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"CHANT WARS"、綯われて、グレゴリオ聖歌... [2005]

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グレゴリオ聖歌へと行き着けば、もうその先は...
無いのかというと、けしてそんなことはない。でもって、今、最も興味があるのが、如何にしてグレゴリオ聖歌は生まれたのかということ。で、図書館に行って、いろいろ本を探してみるのだけれど、グレゴリオ聖歌そのものについては、本当に詳しく書かれているのに、それがどんな風に成立したかについては、今一、ピンと来ないままで... 結局のところ、よくわかっていないということに尽きるのか?けれど、ぼんやりとはわかりつつある。キリスト教が公認され、国教化され、ヨーロッパ各地に広がり、各地にローカルな聖歌が生まれ、それらが次第にアルプスの北のセンスを以ってひとつにまとめられたらしい?グレゴリオ聖歌を編纂したと伝えられて来た、ローマ教皇、グレゴリウス1世(在位 : 590-604)の存在は、随分と薄くなり、より一筋縄には行かない、グレゴリオ聖歌成立史というものが浮かび上がりつつある。一筋ではない、いく筋もが綯われて生まれた、グレゴリオ聖歌。
そして、音楽史を遡って来て、辿り着いた"源"の、その"源"となるあたりを聴いてみたい!ということで、2005年にリリースされた、古楽界切っての2つのアンサンブル、セクエンツァ、ディアロゴスによるジョイント、"CHANT WARS"(deutsche harmonia mundi/82876 66650 2)。その「ウォーズ」なあたりが気になる... いや、グレゴリオ聖歌、成立の過程は、文化戦争だった?

グレゴリオ聖歌の成立について、いくつかの本をパラパラしながら、ちょこっと調べてみて、まず気になったのが、グレゴリオ聖歌とは別のものとして、古ローマ聖歌が存在すること。そのものずばり、古い、ローマの聖歌ということなのだけれど... それが、グレゴリオ聖歌の前段階だったならば、何の問題もなく呑み込めたのだろうけれど、古ローマ聖歌は、グレゴリオ聖歌よりも古く、またグレゴリオ聖歌が成立してからも、ずっとローマで歌い継がれていたというから、わからなくなる。つまり、ローマで歌われる聖歌は、ガラパゴス状態だった?「ローマ教会」として知るその組織ではあるけれど、聖歌に関しては、必ずしもローマが主導していたわけではない?で、"グレゴリオ聖歌"というひとつの体系を構築したのが、カロリング朝のフランク王国だったらしい...
総本山、ローマの、由緒ある古ローマ聖歌をベースにしつつも、その当時のあらゆるものの最先端にあった東ローマ=ビザンツ=ギリシア世界のスタイルにも貪欲に興味を示しつつ、ゲルマンの血を引くフランクのセンス、あるいは地中海文化圏に負けない歴史を誇るガリア=ケルトのセンスでまとめられたのがグレゴリオ聖歌... そんな感じ?となると、現代に先んじて汎ヨーロッパな性格を持たされたのがグレゴリオ聖歌か... そして、汎ヨーロッパという性格が、今も昔も、極めて人工的なものでもあって。そこにある種の戦略が隠されていて。だからこそ、西洋音楽の"源"に成り得たのだろう。音楽の場合、ローマではなく、グレゴリオへと通じるわけだ。

