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ハイドンの時代。 [2005]

何で寒い!4月も半ば過ぎたぞ!
と、何かと戸惑っております。のも、この4月、「春」なサウンドとして、ハイドン推しで行こうと思っていたものだから... ここのところ、春はいいなぁ、そんな時には、古典派だよなぁ、と、あまりにうららかに書き過ぎてしまって、大いに躓いてしまう。けど、いいのだ!耳だけでも春!ということで、『パリ交響曲』ハイドン兄弟に続いて、ハイドンの時代へ、より広がりを以って、いろいろ聴いてみることにする。
ということで、2005年にリリースされた、鈴木秀美率いる、古典派のスペシャリスト集団、オーケストラ・リベラ・クラシカによる2タイトル... ハイドンの交響曲、21番と、60番、「うかつ者」、そこに、モーツァルトのK.272のコンサート・アリアも取り上げるアルバム(Arte dell'arco/TDKAD-014)。ヴァンハルに始まって、ハイドンの75番、そして、モーツァルトの38番、「プラハ」という、古典派の時代の3つの交響曲を取り上げるアルバム(Arte dell'arco/TDKAD-016)を聴き直す。


1760年代から1770年代へ、うつろう時代の交響曲...

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1764年の21番の交響曲(track.1-4)と、その10年後に交響曲という形になった60番、「うかつ者」(track.8-13)。それは、ちょうどハイドンがエステルハージ侯爵家に仕えていた前半の頃にあたるのだけれど... その頃のヨーロッパ全体を俯瞰してみると、なかなか興味深い。フランス・バロックの最後の巨匠、ラモー(1683-1764)が、その最後のオペラ『レ・ボレアド』をパリで初演しようとしていたのが1763年(オペラ座の火災で初演は流れてしまい、ラモーは、翌年、世を去る... )。「オペラ改革」の巨匠、グルック(1714-87)の、その改革を象徴するオペラ『オルフェオとエウリディーチェ』がウィーンで初演されたのが1762年。そして、時代はナポリ楽派、全盛期で、ベートーヴェンが誕生(1770)し、少年から青年へと成長しつつあったモーツァルトは各地を巡り、最新のモードを吸収していた。そんな、18世紀も半ばを過ぎた頃、様々なスタイルが行き交い、今から振り返ると、実に刺激的!そうした中、ハンガリーの極めてローカルな場所で、交響曲を練り上げていた"交響曲の父"... その交響曲は、いつ「交響曲」のイメージに適うものとなったのだろう?ふと考えさせられる2曲。
まず、1曲目、21番(track.1-4)... 緩急緩急の4楽章構成は、いつもの「交響曲」のイメージからすると、ちょっとイレギュラー。序奏としてのアダージョがあるのではなく、1楽章がアダージョというのは、バロック的な性格を残している。が、そのサウンドはバロックを完全に脱して前古典派調。2楽章(track.2)など、通奏低音がメトロノームのように小気味よくリズムを刻んで... 後の交響曲に比べれば、やっぱりシンプル。ディヴェルティメントのような爽やかさが際立つ。そして、3楽章(track.3)、どっかで聴いたことがあるぞ?!アイネ・クライネ・ナハトムジーク(1787)のメヌエット... というわけで、「交響曲」のイメージに収斂される以前を思わせる21番。それは、うつろう時代を象徴するのだろう。それがまた、思い掛けなく魅力的でもあって、おもしろい。
その10年後の交響曲、2曲目、60番、「うかつ者」(track.8-13)... これがまた、一筋縄ではいかない。まったく以って、うかつな交響曲?いや、21番から10年を経たサウンドというのは、すっかり古典派的に進化していて、シンフォニック。ではあるのだけれど、「うかつ者」の特殊性... 元々は劇音楽だったというあたりが、交響曲としての性格を薄めて、一味違う楽しみをもたらしてくれる。それは、テレマンの組曲を思わせる?芝居掛かって、時にギミック(track.13)でもあって、さらにはハンガリー風(track.11)まで盛り込んで、盛り上げて、盛りだくさん!改めて聴いてみると、そうしたあたりに、バロックの気分を感じるのだけれど... これを「交響曲」と言わしめてしまう強引さというか、アバウトさが、ハイドンの魅力なのだなと、再認識。すっかり楽しむ。
さて、このアルバム、ハイドンの2つの交響曲の間に、モーツァルトのK.272のコンサート・アリア(track.5-7)が歌われるのだけれど、これがほとんどカンタータと言いたくなるような規模で、下手すると交響曲に負けない聴き応えがあったり... が、野々下のソプラノがあまりに繊細で、繊細過ぎて、間違いなく美しくはあるのだけれど、ドラマティシズムに欠けるのが残念。1777年に作曲された、オペラ・セリア全盛の時代を垣間見る長大なアリアは、物語のスケール(神様とか、英雄とか、王侯たちセレヴが入り乱れての、ドロっドロの愛憎劇だったりするわけで... )に適った迫力が欲しかった... かも...

