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呼び覚ます、グレゴリオ聖歌以前... モサラベ聖歌... [2012]

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始まりを辿れば、際限は無いのかもしれない...
ビッグバンは宇宙の始まりだけれど、何がビッグバンを引き起こしたのか?これほどの「始まり」は他に無いものの、その始まりすら、まだ遡れる余地がある。となれば、クラシックの始まり、西洋音楽の"源"としてのグレゴリオ聖歌などは、通過点に過ぎないのかもしれない。かつて、グレゴリオ・パニアグアは、大胆に遡って、古代ギリシアの音楽を再現し、古楽の世界に伝説を残したけれど、西洋文明の揺籃の地、古代ギリシアの音楽とグレゴリオ聖歌も、どこかでつながるのか?古ローマ聖歌の、あのオーガニックな感覚は、間違いなく地中海文化圏に育まれたものであろうから、古代ギリシアも、その要素のひとつとなっているかもしれない。が、グレゴリオ聖歌の直前すら未だはっきりとはわからない。記譜が確立される以前の音楽の難しさ。解決できるのは、タイム・マシーンの開発を待たなくてはいけないのだろう... しかし、どんなだったろう?イマジネーションを掻き立てられる!
そして、古楽界切ってのイマジネーションを持つ?パニアグア家から、弟、エドゥアルド率いる、スペインの古楽アンサンブル、ムジカ・アンティグアによる"CANTO VISIGÓTICO-MOZÁRABE"(PNEUMA/PN-1270)。中世前半のイベリア半島において、グレゴリオ聖歌よりも古い歴史を誇り、またイスラム支配下でも歌い継がれた、モサラベ聖歌にスポットを当てるアルバムを聴く。

どんどん深みにはまっている感じがするのだけれど...
って、3月、源流を目指して、とんでもないところに辿り着いてしまった、モサラベ聖歌。「モサラベ」とは、イベリア半島におけるイスラム勢力支配下(711-1492)のキリスト教徒、とのこと(wikiに詳しくあります!)。で、アラビア語で、アラブ化した... という意味の「ムスタウリブ」が訛ったものらしい。なものだから、モサラベ聖歌というと、漠然と、アラブ風なキリスト教の聖歌?くらいに思っていたのだけれど(イベリア半島の中世の音楽に欠かせない、カンティーガのエスニックさを思い起こせば... )、よくよく調べてみれば、まったくの間違いだと知る。それは、イスラム勢力のイベリア半島進出以前から歌われていた古い聖歌で、イスラム勢力により滅ぼされた西ゴート王国(415-711)の伝統(633年、第4回トレド教会会議において定められた、イベリア半島とガリアにおける典礼の統一に基づく... )を受け継ぐもの... ということで、想像していたエスニック?な聖歌でなかったことに、ちょっと肩透かしを喰らった気もしないでもないのだけれど。しかし、西ゴート!それは、ゲルマン民族大移動の痕跡というか、古代から中世への過渡期、今のヨーロッパの状景とはあまりにかけ離れていて、下手すると、古代ギリシアより遠くに感じてしまう(もちろん、古代ギリシアの方がずっと古い... )。そして、遠かった、モサラベ聖歌。
エドゥアルド・パニアグアの個性も、もちろんある... というより、それは強烈なわけだけれど、とにかく、もの凄い距離を感じる"CANTO VISIGÓTICO-MOZÁRABE"。このアルバムから聴こえて来るモサラベ聖歌のトーンというのは、生半可なものではない。古楽というのは、遡れば遡るほど、どこか似たようなものになりがちなところがあるけれど、モサラベ聖歌は何かが違う... 例えば、"Gloria"(track.4)、そのはじまりのアブストラクトな鐘の音の連なりは、ニューエイジ的な雰囲気を漂わせて。もちろん、グレゴリオ聖歌以前のはずだけれど、21世紀から想像できるアルカイックさを越えてしまっているのか、古いんだか、新しいんだか、よくわからなくない?まるで異次元にでも迷い込んだかのよう(エドゥアルド・パニアグア流、モサラベ聖歌と解釈すべき?)。その鐘を背景に歌われるメロディは、グレゴリオ聖歌にそう遠いものではないのだけれど、異次元な鐘の音に包まれて、浮かび上がる姿は、現代のキリスト教からはイメージできないような、呪術的な気分すら孕んでいて、奇っ怪?
とにかく、1曲、1曲が、凄いインパクトを放っている。グレゴリオ聖歌との近似性を感じながらも、グレゴリオ聖歌では絶対に味わえないインパクト... それは、古ローマ聖歌のような、ある意味、分かり易いオーガニックなサウンドとも違う、エキセントリックにすら感じる、突き抜けたアルカイックさで。まるで、遠い宇宙から降って来たかのような異質さを感じてしまう。そして、そういうモサラベ聖歌を生み出し得た、エドゥアルト・パニアグア+ムジカ・アンティグアの再創造性に感服させられる。いつものムジカ・アンティグアならば、エスニックに濃い味付けで、非ヨーロッパ的な側面から古楽を楽しませてくれるのだけれど、"CANTO VISIGÓTICO-MOZÁRABE"では、渋過ぎるほどの古楽器の響きから紡ぎ出す、中世ならではのストイックなサウンドに、何か時間の箍が外れているような、異様とも言える空気感を醸していて、ただならない。そこに、カンティーガのシリーズには欠かせない歌い手のひとり、カラーソの、アラベスクが滲むソフトな歌声が乗って、アラブ化した... の、モサラベ感もわずかに漂い。一言では表し難いものになる。何なのだろう?この感覚。これこそが、グレゴリオ聖歌以前の未踏の領域?
モサラベ聖歌、初体験だった耳には、衝撃的。居心地の悪さすら覚えてしまう、異質感。だけれど、そういう音楽に、ガツンと一発やられて、音楽への認識が、引き締まった気さえするから凄い。普段、耳にしているクラシックが、如何に華やかで、サービス精神に溢れていることか!一方で、エドゥアルト・パニアグアが呼び覚ました音楽というのは、聴く者を、一切、甘やかさず、それでいて、知らず知らずに自由を奪うような、慄きがある。いや、とんでもないものを21世紀に呼び覚ましてしまったのかも...

CANTO VISIGÓTICO-MOZÁRABE ・ EDUARDO PANIAGUA

Pacem Meam
Surgam Et Ibo
Gustate Et Videte
Gloria
Lamentación de Jeremías Lección I De jueves Santo
Lamentación de Jeremías Lección I de Viernes Santo
Oración de Jeremías, Sábado Santo
Campanas de Ritual
Fac Cum Servis Tuis
Per Gloriam
マギステル・アルベルトゥス・パリジェンシス : コンドゥクトゥス "Congaudeant catholici" 〔カリクスティヌス写本 12世紀〕

エドゥアルト・パニアグア/ムジカ・アンティグア

PNEUMA/PN-1270

3月、源流を目指して...
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