と、前置きが長くなってしまったけれど、そのグレゴリオ聖歌が成立するにあたっての文化戦争?を紐解くのが、"CHANT WARS"。けして、聖歌の対バンではありません。『スター・ウォーズ』みたいなタイトルが、かなり「キラキラ」しているのだけれど、至って真面目に、アルプスの北と南の文化の駆け引きを丁寧に綴る。で、ひとつに綯われて、グレゴリオ聖歌へと至る道程を5つのパートで構成。まず、始まりの「グレゴリオ聖歌の神話」の、大聖堂に響きわたるような壮麗なグレゴリオ聖歌に耳が奪われる!この清々しさたるや!そして、この響きが如何にして生まれたのか... ということで、グレゴリオ聖歌以前のローマ(track.2, 3)とガリア(track.4)の聖歌の痕跡を並べて、アルプスの北と南の違いを聴かせる... とはいえ、同じ宗教の同じ祈りであるわけで、ワーグナーとヴェルディほどの違いが浮かび上がるわけではないけれど、地中海文化圏のオーガニックなトーン(これがまた、艶っぽく、熱っぽく歌い上げて、聴き惚れる!)を含んだローマに対して、我々の持つグレゴリオ聖歌のイメージに近いガリア... すでに興味深い対立軸が聴き取れる。そこから、ザンクト・ガレン修道院(カロリング家との縁のあるスイスにある世界遺産... でもって、中世の写本の所蔵で有名... その中に、最初期のグレゴリオ聖歌の楽譜も... )に残るゲルマン風の聖歌(track.5, 6)を聴くのだけれど、その朴訥としていて、ストイックな雰囲気は、よりグレゴリオ聖歌へと近付くのか... ローマの聖歌とは距離を感じ、追いやられるローマン・スタイルを垣間見るよう...
そうして、グレゴリオ聖歌が誕生する!そのグっと洗練された響きに、おおっ!?となる。その最初、ギリシア由来のアレルヤ(track.7)の、何ともアンビエントなドローンの心地良さ!ドローンが流れるあたりが、東方的ではあるのだけれど、それはアルプスの北のセンスでしっかりと洗われていて、まるで高原に漂う朝靄のよう。何より、ギリシア(最先端であったビザンチン)からゲルマン(民族大移動でもたらされたセンス、ヨーロッパの盟主へと飛躍したフランク王国のセンス)、ガリア(ケルト由来のアルプスの北に古くからあるセンス)と、良いとこ取りで。それらをひとつにするために、巧みにそれぞれの癖を取り払って、ボーダーレスな規格を作り出す。カロリング朝、フランク王国の絶頂期を築き、西ローマの帝冠までも得たカール大帝(在位 : 768-814)の、西ヨーロッパに君臨するためのしたたかな戦略がそこに見て取れるよう。それがまた、現代のグローバル経済におけるゲームの仕方と重なるようで、おもしろい!で、メイド・イン・ジャパンは、古ローマ聖歌と符合するから、何だか痛くもあるのだけれど... 意外と、グローバリゼーションの時代をサヴァイヴするヒントは、グレゴリオ聖歌にあるのかも。
さて、最後、5つ目のパートでは、文化戦争で勝利したカール大帝の高らかな勝利宣言にも聴こえる、"Laudate Dominum"(track.10)で始まり、その威風堂々たるコーラスに圧倒される!プリミティヴですらあった各地の聖歌が、とうとうひとつに綯われて、大聖堂に鳴り響く風格を獲得した輝かしさたるや!一転、カール大帝の死に寄せるラメント(track.11)が、リラの伴奏で歌われるのだけれど。チャントのウォーズを徹底して聴いて来た後に、このやさしさに満ちたラメントにはヤラれてしまう。何という美しさ!ひとの声ではないリラの響きの新鮮さ!ここまでの聖歌にはなかった甘美さは、"CHANT WARS"の終戦を告げるのか。こういう流れが、たまらなく絶妙!いや、"CHANT WARS"は、グレゴリオ聖歌成立史を丁寧に追いながらも、それを見事な歴史ドラマとして見せてくれる。その力強く、雄弁な物語に、思い掛けなく、強く惹き付けられてしまう。
そして、それは、まさに「声」の魅力の賜物。古楽界切っての2つのアンサンブル、セクエンツァ、ディアロゴスによるジョイントの、よりパワフルさと存在感を倍増させた声のアンサンブルは、息を呑む。気取りのない真っ直ぐな声の気持ち良さ!男声のパワフルさが生むフレッシュさに、目が覚める思い。そして、その声だけで勝負して、ウォーズを繰り広げる度量というのか、混声では生み出し得ない感覚に、ちょっとクラクラしてしまう。何か、こう、フェロモン出てる?というより、これが、グレゴリアン・マジック?カール大帝の術中にはまった?ヨーロッパ中がはまったように... 恐るべし、"CHANT WARS"...

CHANT WARS
SEQUENTIA ・ DIALOGOS

- グレゴリオ聖歌の神話 -
Gregorius praesul (trope: Prologus antiphonarii)
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- ローマとガリアにおける口伝の聖歌の痕跡 -
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Ad dominum dum tribularer (gradual: Roman 'schola chant')
In convertendo dominus (Roman responsorial psalmody)
Venite, populi
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- ゲルマンの声 -
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Domine, exaudi orationem meam (tractus from St. Gall)
Natus ante saecula (sequence by Notker of St. Gall)
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- 新しいローマの聖歌の慣習 -
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Alleluia: Prosechete laos (Alleluia in Greek)
Saepe expugnaverunt (tractus)
Deus enim firmavit (offertorium)
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- フランクの写本と記憶による聖歌 -
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Laudate Dominum (psalmody 'alleluiaticum')
A solis ortu usque ad occidua (lament on the death of Charlemagne, †814)
Collegerunt pontifices (processional antiphon)
Christus vincit (Laudes regiae: acclamations for the emperor)

セクエンツァ
ディアロゴス

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3月、源流を目指して...
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