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ハイドン兄弟。 [2005]

Komm Holder Lenz... いや、今こそ、春...
大気が緩んで、知らず知らずに心も軽くなって。多少、気温が下がっても、冬の緊張感はもうない。そんな今日この頃、アーノンクールのパリ・セットを切っ掛けに、ハイドンをよく聴く。ハイドンの時代、古典派の音楽というのは、春めいていて、とても心地良く... 「古典派」なんて、ちょっと勿体ぶった名前は付いているけれど、そもそもが屈託のない時代だったというか、ハイドンに限らず、ちょっとユルめで、何よりポジティヴで。だからなのか、21世紀の今、そうした音楽に触れると、何か癒される。以前は、モーツァルトを癒し... なんて言われると、もの凄く抵抗感があったけれど、やっぱり癒しなのかもと思えて来る、この春。どこかで、「21世紀」に疲れているのか?なんて言っていられないけれど、またハイドンを聴いてしまう。ハイドンで癒される。
さて、今回は、ちょっと視点を広げて、兄弟を聴く。って、兄にすっかり隠れてしまっているけれど、弟もまた作曲家でありまして... ザルツブルクに在って、モーツァルト家とも親交が深かったりでして... そんなハイドン兄弟、2005年にリリースされた2タイトル... まず、ロバート・キング率いるキングズ・コンソートらによる、弟、ハイドンの、大司教ジギスムントのためのレクイエムと聖ウルスラのためのミサ(hyperion/CDA 67510)。それから、ルネ・ヤーコプスの指揮、フライブルク・バロック管弦楽団による、兄、ハイドンの、91番と92番の交響曲(harmonia mundi FRANCE/HMC 901849)を聴き直す。


弟、ミヒャエル... モーツァルトにも影響を与えたレクイエム...

CDA67510.jpg
ミヒャエル・ハイドン(1737-1806)。
兄、フランツ・ヨーゼフ(1732-1809)の5つ年下で、兄とともに、ウィーンの聖シュテファン大聖堂の聖歌隊に参加し、音楽の道へ... 兄、同様、音楽の才能を開花させ、20代でザルツブルク大司教の楽長に就任(1763)。そこにいたのがモーツァルト親子。父、レオポルト(1719-87)は、ミヒャエルがザルツブルクにやって来た年に副楽長に昇進。息子、ヴォルフガング・アマデウス(1756-91)は、すでに神童としてヨーロッパ・ツアーを敢行し、各地で活躍していた。そして、ミヒャエルとモーツァルト家は、同じ宮廷に仕える同僚として親交を深めることに... さらに、ヴォルフガング・アマデウスは、ミヒャエルからいろいろ影響を受けたとのこと...
その作品よりも、モーツァルト家との親交で知られるミヒャエル。けれど、大司教ジギスムントのためのレクイエム(disc.1)を聴いてみると、なかなか興味深い。未完の傑作、モーツァルトのレクィエム(1791)に影響を与えたと言われる作品だが、なるほど!となる。モーツァルトを大いに悩ましたザルツブルク大司教、コロレド伯、ヒエロニュムス(在位 : 1772-1812)の前任者、シュラッテンバッハ伯、ジークムント3世(在位 : 1753-71)を送るこのレクイエムは、モーツァルトの20年前、1771年の作品。で、あちらこちらから、モーツァルトのレクイエムを思わせるフレーズやサウンドが聴こえて来るからおもしろい。また、そうしたデジャヴュばかりでなく、作品としての魅力もモーツァルトに負けていない!入祭唱からして印象的で、メロディックなのだけれど、ズーンと重く響く感覚がたまらない。そして、古典派ならではのキャッチーさ!葬送の悲しみをキャッチーなメロディで捉えて生まれるセンチメンタルさは、芝居掛かった19世紀のレクイエムにはないクリアな美しさを生み、より心に響く。
そして、この隠れた名曲を、節度ある古典美の中に響かせたキング+キングズ・コンソートの演奏、コーラスが、またすばらしい!感情的になって当然のシーンで、そうしたものを少し醒めた目で見つめるようで、一見、無機質な印象を受けるのだけれど、そこから、ふわっとセンチメンタルを浮かび上がらせる絶妙さに息を呑む瞬間が、度々、訪れる... オーケストラも、コーラスも、けして派手ではないけれど、楚々とした雰囲気に、さり気ない感情の動きを描き込むことが本当に上手い。いや、これこそが古典派の真骨頂のように感じる。幅広いレパートリーを持つ彼らだけれど、古典派こそ、そのセンスが活きるように感じる。聖ウルスラのミサ(disc.2)での、朗らかでやわらかなあたりは、またさらに!そこに、魅力的なソリストたちが色を添えて... それはもう、春の花畑?あーだこーだ考えず、ただその場に身をゆだねるだけでいい心地良さは、他では味わえないかも。
しかし、何と言っても、ミヒャエル再発見!ハイドンというと、どうしても、兄、フランツ・ヨーゼフとなるわけだけれど、弟、ミヒャエルも間違いなくすばらしい才能を持った作曲家であって。その作品を改めて聴いてみれば、兄やモーツァルトに劣らず魅了されてしまう。

