)は、どこかジャジーなものを思い浮かべ。アルバムの後半、シェーンベルクが無調へと至った記念碑的作品、歌曲集『架空庭園の書』(track.11-25)の豊潤さには大いに魅了される。無調というカオスが放つ深い響きが、ピアノ伴奏による歌曲でありながらも、オーケストラに負けない色彩感を繰り出すかのよう。そして、新古典主義から表現主義、12音技法へと、シェーンベルクの次なる次元へのジャンプ力が、何気に凄いのだなと。実は、ごった煮的なアルバム... だけれど、だからこそ、それぞれの時代のシェーンベルクの作風が際立ち、シェーンベルクそのものの変容に興味を掻き立てられる。
そんなシェーンベルク体験をもたらしてくれたクラフト... この人ならではのさらりとした音楽性は、シェーンベルクのステレオタイプに捉われることなく、20世紀クラシックス・アンサンブルからニュートラルな演奏を引き出す。そして、オールドファーザーのピアノ。音符をクリアに捉えて、音楽を少し突き放すようなところを見せつつ、さり気なく音楽の底に溜まる臭いのようなものを引き寄せて、すでに遠くなった「20世紀」の気分を浮かび上がらせるのか。その中で、淡々と歌い紡ぐレーン(メッゾ・ソプラノ)の深く艶やかな声。久々に聴いた『架空庭園の書』の、謎めくトーンにゾクゾクしてしまう。

SCHOENBERG: Concerto for String Quartet & Orchestra

シェーンベルク : 弦楽四重奏とオーケストラのための協奏曲 変ロ長調 〔ヘンデルの合奏協奏曲 Op.6-7 による〕 **
シェーンベルク : ピアノ組曲 Op.25 *
シェーンベルク : 『グレの歌』 から 山鳩の歌 〔1923年、室内楽版〕 **
シェーンベルク : 『架空庭園の書』 Op.15 **

フレッド・シェリー弦楽四重奏団 *
ジェニファー・レーン(メッゾ・ソプラノ) *
ロバート・クラフト/20世紀クラシックス・アンサンブル *
クリストファー・オールドファーザー(ピアノ) *

NAXOS/8.557520




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