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古典派からロマン主義へ、華麗に踏み出される一歩、フンメル! [2012]

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激動の時代というのは、音楽もテンションが高かったりする?
アントニーニのベートーヴェンの交響曲を聴いて、ふとそんなことを考える(もちろん、アントニーニ自身のテンションも考慮しなくてはならないのだけれど... )。ちょうどベートーヴェンが活躍した頃、フランス革命がカオスに陥り、輝かしき共和制の果てに、ベートーヴェンを幻滅させた帝政が出現。その皇帝によって、ヨーロッパ中が戦争に引き摺り込まれ... そんな、古典派からロマン主義へとうつろう頃、激動の時代の空気感の中、生まれた音楽は、何か、テンションが高いように感じる。音楽もまた、時代の壁を乗り越えるには、テンションが必要だったか... 「過渡期」という言葉には、それが不安定な状態であるがゆえに、弱さのようなものをイメージさせるのだけれど、改めて見つめてみると、新たな時代を手繰り寄せようという力強さに溢れているのかもしれない。
ということで、古典派からロマン主義へとギアを入れた作曲家、ピアニストとしてベートーヴェンと人気を二分したフンメル!アレッサンドロ・コンメラートの弾くピリオドのピアノで、BRILLIANT CLASSICSのフンメル担当、ディディエ・タルパンの指揮、スロヴァキアのピリオド・オーケストラ、ソラメンテ・ナトゥラーリの演奏による、フンメルのピアノ協奏曲集(BRILLIANT CLASSICS/BRL 94338)を聴く。

1曲目、2番のピアノ協奏曲(track.1-3)、その1楽章の堂々たるオーケストラの序奏を聴いて、おおっ?!となる... 古典派の端正さを脱した、歌謡性たっぷりのメロディと、ゴージャスなサウンドに、まさにロマン主義を実感。そこに、ショパンのコンチェルトを聴くような感覚がはっきりとあるから興味深い... で、長大なる序奏の後で、ピアノがしっとりと歌い出せば、なおさらにショパン!実は、フンメルのピアノ協奏曲を初めて聴いたのだけれど、ショパンのコンチェルトのデジャ・ヴュを見せられたような感じがして、何だか不思議。
ベートーヴェン(1770-1827)は叶わなかったモーツァルト(1756-91)の弟子となり、ハイドン(1732-1809)の推薦で、その後継者としてエステルハージ侯爵家の楽長も務めたフンメル。その出発点は、古典派の最も爛熟した場所であったわけだけれど、そこから新たな時代へと踏み出して行って... こうして、2番のピアノ協奏曲を聴いてみると、その踏み出した歩幅は、ベートーヴェン以上に先へと伸びていたように感じる。それは、ショパンが本格的にピアノを習い始めた頃、1816年に作曲されたとのこと。ショパンの最初のコンチェルト(1829)は、まだ随分と先だ。となると、19世紀、華麗なるヴィルトゥオーゾの時代に先鞭を付けたピアニストとして、ショパン(1810-49)やリスト(1811-86)たちに大きな影響を与えたフンメルという位置付けに、今さらながら納得。
その一方で、2楽章(track.2)では、ベートーヴェンのコンチェルトを思わせて... モーツァルトの延長線上にある古典派的なトーンが、緩叙楽章を美しく彩り、大いに魅了される。で、この、古典派とロマン主義を行き来するフレキシブルさが、フンメルの魅力か... 続く、終楽章(track.3)では、またショパン調のメロディが戻って来て、この切り返しが印象的で。かと思うと、厳めしいフーガが登場して、古典派としての「古典」とはまた違う、ロマン主義における古典復興のアカデミックな気分も漂い、ブラームスを予兆させる瞬間も。そうしたあたりを俯瞰してみると、時代をつなぐフンメルという存在が浮かび上がり、また興味深い。2曲目、マンドリン協奏曲をピアノ用にアレンジしたピアノとオーケストラのためのコンチェルティーノ(track.4-6)は、オリジナルが1799年の作曲ということもあって、モーツァルトを思わせる、愛らしい作品で。最後の、ピアノとオーケストラのための序奏とロンド・ブリランテ「ロンドンからの帰還」(track.7, 8)は、すでにショパンがブレイクしていた晩年の作品(1830)ということで、まさに華麗なるヴィルトゥオーゾの時代、キラキラとしたピアニストの妙技を、たっぷりと楽しませてくれる。何より、その幅... 古典派からロマン主義まで、巧みに網羅し切るフンメルの器用さに、感心させられたり...
そうした幅を、縦横無尽に聴かせてくれるコンメラートのピアノが、また魅力的!ピリオドのピアノ(1825年製、ベーム/1837年製、プレイエル)の、残響の少ないパラパラとした響きを最大限に生かし、クリアな演奏を繰り広げる。そのクリアさに、古典派の端正さ、初期のロマン主義のキラキラとした輝きを散りばめて、軽やかに仕上げる。すると、ヴィルトゥオージティ溢れるその音楽の華麗さが、より際立つようで。その華麗さが、また心地良く、魅了されずにいられない。そこに、今やフンメルのスペシャリスト、タルパンの指揮、ソラメンテ・ナトゥラーリの見事な演奏があって... ワールド・ミュージックと古楽を行き来する、鬼才、ヴァレント(コンサート・マスター)が創設したピリオド・オーケストラだけに、他のピリオド・オーケストラにはない温度感... 独特の熱っぽさが印象的で。一音一音が湧き立ち、音楽がスケール感を増し、息衝いて、よりアグレッシヴに聴こえて来る。すると、激動の時代のテンションが、フンメルのコンチェルトからも聴こえて来て、のっけから惹き込まれる。そうして生まれるポジティヴ感!コンメラートも含めて、彼らの演奏に触れていると、何だかワクワクさせられてしまう。で、このフンメルのピアノ協奏曲集、vol.1ということで、早速、次が楽しみになってしまう!

HUMMEL PIANO CONCERTOS ― VOLUME 1
ALESSANDRO COMMELLATO ・ DIDIER TALPAIN


フンメル : ピアノ協奏曲 第2番 イ短調 Op.85
フンメル : ピアノとオーケストラのためのコンチェルティーノ ト長調 Op.73
フンメル : ピアノとオーケストラのための序奏とロンド・ブリランテ ヘ短調 Op.127 「ロンドンからの帰還」

アレッサンドロ・コンメラート(ピアノ : 1825年製、ベーム/1837年製、プレイエル)
ディディエ・タルパン/ソラメンテ・ナトゥラーリ

BRILLIANT CLASSICS/BRL 94338




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