MICHAEL HAYDN REQUIEM ・ MISSA IN HONOREM SANCTAE URSULAE
CHOIR OF THE KING'S CONSORT ・ THE KING'S CONSORT / ROBERT KING


ミヒャエル・ハイドン : 大司教ジギスムントのためのレクイエム
ミヒャエル・ハイドン : 聖ウルスラのミサ(キムーゼーのミサ)

キャロリン・サンプソン(ソプラノ)
ヒラリー・サマーズ(アルト)
ジェームズ・ギルクリスト(テノール)
ピーター・ハーヴェイ(バス)
ロバート・キング/キングズ・コンソート、同合唱団

hyperion/CDA 67510




弟を聴いて広がる視野... そこから聴く、兄、フランツ・ヨーゼフ...

HMC901849
さて、兄、ハイドンを聴くのだけれど... カウンターテナー出身の異色のマエストロ、ヤーコプスが、得意の歌モノから離れてハイドンの交響曲を指揮する!?と驚かされた1枚。初めて聴いた時の新奇さは、強く印象に残っている。そして、久々にその演奏に聴き直すのだけれど... 「時」の力は大きいなと改めて思う、あの時の新奇さは薄れ、肩に力が入らずにさらりと聴けてしまう。というより、こんなもんだったっけ?と、ちょっと拍子抜けしたり... それでも、やっぱりポジティヴで、マックスに楽しませてくれるハイドンの交響曲!
で、取り上げるのは、91番(track.1-4)と、92番、「オックスフォード」(track.6-9)。集大成、ロンドン・セット(93番から104番)の直前にあたる、ドーニ交響曲(フランスのドーニ伯爵に委嘱された90番から92番までの3つの交響曲... )からの2曲。ということで、その充実したサウンドに、改めて魅了されてしまう。そして、これが、インターナショナルに活躍した、兄、ハイドンの音楽!弟、ミヒャエルのレクイエムとミサは、すばらしかったのだけれど、改めて、兄の交響曲に戻って来ると、弟の音楽に、ザルツブルクのローカル性というものを感じてしまう。そして、兄の交響曲が、ヨーロッパ中で人気を博したことに納得... 充実したサウンドが織り成す、癖の無い輝かしさ!古典主義の時代のインターナショナル・スタイルとでも言おうか、その端正な佇まいと、洗練、ウィットも効かせて、間違いなく垢抜けている!改めて兄弟としてハイドンを聴いたことで、ローカルとインターナショナルが織り成す18世紀のヨーロッパの音楽の諸相が鮮やかに聴き取れて、興味深い。それでいて、どちらも、それぞれに魅力的なのが、また素敵。兄の洗練、弟の素朴さ... 古典派は、けして、似たり寄ったりではない。
さて、ヤーコプス、フライブルク・バロック管による演奏なのだけれど... そこはもちろん鬼才、ヤーコプスであって、随所に魅惑的な仕掛けがある。が、パリ・セットを聴いたアーノンクールのように力技でことを運ぶのではない、ヤーコプスならではの魔法掛かった不思議さで、交響曲というスタイルを膨らませて楽しませてくれる。それは、オペラ・ブッファでも観るようなおもしろさだろうか?純芸術としての「交響曲」が、何か性格を持って、活き活きと動き出すような... 「オックスフォード」(track.6-9)は、特に... で、多少、地味なはずの91番(track.1-4)もまた、さり気なく楽しい音楽に変身していて、その創意に脱帽させられる。けして無理をすることなく、常にクリアで美しい響きを保ちながら(それを実現し得る、フライブルク・バロック管の縦横無尽なパフォーマンス!)、よりおもしろいものを見せてくれるヤーコプス。歌モノばかりではないなと再確認させられる。
が、しかし、ヤーコプスの音楽性というのは、歌モノでもの凄い威力を放つ!改めて思い知らされる、2つの交響曲に挟まれて歌われるベレニーチェのシェーナ(track.5)。メッゾ・ソプラノのベテラン、フィンクの歌も見事なのだけれど、フライブルク・バロック管を巧みにドライヴして、緊張感の漲る息衝くドラマを紡ぎ出すヤーコプスの音楽性は、なかなか他には探せない。

NIKOLAUS HARNONCOURT WALZER REVOLUTION

ハイドン : 交響曲 第91番 変ホ長調 Hob.I-91
ハイドン : ベレニーチェのシェーナ Hob.XXIVa-10 *
ハイドン : 交響曲 第92番 ト長調 Hob.I-92 「オックスフォード」

ルネ・ヤーコプス/フライブルク・バロック管弦楽団
ベルナルダ・フィンク(メッゾ・ソプラノ) *

harmonia mundi FRANCE/HMC 901849




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