鈴木秀美 指揮/オーケストラ・リベラ・クラシカ
ハイドン : 交響曲 第21番 ・ 第60番 「うかつ者」/モーツァルト : 演奏会用アリア K.272

ハイドン : 交響曲 第21番 イ長調 Hob.I-21
モーツァルト : コンサート・アリア 「ああ、それはわかっていたこと」 K.272 *
ハイドン : 交響曲 第60番 ハ長調 Hob.I-60 「うかつ者」

鈴木 秀美/オーケストラ・リベラ・クラシカ
野々下 由香里(ソプラノ) *

Arte dell'arco/TDKAD-014




1770年代から1780年代へ、古典派、交響曲、ア・ラ・カルト...

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1775年にパリで出版されたヴァンハル(1739-1813)の交響曲(track.1-4)。楽長として雑事の多い中、1781年に完成されたハイドン(1732-1809)の75番の交響曲(track.5-8)。1786年にプラハで初演されたモーツァルト(1756-91)の38番の交響曲、「プラハ」(track.9-11)。18世紀後半、古典派の時代、ハプスブルク帝国が生んだマイスターたち(モーツァルトは、ザルツブルク生まれなので、正確にはハプスブルク帝国に含まれていないのだけれど... ザルツブルク大司教領がオーストリアに併合されるのはモーツァルトの死後... )が見事に並んだ1枚!それも、チェコ出身でインターナショナルに活躍したスター作曲家(ヴァンハル)に、ハンガリーで仕事に追われていた楽長(ハイドン)に、拠点のウィーンよりもプラハでウケてしまったちょっと微妙な若手作曲家(モーツァルト)という、それぞれのポジションもまた興味深い点で。古典派のリアルなシーンを俯瞰するおもしろさがある1枚。そして、1770年代も半ばを過ぎると、「交響曲」もすっかり様になって、聴き応えは十分!
で、そうした中で、最も気になるのが、1曲目、ヴァンハルの交響曲(track.1-4)。今となっては、ハイドン、モーツァルトには遠く及ばないけれど、かつてはまったくの逆、その交響曲はヨーロッパ中を熱狂させたらしい... そして、そのあたりを窺い知るホ短調の交響曲。古典派の"短調"の魅力に溢れ、とにかく流麗。ハイドン、モーツァルトがすばらしいことは当然なのだけれど、こうして並べて聴いてみると、ヴァンハルの洗練された響きに、当時の人気に納得。ハイドン、モーツァルトは、何か騒々しいのか?いや、それこそがシンフォニックであるということか?続く、2曲目、ハイドンの75番の交響曲(track.5-8)。有名な番号ではないけれど、ハイドンなればこそのポジティヴさに魅了される。そこに、モーツァルトの「プラハ」(track.9-11)!いやー、交響曲もとうとうここまで来ましたか、というしっかりとした聴き応え。ヴァンハル、ハイドンと来ての「プラハ」は、ホップ・ステップ・ジャンプ!とすら思えて来る。ハイドンの21番、「うかつ者」から聴いて来ると、なおさら感じてしまう。"交響曲の父"から、とうとう子が受け継ぎ、立派に「交響曲」のイメージに適う音楽を繰り広げる。もはや、そこには感慨があるなと。
という古典派、交響曲の歩みと広がりをつぶさに追う、秀美+オーケストラ・リベラ・クラシカ(以後、OLC... )のすばらしい演奏!彼らの演奏なればこそ浮かび上がるものもある。実直で、隙が無い丁寧さ... ハイ・レベルな技術に裏打ちされた縦横無尽さが生み出す粋な表情。何より、一丸となったアンサンブルは、ヨーロッパのピリオド・オーケストラとは一味違う結束感を見せ、独特。中身が詰まって、芯が硬いその響きは、個性派マエストロ百花繚乱のピリオド界に在って、それらと一線を画して軟派なところがなく、古典派の交響曲の魅力の真ん中を射抜くよう。そうしたOLCの持つ清々しさは、ある意味、日本的?前のアルバムに戻るのだけれど、「うかつ者」の4楽章(TDKAD-014, track.11)の、一糸乱れず、バーバリスティックにハンガリー風のリズミックなあたりを奏でるあたり、豪胆だけれど繊細という器用さには、ゾクゾクさせられる。派手さはないかもしれないけれど、楽しませてくれることに余念がなく、またそこに、こだわりがあって、鋭い音楽を繰り広げる。今、改めて、秀美+OLCを聴き直してみて、エキサイト!この肌寒さを吹き飛ばしてくれる。

鈴木秀美 指揮/オーケストラ・リベラ・クラシカ
ヴァンハル : 交響曲 ホ短調/ハイドン : 交響曲 第75番/モーツァルト : 交響曲 第38番 「プラハ」

ヴァンハル : 交響曲 ホ短調
ハイドン : 交響曲 第75番 ニ長調 Hob.I-75
モーツァルト : 交響曲 第38番 ニ長調 K.504 「プラハ」

鈴木 秀美/オーケストラ・リベラ・クラシカ

Arte dell'arco/TDKAD-016

4月、古典派でポジティヴになる!
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