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古典派の対岸に、悪魔の家... [2005]

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何だか、いつの間にやら連休になっている...
なんて調子でおりまして。えっ?!もうすぐそこに5月?と、変に驚いてしまう。それって、ボーっとし過ぎなのか?ま、予定無しで連休を迎えるのは、例年のことなのだけれど、今年はいつもより早く連休がやって来てしまったように感じるのはなぜだろう?4月、ちょっと足下ばかりを見て、前を見ていなかったせいかなと、反省。それにしても、静か!高速道路も、新幹線も、大変(予定のある皆様、お疲れ様です... )だって言うけれど、家の周りには人がいない!いや、こういう時こそ音楽を聴こう。音楽連休にしよう。
さて、ここまで古典派を集中的に聴いて来たので、少し時代を遡って、多感主義、疾風怒濤のピリっとした音楽を聴いて、まずはシャキっとする。2005年にリリースされた、グルックの「復讐の女神たちの踊り」をフィーチャーする興味深い1枚、ジョヴァンニ・アントニーニ率いる、イル・ジャルディーノ・アルモニコによる"LA CASA DEL DIAVOLO"(naïve/OP 30399)を聴き直す。

"LA CASA DEL DIAVOLO"、悪魔の家... ホラー映画か?!というようなタイトルと、アントニーニ+イル・ジャルディーノ・アルモニコならではの激烈な演奏によるインパクトで、すでにかなりの満腹感はあるのだけれど、そればかりでないのが、"LA CASA DEL DIAVOLO"。改めて、その内容を見つめると、実に凝っているのだなと、妙に感心させられる。というより、バロックと古典派の隙間を、丁寧に広げて、もうひとつの世界観を見せてしまうおもしろさ!バロックから古典派へ... という分かり易い形ではなく、18世紀の多様さ、ある種の複雑さを、ひとつのテーマを用いて、見事に浮かび上がらせ、新たに18世紀の一面を知ることに...
そのテーマが、「復讐の女神たちの踊り」として知られる、グルックのバレエ『ドン・ジュアン』(1761)のフィナーレ(track.1)... 18世紀、シュトゥルム・ウント・ドラング=疾風怒濤というムーヴメントに大きな影響を与えることになる、グルックにとっての最初の疾風怒濤だった音楽。初演から、そのデモーニッシュなあたりが、かなりの衝撃を以って熱狂的に迎えられ、その後の作曲家に多くの影響を与えたとのこと。ボッケリーニに至っては、「復讐の女神たちの踊り」をそのまま素材として用いて、交響曲に仕立てている。それが、交響曲、「悪魔の家」(1771)の終楽章(track.20)。このアルバムのタイトルとなっている作品だ。"LA CASA DEL DIAVOLO"は、まず、グルックからボッケリーニへ... という流れが興味深い。そして、その激しいテーマを、グルック、ボッケリーニとで、二重に聴くことで、疾風怒濤の、18世紀後半、古典派の時代のスケール感を越えた新しい感性を炙り出す。
19世紀、ベルリオーズ、ワーグナーといった最も個性的なロマン主義の大家たちが、グルックのパリ時代(疾風怒濤がいよいよ以って吹き荒れる!)のオペラを評価し、また影響も受けているわけだが、「復讐の女神たちの踊り」のテーマを聴いていると、幻想交響曲の魔女たちのサバトや、さまよえるオランダ船の亡者たちを思い出させて、おもしろい。いや、古典派が成熟する直前、疾風怒濤は、すでにロマン主義を芽吹かせていたのかもしれない。が、このアルバムの興味深い点は、さらに、そのロマン主義の芽生えを、多感主義、そしてバロックの爛熟期へと結び付けてゆくところ。新しい感性でありながら、それ以前の古い流れに沿っているところも響かせる。
グルックとボッケリーニで挟んで取り上げるのが、多感主義、バッハ家の次男、カール・フィリップ・エマヌエルバッハの弦楽のための交響曲(track.2-4)と、バッハ家の長男、ヴィルヘルム・フリーデマンのチェンバロ協奏曲(track.13-15)。そのバッハ兄弟で挟んで取り上げられるのが、バロックの爛熟期、ロカテッリの代表作、「アリアンナの涙」(track.5-12)。何と言うことでしょう!完全にマトリョーシカ... 芯にあるものは、芝居掛かった劇的なバロックで、それを、感情のジェットコースターのような多感主義で包み、疾風怒濤、「復讐の女神たちの踊り」で、全てを包む。包んで、その先にあるロマン主義を予感させる巧妙さ!古さが新しさに覆われながらも、形を残し、時に透けて見えすらしている、そんな不完全さがありつつ、そういう部分にこそ、違う新しさが生まれてしまう、音楽の進化の一筋縄ではいかないところ... 古さと新しさが錯綜する感覚に、かなり眩惑されてしまう。何と魅力的な!それがまた、古典主義の端正でポジティヴな音楽とはまた違う流れとして展開しているという、新たな視点の新鮮さ!そういう視点を持って、初めて18世紀のリアルな姿に辿り着くのか。バロックと古典派、ハイドンとモーツァルト... では割り切れないこの時代の奥の深さのようなものに触れることができたような気がした。
で、その演奏なのだけれど... 期待を裏切らない、アントニーニ+イル・ジャルディーノ・アルモニコの激烈な演奏!"LA CASA DEL DIAVOLO"、悪魔の家の、刺激的な音楽を、バロック・ロックな感性で、いつもながらホットに鳴り響かせる。最後の、ボッケリーニの交響曲の終楽章(track.20)なんて、楽器が壊れないか?ぐらいの熱さで、見事に盛り上げてくれる。一方で、美しくあるべきところは美しく、クリアであるべきところはクリアに、彼らの器用さもまた聴きどころ。だからこそ、激烈なあたりが、より際立つ... そこに、豪華なピリオド界のマエストロたちのソロ... 「アリアンナの涙」(track.5-12)での、オノフリのヴァイオリンの極まる美音での歌いっぷり。ヴィルヘルム・フリーデマンのチェンバロ協奏曲(track.13-15)での、ダントーネのしっかりとしたタッチ。縦横無尽のイル・ジャルディーノ・アルモニコにさらなる色が加わって、より豊かなサウンドが広がる。タイトルのインパクトから、一見、キワモノっぽさを感じるのだけれど、ロカテッリからバッハ兄弟、グルックを経てボッケリーニへ、それぞれの音楽が持つ性格を丁寧に捉えていて、それぞれに聴き入らずにいられない。それにしても、"LA CASA DEL DIAVOLO"。久々に聴いてみて、こんなにおもしろかった?と、驚いてしまう...

LA CASA DEL DIAVOLO E. Onofri O. Dantone Il Giardino Armonico Giovanni Antonini

グルック : バレエ 『ドン・ジュアン』 から 亡霊たちの狂暴な踊り
カール・フィリップ・エマヌエル・バッハ : 弦楽のための交響曲 ロ短調 Wq.182-5
ロカテッリ : コンチェルト・グロッソ 変ホ長調 Op.7-6 「アリアドネの涙」 *
ヴィルヘルム・フリーデマン・バッハ : チェンバロ協奏曲 ヘ短調 *
ボッケリーニ : 交響曲 ニ短調 Op.12-4 G.506 「悪魔の家」

オッターヴィオ・ダントーネ(チェンバロ) *
エンリコ・オノーフリ(ヴァイオリン) *
ジョヴァンニ・アントニーニ/イル・ジャルディーノ・アルモニコ

naïve/OP 30399




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